第23話「三方レオ-5」
僕はしばらくの間微動だにしなかった。
「まあよく分からんが、三方はこうやって謝罪してるだし、許してやればいいんじゃないか。
それにお前達は小学一年の夏休みに新学期なったら再会しよう約束したみたいだけど、
その新学期を小学一年の夏休み明けの新学期と限定してたのか?
そうじゃないなら今も高校一年の始まりの新学期な訳だから、三方は約束を破っていないことになるぞ。
そう考えると謝が怒るのは間違いじゃないのか?」
鈴木ヒトナリが僕を擁護してくるが、クソみたいな屁理屈だ。
「そんな小学生が考えそうな言い訳レベルの理論を堂々と展開するなんてお前は馬鹿なの!?
だいたいお前は外野なんだから口を出してこないでよ!!!」
「はい、すみません。出しゃばりました。俺が悪かったです。」
ランシーが鈴木ヒトナリに激昂する。そりゃそうだ。
「・・・頭を上げなさい。別にそこまでしろだなんて言ってないじゃない。」
僕は顔を上げてランシーを目を合わせる。
ランシーは顔を真っ赤にしてムスッとした顔をしていた。やはり怒っているな・・・
「まあお前にも色々と事情があったんでしょう。あの時の私達はまだどうすることの出来ない子供だった訳だしね。
お前だって私を裏切りたくて裏切ったわけではないんでしょう?」
それでもランシーの口から出たのは大人なセリフだった。
ランシーはハチャメチャな人間に見えて、よく考えてて優しくて仲間思いだった。そこも変わっていない。
「もちろんさ。だからこそランシー僕に失望させてしまうような真似をして申し訳ない。」
「私は怒って一発入れた、お前は謝罪した。これでこの話はお終いにしましょう。
私達は友達じゃない。それは会えなくなっていても、変わらないはずよ。
せっかくこうしてまたクラスメイトになれたんだから後腐れなくいきたいわ。」
ランシーは目に少し涙を見せながらも笑ってみせた。
「ランシー・・・、ありがとう。」
友達・・・か、組織に入ってからはすっかり忘れてしまった言葉だ。
「これで一件落着か。良かった良かった。」
鈴木ヒトナリは腕を組んで頷きながらポツリ独り言を述べた。
「そうだ、ランシー。君の演劇部に興味がある。僕も入れてくれないかな。
ランシーと離れてからも武道は色々とかじってるんだ。きっとランシーの期待以上の動きが出来ると思うよ。」
「大きく出たわね。あの頃にゼエゼエ泣き言吐いてたのが嘘みたいじゃない。
いいわよ、見極めてあげようじゃない!!!」
「僕とランシーと鈴木君、これで3人揃って演劇部を設立出来るね。さっそく綱田先生に報告に行こう。」
「え、俺も頭数に入ってんのかよ?謝からの勧誘は断ったんだが。」
僕は少々強引な方法を取った。
護衛対象と同じ部活の部員になっておけば今後行動を共にする口実となり何かと都合が良いからだ。
「まあまあ、体験入部みたいなもんだよ。実際にやってみることも無しに判断するのはもったいないからね。
もし気に入らなければ、名前だけ幽霊部員になればいいじゃないか。
正直に言うと僕も男一人で入部するのは心細いんだよね。だから鈴木君も一緒にいてくれれば嬉しいなと思うんだ。」
「なるほどな・・・そう言われたら仕方ない。
家に帰ってもやることなくて暇すぎる訳だし、新しいことに挑戦してみるのも悪くないか。
俺も入ってやるよ。
ただ、俺は現代の若者だから昭和なスパルタとかはやめてくれよな。」
「安心しなさい。完全初心者のお前に対しては花を扱うように優しく接するわ。
折角の人員に逃げられたら困るし、部活は楽しむのが一番だから。」
「本当か・・・?言っちゃ悪いけど謝って結構キツそうなんだよな・・・
入部したらこのさっきの発言も無かったことにされてビシバシいかれそうだ。」
「お前は失礼な野郎ね。私のことを何だと思ってるのかしら。そんなに不安なら今の発言を録音しておく?」
「いや、そこまでする気は無い・・・とりあえずはお前を信用しておくよ。
