第26話「三方レオ-8」


「おい・・・嘘だろ・・・本物か!?!?!?」


この場を遠くから見ていた同じくクラスメイトの筆木静荷が現れた男を見て驚愕している。

それも当然だろう。その男は現在の日本で最も有名であろう野球選手である風我能だった。

野球を見ていない僕でも知っている。

だがしかし、僕が驚いたのはそこだけではなかった。

風我アタウは僕の背後を取ったのだ。

僕は長年の戦闘経験を積んだ人間である、

そんな人間相手に気配を完全に消し接近することが出来るだなんてこの男は相当な実力者だ。


「同じ世界の神様同士での殺し合いは原則不可能だ。

どうしても殺したいなら、チャンスは戦いの間しかねえ。

そうじゃない時にぶち殺そうとしても今のちっこいガキみたいに強制転移させられて、ダメージも全快する。

何度やっても同じだ。」


「へえ~だから僕は助かったんだね。」


風我アタウは今の現象について説明した。やはり只者ではない。


「この件に関してはちっこいガキの言ってることが正しいだろ。

俺としてもこのゲームの役に立たねえやつはいらねえし死んで当然としか思わん。

坊主のガキも本当はそれを分かってるから、このゲームに乗って他人をぶっ殺して今こうして生き残ってるんだろ。」


「・・・・・・・・・」


僕は何も言い返せなかった。実際に風我アタウの言っている通りだと思っているからだ。

でも認めたくはなかった、例えそうだったとしても僕は死んでしまったランシーが間違っているだなんて言いたくない。

僕はランシーを見て、冷静になる。

山野上ユーリも風我アタウも気に食わないが今殺せないというのなら、攻撃を入れたところで時間の無駄だ。

となるとやはり今するべきことは調査だろう。

怪異の仕業かどうかすら分からない現状ではこの状況を打破することは困難だ。

でも、その前にいつまでもランシーを人目に触れる冷たい床で寝そべらせたままにするわけにはいかない。

僕はひとまずランシーを抱え上げて、ランシーが出てきたであろう部屋に入った。



部屋に入ってすぐのところにランシーの首が転がっていた。

そしてそれを眺めている影が立っていた。


「お疲れ様です、三方様。」


「何がお疲れさまだ。ランシーを殺したのはお前だろ!!!ランシーの声で話すな!!!」


「かしこまりましたでは、この声はいかがでしょうか。」


影は自分の声を別の女の声に変えて見せた。


「ランシーは誰も殺さなかったから、お前がペナルティとして殺した。それは分かる。

でもどうして殺したランシーを廊下にほっておいたんだ!!!

