第22話「三方レオ-4」


「お~!!!おおお~~~~!!!」


パチパチパチパチ


ランシーに対して最初怪訝な目線を寄せていたクラスメイト達もランシーの演武が進むにつれて驚嘆を見せるようになっていた。


「これはすごいな・・・」


僕も思わず自然と称賛の言葉が口からこぼれ出ていた。

僕自身も日々訓練で武道に触れているからこそ、そのレベルの高さがすぐに分かった。

体術に限って見てみれば組織内でもランシーほど技術が洗練されている隊員はそうそういない。


パチパチパチパチパチパチパチパチ


演武を終えた満足げに席に戻るランシーをスタンディングオベーションが迎え上げた。


「私の夢はアクションスターになること!

その第一歩としてまずはこの学校に演劇部を立ち上げるわ。

今ので興味を持ってくれたなら私の元に来なさい!!!大歓迎するわ!!!

私と一緒に舞台を上演したり、自主制作映画を製作して、全世界に私たちの名前を轟かせましょう!!!以上!!!」


ランシーは高らかに声を上げた。


パチパチパチパチパチパチパチパチ


クラスはさらなる盛り上がりを見せる。


「それは素晴らしい夢だな!!!先生にも応援させてくれ!!!演劇部の顧問を引き受けようじゃないか!!!」


「ありがとうございます!謝謝!」


「それじゃあ次は鈴木だな。」


「分かりました。

いや~こんなえげつないバック転とかバック宙見せられた後に俺が自己紹介しても誰の記憶に残らなそうですね・・・」


鈴木ヒトナリは苦笑いを浮かべながら起立した。


「えーっと、出席番号13番の鈴木ヒトナリです。

中学ではヒトナリの部分を音読みしたジンセーって呼ばれてました。

それで・・・趣味は特にないですね・・・強いて言うなら寝ることぐらいです。家にいる時間は殆ど寝てます。」


僕は鈴木ヒトナリを凝視する。改めて何の変哲もないつまらない男だと思った。

アピールポイントが特に面白くもなんともないあだ名ぐらいしかないとはあまりにもキャラが薄すぎる。


「趣味が寝ることだけというのはちょっと寂しくないか、鈴木?

青春はお前が思っているよりも短いぞ?先生としては何かに挑戦してもらいたいところなんだが・・・

そうだ!!!お前もせっかくだから演劇部に入ったらどうだ?」


「演劇部ですか・・・全く興味が無い訳ではありませんけど・・・

う~ん・・・どうするかな・・・まあ考えときます。」


その後も自己紹介は続いていく。僕の番が来た。


「出席番号28番、三方レオです。趣味は体を鍛えることです。この筋肉は誇りです。

よろしくお願いします。」


僕は袖を捲ってクラスメイト達に自分の腕を見せつける。


「おおー!!!」


クラスメイト達は感嘆の声を上げる。

鈴木ヒトナリのしょうもない自己紹介をパクり平凡な生徒を装うことで、

クラスメイト達の何の印象にも残らないようにすることも考えたが、

おそらく今後の学園生活で今までの訓練で培ってきた僕の身体能力が目立ってしまう場面はある。

もちろん力を抑えるつもりではあるけれど、それでもランシーみたいに分かる人には見抜かれてしまうであろう。

ならば、初めから隠さないほうがいい。


「よく鍛えられた腕だ!!!先生は分かるが並大抵ではその上腕二頭筋は手に入らないぞ!!!」


担任も目を輝かせていた。

周囲に好印象を与えることで信頼を獲得し、今後色々と動きやすくなるようにするのも大切なことだ。



「お前は鈴木ジンセーだっけ?演劇部に入るのよね。」


「いや入るとは一言も言ってないんだが・・・」


「『興味ある』って言ってたじゃない!」


「確かに『全く興味が無い訳じゃない』とは言ったが、興味があるとは言ってない。」


「それって興味あるって意味じゃないの?」


本日の学校が終わり帰宅する準備に入っていた鈴木ヒトナリにランシーが詰め寄った。

この学校では部活の設立に部員が最低3名必要なので人員を確保するために何が何でも勧誘したいという強い意志を感じた。


「古参は優遇するわ。お前は人生で1度も主役を張りたいと思ったことはないの?

