第27話「山野上ユーリ-1」



「おい、足ゆするのやめてくれ。」


登校時、僕は駅のベンチで座ってソシャゲに勤しんでいたところ、

見知らぬ中年のスーツを着た見知らぬ男に貧乏ゆすりを注意された。


「タメ口ですか?」


「は?」


僕が悪いのをいいことにして付け上がりこんなにも偉そうな態度を取られて、

このまま『はいすみませんで』したと引き下がる訳にはいかない。


「『タメ口ですか?』って言ってるんですよ!?初対面の人間に向かってこんな舐めた態度はあんまりでしょ。

貴方みたいな常識の無い人間が僕に説教だなんて出来ると思わないでください。」


「別に説教だとかそんなつもりはねえんだよ!!!お前が大人しくやめればそれで済む話じゃねえか!!!」


男は声を荒げる。僕は呆れて、大きく息をつく。


「だ~か~ら~!!!なんでこの期に及んでタメ口なんですか?

貴方は敬語を知らない人間なんですか?

それとも貴方は外国で生まれ育ったので日本語をうまく扱えないんですか?

それとも年下の人間だったら無条件に偉そうにしていいと思っているんですか?

それとも僕がクソチビで弱そうだから見下してるんですか?」


僕は立ち上がって前に詰め寄り怒涛の質問を浴びせかける。


「タメ口タメ口うっさいんじゃ!!!この野郎!!!さっきから舐めた態度取ってるのはお前のほうだろ!!!」


男も立ち上がり僕に顔を近づける。


「質問に答えてくださいよ。」


「あかんお前、会話が全く成立しない。生徒手帳出せ!!!学校に連絡する。」


口論する僕達に人だかりが集まってきた。


「お断りします。見知らぬ男子学生から個人情報を脅し取ろうとするなんて貴方はもはや犯罪者ですよ。

こっちから警察に通報させてもらっていいですか?」


僕はスマホを取り出し、番号を入力する素振りを見せる。


「何をしてるんだよお前は!!!」


男が手首を掴んできた。


「それはこっちのセリフです。暴力に訴えるなんて貴方は最低ですね。本当に警察沙汰にするつもりですか?」


男は周囲の怪訝な目線に気づき手を離した。


「チッ・・・、もういい。何なんだよお前。どんでもない野郎だな。

お前の制服覚えたから、後はこっちで調べて連絡入れる。覚悟しとけ。」


男はそう吐き捨ててその場から去っていった。


「チッ・・・、朝っぱらから嫌な人に遭遇しちゃって本当に

不快になるね。勘弁してほしいよ。」


僕は再び駅のベンチに腰を掛け、いつもより激しく足を揺らした。

怒られた時に絶対に謝らないのが僕の信念だ。その時、傷ついた僕を僕は絶対に見捨てたくない。

未来で『あの時自分を叱ってくれたあの人には感謝しています。』なんて台詞を吐くのはごめんだね。



「おはよう並里君、なんか服が汚れてるね?どっかで滑って転んだの?掃ってあげるから後ろ向いて。」


学校に着いた僕は唯一の友人である並里一太君に声をかける。

服が汚れてるのはまた誰かと喧嘩したからかな?

