第21話「三方レオ-3」
◇
化け物が倒されたそれから後の記憶はあまり残っていない。
覚えているのは重装備に身を包んだあの男の仲間と思わしき人たちがずらりと現れて、
僕は傷の応急処置を施され担架で運ばれ車に乗せられたことと、その途中で意識を失ったことくらいだ。
次に目覚めた時僕は病室らしき真っ白な部屋のベットの上だった。
大人達が何人も前に立っていて、その中で一番若くて優しそうな女の人が僕に当時の状況を聞いてきた。
その時に怪異についても話してくれた。
お化けだのUMAだのそういったオカルトな存在はこの世界に実在しており、それらを一括りに怪異と呼ばれているらしい。
そして怪異も一枚岩とはいかず人々を襲う害悪な存在や、逆に人間に交じって社会の一員として生活する存在で分かれており。
前者と討伐し、後者を支援する組織が国家の下、古くから秘密裏に運営されているということだった。
全てを失った僕にこれからに関しての2つの選択肢が与えられた。
1つ目は怪異に関する記憶を全て消去され、祖父母に引き取られて過ごすこと。
表向きに僕の家族は通り魔に殺害され、通り魔は警官に射殺されたことになっているらしい。
そして2つ目は、組織の一員となること。
組織の存在は公表されていないので、隊員の多くは被害者やその遺族が占めているそうだ。
僕は迷わなかった。
何度も考え直すように言われたが、僕は考えを曲げることはなかった。
組織に入り怪異と戦う、あの日僕はそう決意した。
何もせずに家族を理不尽に奪われた悲しみと生きていくなんて僕には出来なかった。
◇
組織に入ったといってもいきなり戦わせられる訳ではない。
僕はまだ6歳の何も出来ない子供だったのだから当然だろう。
一般的な子供が友達と遊んでいる裏で僕は精神的なケアを受けながら訓練と勉学の毎日を送った。
命が懸かっている訳だから決して訓練も甘いものではなかったけれど、弱音を吐いたことは一度も無い。
11歳の頃には初めて任務に駆り出された。この業界では常に人手不足が付きまとっているから学徒動員は日常茶飯事だ。
任務では同じ釜の飯を食べた隊員が犠牲になることも何回もあったけれど、この立場から逃げ出したいとは思わなかった。
むしろその度に募った憎しみが僕を動かす原動力となった。僕はいつの間にか憎悪で動く機械になってしまったらしい。
任務では後悔の残る働きしか出来ず常に思い悩む日々であったけれど、それとは裏腹に組織内での僕の評価は上がっていき、
中学卒業のタイミングで僕は小隊の隊長を任されることとなった。
これは組織に所属している怪異でない人間としては歴代でも最年少とのことらしい。
「中学卒業、及び小隊長就任おめでとう。素晴らしい成長だ。
人を率いる立場に立ち色々大変なこともあるだろうがお前ならその責任を果たせると私は信じている。
これからも精進してくれ。」
「はっ!ありがとうございます!!!長官!!!」
僕は長官に敬礼した。長官とはあの時僕を助けてくれた男だ。
「さて任務の話に入るが、今回の任務は護衛及び指定範囲内のパトロールだ。」
「なるほど、今回の任務は数年単位の長期的なものになりそうですね。」
「ああ、その通りだ。
資料にもある通り護衛対象はこの春から京野高等学校に入学予定の鈴木仁成。
彼は一般家庭で生まれ育ち、家族構成は両親と妹、これといって特筆すべき点のない普通の人間だ。
ある1点を除いてな・・・」
「怪異を引き寄せる体質ですか・・・」
「ああ、日に日に彼のその力は強くなっていて事件に巻き込まれる頻度も増えている。
そのため彼には警備を常設する必要があると決定された。
お前もこの春から京野高等学校に部下2名と共に生徒として潜入し、彼に知られることなく彼やその周辺を守ってもらいたい。」
「分かりました。全力を尽くして護衛対象の日常を守り抜きます。」
◇
