第20話「三方レオ-2」
化け物は3メートルほどの巨体に白い体毛を生やし、狐に似ているが顔には6つの赤い目と鋭い牙がついている。
こんなものは今までフィクションであるアニメや漫画でしか見たことがない。
それが現実に存在しているだなんて、いざ目の前にしても信じることが出来なかった。
「ガキが帰ってきたか、やはり待って正解だった。家族写真でもう一人いるのは分かってたからな。」
化け物は人間の言葉を扱えるようだった、僕は泣きながら問いかける。
「な、なんでこんなことをしたんだ!!!お前は何者なんだ!!!」
すると化け物は目を丸くした。
「ガキ、お前は俺の声が聞こえるのか、俺の姿が見えるのか・・・!」
そして満面の笑みを浮かべて続けた。
「こりゃあ最高だ!!!ハハハ!!!まさかこんなところで遭遇できるとは夢にも思わなかったぜ!!!
お前はどうやら霊感がかなり強いようだ!!!誇れ!!!お前は人間達の中で相当レアだ!!!フハハハハハ!!!」
「それはどういうこと!?霊感って何さ!?」
「俺様は優しいからなあ・・・お前の疑問に全部答えてやるぜ。冥途の土産にでもするんだな!!!
あっ、メイドつっても、メイドさんのことじゃねえからな。アハハハハハ!!!」
僕の心は恐怖心で埋め尽くされ一人盛り上がる化け物に対して何も言葉が出なかった。
「俺は怪異と呼ばれている存在だ。ガキに分かる言葉で言い換えるならお化けのことだな。
お化けっていうのは普通の人間には見えないから色々とやりたい放題できるぜ?
そしてお前の親を食ったのは単純に旨いからだ。お前だって好物を腹いっぱい食べるのは好きだろ?
まあ安心しなって、お前らガキ共もすぐに親のいる地獄に連れて行ってやるからよ。」
その言葉を聞いて僕は急いで妹の寝ているベビーベットの前に立った。
「やめろ!!!レイには手を出させないぞ!!!」
僕はランシーから教わった拳法の構えをとる。
「レイっていうのはその赤ん坊の名前か?
ヒュー!!!下の兄弟を守ろうとするなんてカッコイイぜお兄ちゃん!!!
俺にも年の離れた妹がいるから、その気持ちは良く分かる。」
化け物は両手を叩いて拍手する。
「ま、無駄なんだけどな。」
ドン
軽々と振りあげた化け物の右腕に、僕は吹き飛ばされる。
壁に叩きつけられ、あまりの痛みに僕は立ち上がることが出来なかった。
「おい、起きろガキ。」
化け物は妹の右足首を掴み、吊し上げて、激しく振った。
「オギャアアアアアアアアアア!!!」
目覚めた妹は大きな声をあげて泣いた。
クンクン
ペロリ
化け物は妹の匂いを嗅ぎ、脇を舐め上げた。
「良いね。赤ん坊は確か1週間振りだ。」
そして、
ガブッ
バリッボリッ
「アギャアアアアアアアアアア!!!」
化け物は妹の左腕を食いちぎった。辺り一帯が血に染まる。
「やめろおおおおおおおおおお!!!」
僕は痛みをこらえて必死に起き上がろうとする。
「あーん。」
バリッボリッバリッボリッ
化け物は僕の叫びなど気にも留めず、大きく口を開けて妹を丸呑みした。
「あ・・・ああ・・・」
「やっぱ内臓が俺一番好きだな。さて、ここからがメインディッシュだぜ。
お前は俺の姿が見えるほどに霊感が強いからな。
霊感というのは俺ら怪異を感じる力のことで、これが強ければ強いほど人間は旨いんだ。
お前は滅茶苦茶期待出来る。」
「ふざけるな!!!僕はお前を絶対に許さない!!!」
「おいおい・・・お前まだ立ち上がれるのか・・・すごすぎだろ・・・
俺の見立てでは骨が3本ぐらいは逝ってるはずだぜ?
