第24話「三方レオ-6」
振り返るとそこには巨大なドブネズミが立っていた。怪異だ・・・!間違いない。
「急に止まってどうしたんだよレオ?うわっ、なんだあれ!?着ぐるみか?特撮にこんな奴よく出てくるよな・・・」
鈴木ヒトナリは困惑を隠せない。僕は鈴木ヒトナリの前に出る。
「君達には僕が見えるんですね、思っていた通り上物です。
特に後ろにいる弱そうな方を食すれば僕は今よりも遥か高みに辿り着くことが出来そうです。」
「お前・・・・」
「強そうな君は恐らくは組織の犬なのでしょうね。邪魔なので消えてもらいます。」
ドブネズミは鋭利な爪で僕に切りかかり、その場に血しぶきが舞った。
「チッ・・・かすり傷ですか・・・瞬殺を狙ったのですが。」
「怪異め、あまり組織を舐めるなよ。」
「おい、大丈夫かよ!?レオ!!!なんなんだお前!!!警察呼ぶぞ!!!」
「やめろ!!!」
鈴木ヒトナリがスマホを取り出して通報しようとしたので僕は手首を掴んで制止する。
「おいレオ、やめろってどういうことだよ!?警察呼ばないとヤバいだろ。」
「その必要はない。鈴木ヒトナリ、ここは危ないから引っ込んでろ。」
僕は鞄から短剣を取り出した。
「は?お前なんだよそれ!?なんでそんなもん持ってんだよ?小道具か?」
問いかけてくる鈴木ヒトナリを無視して僕はドブネズミを睨みつけた。
「お前は瞬殺を狙ったと言ったな。僕も狙わせてもらおうか。」
「フッ、匂いで分かりますが君は怪異ではないただの人間でしょう。人間なんかにはこの僕は、なっ!?」
サッ
「ウガアアアアアアアアアアア!!!」
僕に一撃で致命傷を負わされたドブネズミの断末魔がその場に響いた。
「まさかこんなにもあっけないとは、口ほどにもないな。社会に害を及ぼす蛆虫が消えてなによりだ。」
ドブネズミの死亡を確認すると、僕はワイシャツを脱いだ。
「鈴木ヒトナリ、僕の鞄に消毒液とガーゼと包帯があるだろう。そいつをこっちによこせ。」
「お、おう・・・お前一体何者なんだよ。さっきからいつもと雰囲気が変わりすぎだろ・・・」
鈴木ヒトナリは怪訝な表情を浮かべながら僕に鞄ごと手渡した。
僕が応急処置をしていると、組織の隊員達が駆けつけてきた。
僕は新しいワイシャツを受け取り、事の詳細を報告する。ドブネズミの死体も隊員達によって運ばれていく。
「おい、誰なんだよお前ら!!!そんな怪しい重装備なんてしやがって!!!
あの喋る巨大ドブネズミはなんなんだよ!?一体何が起こってるんだよ!?」
鈴木ヒトナリが隊員達に質問を投げかけるが、誰も反応はしない。そうするように組織に指示されている。
「ガタガタうるせえな、鈴木。お前に説明することは何もねえよ。」
しかし、一人の隊員がそれを無視して鈴木に反応してしまった。
この隊員は戦闘能力は高いが組織の一員としての自覚が無いので、上司の僕は日々手を焼かされて頭を抱えている。
「そんなこと言われてはいそうですかと納得する訳が無いだろう!!!
というかお前顔隠してるけど、俺はお前の声聞いたことあるぞ!!!