『これからも戦いで人を殺し続けろ』と僕達に示すために見せしめにしたのか!?」


「違いますよ。仮にも神様に選ばれた相手にそんな無礼なことする訳無いじゃないですか。

私はペナルティとして彼女を殺す必要がありましたが、その時彼女は必死になってこの部屋から出ようとしていました。

ですので、死亡を確認後に部屋から出してあげたのです。」


「チッ・・・言ってることが破綻しているな・・・もう一つ質問がある。」


「はい、それは何でしょうか?」


「もし神貨が振り込まれた場合、世界改変とやらでランシーを生き返らせることは出来るのか?」


「・・・残念ですが、それは不可能です。

神貨を消費すれば過去に死亡した人間を誰でも蘇らせることは可能ですが、あくまでそれは人間の話。

神様は一度死ねば二度と生き返ることが出来ません。」


「そうか・・・まあハナからお前達に期待なんかしてなかったけど。ランシーはこの後どうなる?」


「12時に消滅します。」


「分かった、もういい。ここから失せろ。」


「かしこまりました。失礼いたします。」


影が消え僕はランシーと2人になった。

僕はまずランシーの体をベッドで寝かせてあげて、次に頭を拾い上げる。


「ランシー、少し痛いかもしれないけどごめんよ。僕は君を出来るだけ元の綺麗な姿に戻してあげたいんだ。」


僕はボケットから針と糸を取り出し、頭を首に縫い合わせた。

ランシーの顔を眺めていると、2人で過ごした日々を思い出す。


「ランシー、僕は君のことが好きだった。何も持っていなかった僕にとって君は彩りを与えてくれたんだ。

僕の目標は人々を襲う悪意の持った存在のいない平和な世界で噓偽り無く君と笑って暮らすことだった。

それなのにも関わらず君の命は奪い去られてしまった。僕はただただ憎いよ。

これが怪異の仕業なのかはまだ分からないけれど、僕はこの悲劇を終わらせることにこの人生を捧げる。

さようなら。」


そして僕は立ち上がりランシーに背を向けた。

涙は出なかった。そんなものは血にまみれた僕の人生のどこかに置いて行ってしまった。悔しかった。



「何を言っているの!?自分が何を言っているか分かってる!?」


「分かってるに決まってるだろ!お前はそんなことも分からないのかよ、本当に頭が悪いな。」


部屋を出ると在原崇と内浦紅が何やら言い争っていた。


「お前達はこんな時になにをしているんだ!」


「あっ、三方隊長!!!やっぱり隊長も巻き込まれたんだ。」


内浦クレナが僕の方に駆け寄ってくる。


「聞いてよ!!!在原副隊長が組織を辞めるとか言い出したんだよ!!!」


「なんだと!?お前は何を寝ぼけたことを言ってるんだ。呆れた・・・ここまで馬鹿だとは思わなかった。

自分が今何をするべきか分かっていないのか!?」


「はいはい、もうそういう説教とかはいいって。

これから先、お前と俺は上司と部下という関係じゃなくて赤の他人なんだからよ。

自分が今何をするべきかって、そりゃこのゲームに乗ることだろ。

あの影から色々と聞き出したんだけど、これはガチで素晴らしいかもしれねえ。

今の俺は神様となりこの世界の全人類の頂点に立っている。

だから俺は裏の支配者として世界を牛耳ってやりたい放題してやるつもりだ!!!」


「ふざけるなっ!!!お前はアイツ等の言うことを鵜呑みにして従うというのか!!!」


「だってアイツ等には到底敵わねえじゃねえか。

そりゃ俺だって自分より上がいるなんて悔しいし認めたくねえよ。

でも自分の身の程も弁えずに死にに行くなんて馬鹿のすることだろ。俺は絶対に死にたくねえ。

お前だって同じ考えだろ?だから今こうやってここにいるんじゃねえか。偉そうに口出しするんじゃねえ!!!」


「だとして、どうして組織を辞めるんだ。

組織の一員ならば今見たいに絶対的な危機におかれていても

最後まで諦めずにアイツ等の隙を見つけ出すべきなんじゃないのか。

今までそれを行ってきたからこそ僕達は立ちはだかった強敵を倒すことが出来たんだ。

お前だってそうじゃないのか。僕はお前の実力は認めている。

お前は任務を果たし、実績を積んできたからこそこの若さで副隊長にまで上り詰めたわけだ。

お前はそれに対しての誇りを感じないのか?」


「感じねーなあ。」


「なんだと!?」


「俺が今まで組織でやってきたのって贅沢三昧な暮らしをするためでしかないし、

神様になった以上、組織で働くとかいうめんどい事しなくてもそれが出来る訳じゃねーか。

ならもう組織とかどうでもいいわ。

まあ正義を盾にして雑魚共をボコボコにするのは楽しかったけど、それよりかは遊びたいしな。

悪に転身するのも楽しそうだし。」


「お前・・・そこまで腐っていたとは・・・」


僕は拳を握りしめる。


「おっと、今は俺のことは殺せねえぜ。殺すなら1年後の次の戦いだな。日付に換算すると365日後か。

俺もお前のことは殺したいから受けて立つぜ。じゃあな、三方。」


在原タカシは手を振り声高らかに笑いながら去っていった。僕は壁を殴りつけた。

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