春となり桜の花びらが舞う中新しい生活に期待を寄せる新入生達、鈴木ヒトナリもその一人だった。
彼とは同じクラスになるようにされていると聞いているが、一応念を入れてクラス表を確認しておく。
するとそこにあった名前に僕は思わずドキッとしてしまった。
「謝藍汐・・・」
ランシーがこの学校にいる・・・
考えてみればこの京野高校は昔小学生の頃住んでいた地域にある訳なのだから、ランシーが進学先に選んでいてもおかしくはない。
僕も普通に育っていれば、任務関係なく普通にこの学校の生徒になっていたことだろう。
入学式にて校長が話している中、僕は護衛対象の鈴木ヒトナリに視線を向ける。暢気なことに鈴木ヒトナリは寝ていた。
ランシーは鈴木ヒトナリの隣に座っていたので嫌でも視界に入ってきた。
出来る限り意識しないようにしたが、それは難しかった。
9年ぶりであろうか・・・久しぶりに見たランシーの顔は綺麗だった。
もとより可愛らしい顔つきではあったが昔はヤンチャさが顔に出ていた、
年月が流れて今のランシーは外見を見る限り落ち着いていて美人という言葉が誰よりも似合う。
◇
入学式が終わると教室でホームルームを行われた。
「皆初めまして!!!今日から君たちの1年A組の担任になる体育の綱田英吾だ!!!
見ての通り先生は筋肉には自信があるぞ!!!学生時代にラグビーで鍛えたからな!!!
今も休みの日は欠かさずジムに通って筋トレしてるぞ!!!」
担任は大柄で若い男だった。いかにも熱血教師といった感じで張り切って声を上げている。
「先生の目標はこのクラスの全員が仲良しになることだ!
その為の第一歩としてまずは全員が全員の顔と名前を覚えるために自己紹介をしてもらおうと思っている。
出席番号順で名前と趣味を言ってくれ。それじゃあまずは在原から頼むぞ!」
「うっす。」
在原崇が起立し、長い髪を整える。
「出席番号1番、在原タカシです。趣味はギターで弾き語りをすることです。歌には結構自信ありますよ。」
「おお!それはすごいな!!!今ここで一曲歌ってみてくれないか。」
「いいっすよ。何が良いですかね・・・じゃあ今CMで死ぬほど流れてるあの曲にしときますか。」
ヒューパチパチパチパチ
今話題のヒット曲を歌い終えた在原タカシは拍手の嵐に包まれた。
「滅茶苦茶上手かったぞ在原!!!プロになれるんじゃないか!!!」
「褒めすぎっすよ先生。」
クラス中の称賛を受け在原タカシは口角を上げてすっかり浮かれている。僕はそれを冷めた目で眺めていた。
「出席番号2番、内浦クレナよ!趣味は食べることかな~お腹いっぱいになれば幸せじゃない。」
「それは良いな!先生もよく食べるぞ。内浦の一番好きなものはなんだ?」
「うーん選びきれないですけど・・・、今思いついたのはマヨネーズです!!!」
クラスメイト達の自己紹介は続いていくが、僕には全く興味関心が無かった。
僕は楽しい学園生活を送る為にこの学校に来ている訳ではないのだから、対して任務の役にも立たない情報はノイズだ。
「よし次は、謝だな!!!」
しかし、ランシーの番が来ると僕はそういう訳にもいかなくなった。
あれからランシーはどのような人間に育ったのであろうか。気になって仕方がない。
「出席番号12番、謝ランシーよ。家は中国武術の道場だから私は幼い頃から日々拳法に勤しんでいるわ。
・・・そして私には夢がある!!!」
そういうとランシーは教室の後ろに行き、いきなり演武を始めた。
「な、なんだあいつ・・・」
鈴木ヒトナリを始めとしたクラスメイト達は困惑を隠せなかった。
こんな奇行を披露するなんて月日が流れてもあの時からランシーは何も変わっていない。ランシーは変人だ。
その事実に僕はなんだか安心してしまった。
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