そんなに家族が死んだのが悲しいのか、幸せなことだな。
まあまあ、そう怒るなって、お前と家族との別れは今だけの一瞬だろ。俺がすぐに再会させてやるからさあ。」
化け物が近づき腕を振り上げる。その時だった。
ダッ
「それ以上はさせるか!!!」
突然現れた男が僕を庇って化け物の打撃を受けた。
「チッ・・・誰だよお前。まあ俺の邪魔をするってことは組織の犬だろうな。」
「田中よ、貴様は一度は人として生きる道を選び、少し前までは社会の一員として暮らしてきたのではないのか?
なぜ落ちるところまで落ちた?」
男は化け物のことを田中と呼んだ。その禍々しい姿には似合わない普通の名字だ。
「へぇ~俺の名前を知ってるなんて、俺も有名になったもんだな。
まあここまであそこまで暴れ回ったら当然バレるか。それはどうでもいい。
それよりお前今何て言った。『落ちるところまで落ちた』だと!?いや違うだろ、むしろ逆だろ。
俺はな、人間の上に立ったんだよ!!!」
「お前は何を言っている。」
「人として生きる道を選んだのは俺が自分の強さを知らなかったからだ。
当時の俺はお前ら組織の討伐対象になればもう生きていけないと思ってた。
だからこそ奨学金返済に追われ毎日薄給長時間労働のクソみたいな日常にも耐えてたんだよ。
そしたら職場の奴らがは俺が何も言わないことを良い事に日に日に付け上がりやがってさ。
流石の俺も我慢の限界が来たって訳。
当然、組織の奴らが駆けつけてきた時は俺の人生終わったって思ったけど、
いざ戦ってみたらボロ勝ちで、俺滅茶苦茶強いじゃんってなった。
人間とかいう俺を怒らせたら塵一つ無く消え去っちまうようなに存在に媚びてるのが一気に馬鹿らしくなったわ。
お前らが俺らの顔色を伺うべきなんだよ。
怪異とは人間より強い種族なんだから、扱いもそれ相応の特権階級にするべきだ。」
「少しばかり人間より力が強いからと図に乗るな。
怒りに任せてただただ暴れ回る存在などただの害獣だ。お前は駆除する。」
男はそう言い放つと、自分自身の姿を変化させた。その姿は狼に似ているが化け物同様に異形の姿だ。
「は?お前も同族かよ!?怪異なのに人間の下でこき使われてるとか馬鹿じゃねーの?この裏切り物が!!!」
「裏切り者はお前であろう。
貴様の存在は人間達だけではなく人間として生きている怪異にも迷惑をかけているということが分からないのか?
怪異の存在は公表されてはいないが、裏でその存在を知っている人間はいくらでもいる。
彼らは貴様が事件を起こすたびにお前だけではなく怪異というそのものに存在に悪印象を抱く。
そして彼らは社会を牛耳っている存在だ。ここまで言えば私が何を言いたいか分かるだろう。」
「要するにそいつらに裏で手を回されて怪異は就職とか結婚で不利になるって言いたいのか!?
そんなの知らねえよ!!!雑魚共にいいようにされてる自分が悪いんだろ!!!
いいか?賢い怪異ってのは皆邪魔な奴らは力でねじ伏せて欲しいものを手に入れるんだよ!!!この馬鹿が!!!」
「馬鹿はお前だ。貴様は何も分かっていない。」
男が構えをとる。
「偉そうに講釈垂れやがって!!!ぶっ殺してやる!!!」
化け物は男に攻撃を入れようと駆け出した。しかし、
「えっ?嘘だろ!?」
一瞬で化け物は組み伏せられ、身動きが取れなくなった。
「どうして俺がボコられてんだよ!?ふざけんな!!!」
「貴様は力に溺れすぎだ、この愚か者め。」
「あああああああああああああ!!!」
あまりにも呆気なく化け物は息絶える。その瞬間に化け物は異形から普通の人間へと姿を変えた。
その死体は田中という名前に相応しい平凡な青年の姿だった。
化け物の死亡確認を終えて、男は僕の方へと歩み寄る。
「もう大丈夫だ。」
男は自分に出せる精いっぱいの優しい声でそう言った。
「私がもっと早くに来ていれば君の家族は死なずに済んだ。申し訳ない。恨みつらみは私がいくらでも引き受ける。」
男は僕に頭を下げた。
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