俺達知り合いだろ。お前は多分俺と同じクラスの」
そのせいで、鈴木ヒトナリも隊員の正体に気づいてしまったようだ。
「お前は何を無駄口を吐いているんだ!!!そういうところから情報は洩れるんだ!!!」
「はあ・・・、別にいいだろ。どうせ記憶弄るんだし、鈴木には何も出来ねえよ。」
「いい加減にしろ!!!お前が隊長になれないのはそういう任務に対する取り組み方を上層部に見抜かれてるからだ!!!」
「チッ・・・、はいはい、副隊長ごときが盾突いてサーセンした。三方隊長の仰る通りです。」
僕は怒鳴り声をあげるがそれでもこの副隊長は僕に生意気で反抗的な態度を隠すつもりがない。
どうやら彼は僕に自分が就くはずだった隊長の座を僕に奪われたと思い込んで、僕を恨んでいるらしい。
まあそれは事実ではあるんだけど。
「・・・もういい、持ち場に戻れ。」
副隊長は上層部の血縁でエリート街道を約束され甘やかされたお坊ちゃまなので、
本当はもっと絞ってやりたいところだが、今拗ねられると現場処理が進まないのでこの辺にしておく。
「お前怖すぎだろ!!!何者なんだよ!!!いつもと全然キャラが違うじゃねえか!!!」
鈴木ヒトナリは相変わらず喚き散らしていたので、隊員の作業の邪魔にならぬようこいつを現場から引き離す。
「おい鈴木ヒトナリ、ゴタゴタ言ってないで付いてこい!!!」
「お前に付いてきたら今の状況について教えてくれるのかよ!!!」
「・・・・・・・・・」
「おい、ちょっと待てよ!!!」
僕は何も答えずに歩きだした。鈴木ヒトナリが追ってくる。
「なんか答えてくれよ!!!説明してくれよ!!!
てか、レオお前さっきから俺に冷たくねえか?俺達は友達じゃなかったのかよ!?
頼む!!!俺に教えてくれよ!!!黙ってないでなんか言ってくれよ!!!」
「・・・この辺でいいか。」
僕は立ち止まって振り向いた。
「教えてくれるのか!?」
「鈴木ヒトナリ、これを見ろ。」
僕は端末を取り出して、その画面を鈴木ヒトナリに見せた。次の瞬間、
「ん・・・?いつの間に俺はこんなとこまで来てたんだよ!」
鈴木ヒトナリは慌てふためいた。
「どうしちゃったのさジンセー?」
「いや、また記憶飛んだ。俺が齋藤先輩に告白して振られるのが怖いってくだりからの記憶がない。」
端末は記憶を処理する装置だ。怪異による事件が起こる度に一般人に対して使用される。
僕はこれを使用して鈴木ヒトナリに怪異に関する記憶を消去した。
今回は下校時だったけど、もちろん授業中に襲撃されることもあるので、
その時はランシーやその他のクラスメイト達にも使用している。
「また?大丈夫かい?さっきまであんなに齋藤先輩の魅力について熱弁してたっていうのに。」
「まじか・・・もしかしたら齋藤先輩について語るのに熱中しすぎたのが原因で記憶飛んだのかもしれないな・・・」
「なかなかそれは珍しいね。やっぱりそんなに齋藤先輩が好きなら告白しちゃいなよ。
別に振られたって何度でもアタックすればいいじゃないか。」
「お前は簡単に言ってくれるな・・・一回でも豆腐メンタルの俺には無理なのに、何回も出来るわけないだろ。
しかも二回目以降は振られたっていう土壌があるわけだから、尚更しんどいだろ。」
「そうは言っても、いつかは告白しないとジンセーの気持ちは伝わらないままだよ。
このままだとジンセーは別の男と歩く齋藤先輩を眺めながら後悔し続ける羽目になるけど、それで良いっていうの?」
「それは分かってる・・・、俺だってそんな最悪の結末は迎えたくない・・・
せめて思いは伝えたい、たとえ玉砕したってそのほうが100万倍マシだ!!!
でも今は勘弁してくれ!!!本当にキツい!!!齋藤先輩が卒業するまで、来年の3月までには絶対告るから!!!
本当に頼む!!!な?レオ!!!」
「頼むって・・・別に僕はジンセーが告白しようがしまいがどっちでもいいんだけどね。」
本当にどっちでもいい。学生の色恋沙汰なんぞあまりにも取るに足らない。
「まあその通りだな。結局告白するかどうかは俺次第ってことか。」
「・・・・・・・・・」
それにしてもこの鈴木ヒトナリは僕が知る限りで最も怪異を引き寄せる人間だな。
オトリとしてあまりにも上質すぎる。この男には何の情も無いが、存在そのものには感謝しかない。
今後も末永くこの男を利用させてもらいたい。
そのためにも、自分の体質を知ってしまったせいで将来を悲観視して自ら命を絶つということだけはないように、
記憶処理は確実に行うように心掛けたい。
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