おそらくは僕らのことを常日頃から馬鹿にしてくる同じクラスの在原か木呂あたりだろうね。

並里君はすぐに手が出てしまうタイプだから、奴らとはしょっちゅう揉めている。


「・・・・・・・・・」


並里君がスマホの画面を僕に突きつける。

読み上げソフトから『ありがとな、山野上!』という音声が発せられた。

口が利けない並里君とはこうやって意思疎通を取っている。


「ねえ~聞いてよ並里君。さっき駅で滅茶苦茶ムカつくことがあってさあ。」


僕はさっき駅で起こった出来事を話のタネにして並里君に語る。頷きながら聞いてくれるのがありがたい。

並里君は本当に優しいなと僕は心の底から思う。

まあ初めて1年の時クラスで一緒になった時は関わりたくないと思ってたんだけどね。

並里君は凶暴で被害妄想が強いから僕以上にトラブルを起こしてたし、

いつも機嫌の悪そうな顔で当時は滅茶苦茶怖かった。

僕はもしかしたらコイツにいじめられるんじゃないかとまで思ってたね。


だけどその考えが間違いだと分かったのは、僕が気に食わない女子への嫌がらせに下ネタを連呼した時だった。

田辺って苗字の女子に『田辺のタベはマスターベーションのタベ』っていうダジャレをね。

その場に偶然居合わせた並里君が僕の言葉を聞いて笑ってくれたんだ。

その時にもしかして僕が思ってるより並里君は悪い奴ではないんじゃないかと思って、

話しかけに行ったら僕達はそのまま仲良くなってた。

それ以来は一緒に外に遊びに行ったりもしてる、

今日も2時間目か3時間目あたりの授業が嫌になってきたタイミングで2人で学校をバックレてゲーセンに行くつもりだ。


キーンコーンカーンコーン


「おっと、ホームルームの始まりだ。またね、並里君。」


並里君と話していた時の笑顔が消えた僕は席に着く。あーあ、つまらない授業の始まりか。


「起立!礼!着席!」


クラス委員長の公平真央さんの声に僕は不機嫌になる。

公平さんも気に食わない女子の1人だからね。真面目な優等生の良い子ちゃんは僕は大嫌いなんだ。


世界一やる気のない起立礼着席を披露した僕は突如変わった周囲の景色に動揺する。


「え?なにこれ?」



「フフフ・・・ハハハ・・・!!!」


現れた影に全てを説明された僕は笑いを抑えることが出来なかった。


「神様に選ばれた人間の反応としては平然としていますね。もしかして信じていないのですか?」


「いやいや信じてますよ。

こんな拉致行為を実現して見せた時点で、常識という物差しなんてものは使い物にならなくなりましたから。

要するに僕は合法的に人を殺せるというここでしょ?そのことが喜ばしくて笑いました。」


「士気が高いのは素晴らしいことですね。貴方には期待出来ます。

それでは、戦いの始まりです。いってらっしゃいませ。30分後に笑顔で再会出来ることを祈っております。」


そしてまた見知らぬ場所へと僕は転送される。

ここはどこかは分からないけれど、周りの人間を見る限り少なくとも日本ではないらしい。


「さて、始めますか。」


まず僕は屈強な肉体をもつ若くて大柄な男を狙った。

この場にいる人間は全員殺しきるつもりなので、別に順番なんてどうでもいい訳なのだけれども、

やはり僕が持っていないものを持っている自分よりも優れた存在を優先的に殺していきたい。

・・・とは言っても、僕より劣った人間なんてものはそうそういないから、

この場にいる全員が僕より優秀な人間なんだから、やっぱり順番なんてどうでもいいか。


次々と人間が息絶えていく、躊躇など無かった。

不安とは無縁に生きてきた人間たちに最大の絶望を与えられるなんて、

今まで惨めに生きてきた僕には願ってもないことだった。


「僕は一人でも多く世界に不幸な弱者が増えればいいと思ってるんだ。だから僕が不幸を作るよ。」


僕は満面の笑みを浮かべた。

まあ笑ってる場合じゃないんだけどね。

僕ははっきり言って滅茶苦茶弱い。口喧嘩には自信があるけど、手を出されたらそこで瞬殺だ。

この戦いで生き残る可能性を上げる為にも虐殺ガチャで武器を手に入れる必要がある。

この辺に生きている人間はいなくなってしまったので僕は移動する。


あの影に聞いたところによるとこの戦いには超有名メジャーリーガーである風我能と

僕の在籍している京野高等学校2年A組の生徒と担任全員の合計33人が参加させられているらしい。

つまりは並里君も巻き込まれている。彼が生き残れるのか非常に心配だ。

おそらくは彼も僕同様にこのデスゲームに乗っていることであろう。彼もまた光に当たる人間達を恨んでいるから。

でもまあ、並里君は運動神経がかなり良いから僕なんかよりは生き残る確率は高いし、まずは自分の心配をしないと。

運良く彼と合流出来たら良いのにね。

なんてことを考えながら僕は手を休めることなく人を殺めていると───、


「お前は、何をしているのよ。」


聞き覚えのある声が耳に入った。

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