第25話「三方レオ-7」



「三方玲生君、君は向こうの世界の神様達の中でも上位に来る戦闘能力を持っているわね。」


「誰だお前は?なぜ僕の名前を知っているんだ。お前がこれを仕組んだのか怪異なのか?」


「違うわ。私もまた神様だなんて役割を押し付けられてこの戦いに巻き込まれてしまったただの人間。

君の名前を知っているのは色々調べたから、神様になってしまえば他所の世界のことも筒抜けよ。」


今僕は警察官の恰好をした女と対峙している。

これは今までに無い危機的な状況だ・・・見知らぬ場所に転送され殺し合いを強要されるなんて。

組織の本部とも連絡が取れない。

あの影の仕業であろう。あんなにも歯が立たない怪異は初めてだった。

赤子の手をひねるように身動きを封じられてしまうだなんて。


死体の山の上に立つ僕は組織に入隊してから一番心が乱れている。


「このゲームに乗ってしまっていいの?

君の世界には怪異が実在していて、君は組織に所属してその怪異から人々を守ってきたんでしょ?

そんな君が罪のない人々を殺しちゃって良い訳?」


「・・・任務の過程で怪異討伐と引き換えに人命を犠牲にすることは何度もあった。

隊員の最大の目標はその場で確実に怪異の存在を消し去り、未来の命を命を守ることだ。

・・・これが小隊長としての建前。そして、」


「『そして、本音は僕は死にたくない。僕は怪異を憎んでいるから生きて一匹でも多くの怪異を殺したい。』、でしょ?』


僕は目を見開く。


「なぜ、それを!?僕の頭の中を読んだのか?お前はエスパーか?」


「言ったでしょう、私はただの人間よ。知り合いにエスパーはいるけどね。

私が君の言おうとしていることが分かるのは過去に君と戦って同じ会話をしたことがあるから。

今のところの君との対戦成績は2勝1敗らしいわ。」


「お前は何を言っているんだ?」


「今は分からないでしょうけど、今日を生き残ればその理由が分かるでしょうね。

私達としては困るから、君にはここで死んでもらうけど。」


「チッ、何を言っているかさっぱり分からないな・・・

まあいい、時間も無いし僕がやるべき事はお前と交戦することだけだ。」


女警察官との殺し合いが始まった。


「グッ・・・」


勝負は僕の劣勢だった。この女警察官に僕の動きが読まれていて、かなりのやり辛さというものを感じる。


「今の状況に陥ってるのは君だけじゃないわ。君の幼馴染の謝藍汐ちゃんも君と同じく殺し合いを強要されているわよ。」


「なんだと!?」


「そして彼女は今日、死んでしまうでしょうね。

彼女は殺しに手を染めることはなく、それどころか戦いに乗ること選んだ味方に立ち向かう。

そして、影にペナルティを課されてしまう。何度繰り返してもこれは変えられないことなの。」


「精神攻撃のつもりか?惑わされないぞ!?だとしても僕のやることは変わらない。

お前を1秒でも早く殺す!!!」


「そうよね、もしこの話が本当ならば邪魔な私を排除してさっさと彼女を探し出したいよね。

そして彼女を説得して人々を殺害させて生還させる。それが君の今為すべきこと。」


「・・・そうだ。分かってるなら死んでくれ。」


「でも、それは上手くはいかないわ。彼女は君の言う通りにはしない。」


「・・・ッ!!!」


「・・・分かっていることでしょう。彼女の性格を知っている君なら・・・、ね。」


「うるさい!!!」


「フフッ!動揺してる。君は彼女のことが本当に大好きなのね。

その愛を少しは鈴木ヒトナリ君に分けてあげれば良いのに。

ちなみに彼もこの戦いに参加してるわよ。これは君にはどうでもいいかもしれないけど。」


「今はお前と話す時間じゃない!!!今すぐお前のその口を塞いでやる!!!」


今の僕は完全に女警察官にペースを握られている。このままじゃダメだ。

とにかく今はあの女を倒すことだけに集中しろ!!!それ以外は後だ!!!