それじゃあ、さっそく綱田先生のところへ行こうぜ!」
「そうだね、鈴木君。これからよろしく!」
「ああ、これから俺達は仲間だな!友達になろうぜ!俺のことは気軽にジンセーって呼んでくれよ。」
鈴木ヒトナリが右手を差し出した。
まさか向こうのほうから距離を縮めてくるとは、大人しそうに見えたので少し驚いた。
「分かったよ。それじゃあ僕のこともレオって呼んでよ。」
「おう!」
僕達は固い握手を交わした。
もちろん鈴木ヒトナリはただの護衛対象でありそれ以上の感情は無い。
これから怪異共をおびき寄せる貴重なオトリとして利用させてもらうだけだ。
「いや~、マジで良かったぜ。俺この学校に知り合いが全くいないからさ。
中学で仲良かった奴らと受けた高校、俺だけ落ちて無事ぼっちで最悪だったんだよ。
だから本当に助かった。ありがとな、レオ!!!」
「お前それは中々辛い経験ね。そんな悲劇は演劇部で汗を流して忘れてしまいましょう。」
「そうだな。あいつ等は多分俺のことなんて忘れて高校生活エンジョイするだろうから、
取り残された俺も切り替えて前を向きたいところだぜ。」
◇
部員3人でスタートした演劇部は、
噂を聞きつけた他のクラスの同級生や先輩達が入部し、1年の冬頃には総勢12人となっていた。
演劇部での活動はどうだったかというと、
僕達部員は全員素人だったこともあり行き当たりばったりで非常にグダグダなものであった。
部員の1人に隣のクラスのアメリカ人のティム・ヘイデン・スウェインという男子生徒がいたのだけど、
そのティム・ヘイデン・スウェインが毎回ランシーと脚本のことで口論になり活動が進行不能になるから、
これを和解させるのが特に大変だった。
鈴木ヒトナリに関しては、ランシーの指導の甲斐もあってアクション面ではそれなりに動けるようになっていた。
実は小学生の時に体操を習っていたという資料に記述があったので、運動神経が並以上あるのは分かっていた。
ただ演技はいつまで経っても大根役者だった。
ランシーは当初の約束を律儀に守り鈴木ヒトナリを主役で起用し続けたので、その棒演技は目立ってしまっていた。
ただこうやっていろいろ問題はあったけれども、所詮はプロの劇団ではなく学生のお遊びな訳だし、
ランシーや僕のアクションは周囲の生徒や教師にも好評だったから、
演劇部はそれなりに順調であったと言っていいだろう。
「レオってさ、お前好きな人とかいるのか?」
ある日の帰り道、鈴木ヒトナリと2人で歩いているとそんなことを聞いてきた。
学生はこういうくだらない恋バナというのがやたら好きらしい。
「別にいないよ。そういうジンセーはどうなのさ?」
僕は鈴木ヒトナリの話にまともに取り合うつもりはなかった。
「俺は齋藤先輩が好きだぜ。見た目が俺のもろタイプで仕草がいちいち可愛いからな。
1年の俺達にも敬語使ってくるほど性格が気弱なところも『俺が守ってやりたい』という感情を刺激されるから良いなと思ってる。」
齋藤先輩とは演劇部に入ってきた一学年上の先輩のことだ。
「へ~そうだったんだ。でも齋藤先輩はこの学校の他の男子達にもかなり人気だよ。」
鈴木ヒトナリが誰を好きになろうが死ぬほどどうでもいいが話を合わせる。
「だよな~今んとこは誰とも付き合ってないって話だけど、明日は分かんねえよな。
正直、齋藤先輩に彼氏が出来るだなんて考えたくもない。もしそうなったら俺はしばらく寝込むぜ。」
「そんなに齋藤先輩のことが好きなら。誰かにとられる前に一旦告白してみれば?」
「いやそれは無理だ。もしそれで振られでもしたら演劇部で気まずいじゃないか。
今は先輩後輩としてそれなりに仲良くさせてもらってるから、その関係まで壊したくない。」
「ふ~ん、そういうものなんだね。」
関心の無い僕は適当に相槌を打つ、その時だった、
「これは最高の人間ですね。」
僕達の後ろに悪意が迫った。
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