今入部すれはそれが叶うわよ。」


「主役やらせてくれるのか。

てっきりお前が主役で俺は入部したところで裏方かモブぐらいしかやらせてもらえないと思ってたが。」


「食いついてきたわね。入る気になった?」


鈴木ヒトナリは一瞬ニヤついたが、すぐにハッとしたような表情となり首を激しく横に振った。


「いやいやいや、俺に演技なんて無理だ。

演技経験なんて幼稚園のお遊戯会で突っ立てるだけの木の役をやったくらいだぞ。

それにお前が演劇部でやろうとしてるのってアクション活劇だろ。尚更無理だ。

お前みたいにあんなアクロバティックな動きは俺には出来ん。」


「誰だって最初は出来ないわ。私が手取り足取り教えてあげるから安心なさい。」


「う~ん・・・」


「というかお前はもっと喜びなさい!!!私のような容姿端麗の美人にアプローチされているのよ!!!

お前は如何にも童貞臭いからこんなこと今まで一度もなかったでしょ?」


「容姿端麗の美人・・・、自分でそれを言うのかよ・・・

それに童貞とは言ってくれるじゃないか!!!

確かに俺は童貞だけど、まだ高校生になったばかりだぞ。

そんなに珍しい話でも無いだろ。馬鹿にすんじゃない。

というかお前目当てで入ったみたいに周りに思われるのが嫌なんだよ。

俺は平穏な学園生活を送りたいんだ。下心マシマシ野郎だとか周囲にいじられつづけるのはごめんだ。」


「うっ・・・」


ランシーは何を言えば良いか分からずすっかり困り果ててしまった。悔しそうな顔を浮かべる。

必死すぎて焦る余り悪手を打ってしまったな・・・


「話はこれで終わりか?悪いが俺はこれで帰らせてもらうぞ。」


鈴木ヒトナリは鞄を肩に担ぐ。

さて、どうしたものか。別に鈴木ヒトナリが演劇部に入らなかったところで何一つ困ることはないが・・・


「あっ、ちょっと待ちなさいよ!!!逃げるんじゃないわよ!!!」


「この話は断らせてもらう。もっとバリバリ動けそうな奴を誘うんだな。

まあ、お前が演劇部やること自体は応援してやるよ。さっきのアレはマジで凄かったし。」


「君達、面白そうな話をしてるね。」


僕は2人の間に割って入った。


「お前・・・、確か三方だったよな・・・あの腕がヤバい・・・

ぱっと見は俺と同じヒョロガリだと思ってたから滅茶苦茶ビビったぜ。」


鈴木ヒトナリは月並みな感想を述べた。


「レオ!」


「久しぶり、ランシー。」


正直ランシーとこうやって対面するのは気まずかった。

何も言わずにランシーの前から消えたことに関してはずっと申し訳ないことをしてしまったと思っていた。

でも、こうやってクラスメイトになってしまったからには、ランシーと関わらないことは不可能だろう。


「お前ら、知り合いだったのか。」


「まあね、ランシーとは幼稚園時代からの付き合いなんだ。会うのは小学生一年生の夏休み以来だけどね。」


「お前は何を平然としてるのよ。お前は先に私に言うべきことがあるよね!?

私が中国に帰ってる間に何勝手に転校していなくなっているのよ!!!」


ランシーは強い口調で責め立て僕の腹部に拳を入れた。


「おいおい、暴力はいかんだろ。一旦落ち着けって!」


鈴木ヒトナリが僕の前に立ちランシーをなだめる。


「いいんだ、鈴木君。ランシーがこうするのは当然だよ。

ランシー、君はあの時新学期に会おうと言ってくれたのに、僕はその約束を破ってしまった。

全ては僕が悪い。裏切られた思いをさせて本当にごめんなさい。」


僕は頭を下げた。

学園生活では秘密を抱え嘘で取り繕うことばかりだけれど、この時だけは僕は何一つ偽りのない言葉を吐き出した。

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