「うおおおおおおおおお!!!」



「ハァハァ・・・心が乱れていてもやっぱり君は強いね。今日だけじゃ決着は付かないか。」


「クソッ・・・仕留めきれなかった。」


女警察官と戦っている内に30分が終わってしまった。僕は唇を噛みしめる。


「悔しいのはこっちのほうよ。私のほうが圧倒的に有利だったっていうのに。

次からはそうはいかない・・・君はここで倒すべきだったのに・・・」


女警察官のそのセリフを聞き終えると共に僕は転送され僕の目の前に影が現れた。

影が戦いの報酬について話している最中、僕はずっと心ここにあらずだった。

僕が最後にランシーについて問いかけると女警察官が言っていた通りの答えが返ってきた。

とても信じたくはなかった。

だけど、奴から解放され部屋を出た僕の目に最初に飛び込んだのは頭部を切断されたランシーの死体だった。


「ランシー!!!クソッ!!!なぜこんなことに!!!」


突きつけられた事実は僕にとって受け入れがたいものであった。感情がぐちゃぐちゃになる。


「ハハハ、やっぱり謝さん殺されてるじゃん。ざまあないね。ま、綺麗に死ねて良かったんじゃない。」


そしてその感情はある男の一言によって殺意となった。

山野上悠理・・・この男も2年A組に在籍している生徒だ。

悪ぶってる自分がカッコイイとか思ってそうな痛いクソガキという印象で今まで気にも止めない存在であったが、

ランシーに対する侮辱は許せない!!!


「お前は今何を言ったんだ?言ってみろ?」


『「ハハハ、やっぱり謝さん殺されてるじゃん。ざまあないね。ま、綺麗に死ねて良かったんじゃない。』

って言ったんだよ。

駄目じゃないか、三方君は優等生なんだからちゃんと人の話は聞かないと。」


山野上ユージのそのヘラヘラした態度に僕の怒りは収まることを知らなかった。


「お前・・・!」


「三方君、キレすぎ。悪いのは謝さんなんだからこれぐらいは言わせてよ。」


「ランシーのどこが悪いんというんだ!?言ってみろよ!!!」


山野上ユーリお得意の開き直りだ。

僕は学校生活でこの男が何か悪いことをした時に謝っている場面を一度も見た事が無い。

どうせ口を開いても僕の望んでいる言葉を発することは無いだろう。

今までの経験からしてこの世界には死んで良い存在がいることを僕は知っている。

ならばここで山野上ユーリを殴り殺す!!!


「・・・!?」


しかし上手くはいかなかった。身動きを取れなくしていた山野上ユーリが消えてしまったのだ。


「言ってみろとか言っておいて僕に何かを言わせる有無を言わせずフルボッコにするなんて三方君は酷いなあ・・・」


5メートル先ほど先で山野上ユーリは涼しい顔をしていた。僕が折ったはずの骨も元通りだ。


「なっ・・・!?お前は今一体何をしたんだ?」


「僕も分かんないよw、なんか三方君から食らったダメージも全快してるし。まあでも助かったよ。

全く・・・こんな風に殴られたのは今日2回目だ。

謝さんも僕が生き残る為に人を殺していたらそんなことは辞めろって綺麗事並べて、僕のことをボコボコにしてきてさ。

本当に偽善者はいい加減にしてほしいよね。

このゲームに負けたら世界が滅びるらしいから、ゲームに勝つ為に行動している僕の方が正しいに決まってるじゃないか。

だから間違った行動をして僕を妨害した挙句に死んだ謝さんはざまあないねって言ったのさ。」


山野上ユーリはまくし立てる。実に耳障りだ。ランシーが死んでこのクズが生きていることが許せない。


「お前黙って言わせておけば・・・!!!」


山野上ユーリに拳を入れようとするが、その瞬間僕は何者かに手首を掴まれ静止された。


「やめろ。そんな無駄なことしてんじゃねえ、この坊主頭が。」

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