第28話「山野上ユーリ-2」


振り返ると僕と同じクラスの中国人女が黒色人種の子供と立っていた。

子供は巨大な剣を両手で握っている。


「やあ、謝さん。見ての通りこの戦いに勝つために人々を殺害して回っているよ。

その男の子はこの世界に住んでいる子供かい?」


「こ、こんなに殺して・・・なんて酷いことを・・・」


子供は謝さんの後ろに隠れて声を震わせている。


「もしかして、その子は相手の世界の神様なのかな。

何をやってるんだよ、謝さん。さっさとその子を殺さないと。」


「それはこっちの台詞よ、山野上!!!

お前、あの訳の分からない影の言うことを聞いてしまったの!?

お前はいつも学校の先生の言うことには屁理屈こねて反抗して全然聞かないくせに!!!

何の罪を無い人間を殺してお前は恥ずかしいと思わないの!?

この子の住んでいる世界を滅茶苦茶にしてしまったことを謝罪しなさい!!!」


「嘘でしょw!?謝さんまさかその子の味方をしちゃってるのw!?」


「当たり前じゃない!!!

どこのどいつがこんなふざけたことを仕組んだのか分からないけれど、

私達が殺し合うことを望んでいるような連中の思う壺になるなんて絶対にダメだわ!!!

お前も今すぐそんなことは辞めなさい!!!」


「いやいや、辞めないよ。辞めたら僕はあの影に殺されてしまうじゃないか。

謝さんだって例外じゃあない。君は死ぬのが怖くないの?」


「勿論私だってこんな若さで死にたくはないわ。まだまだ何も成し遂げてないというのに。

でもだからといって他の誰かを殺すのはもっと嫌よ!!!」


「そうやって思考停止して現実逃避でヒーロー気取りな訳ですか。

いわゆる神様に選ばれた人間が全員死ねば、僕達の住んでいる世界まで滅亡してしまうんだよ。

つまりは君の家族や友達まで死んでしまうってことだね。君はそれでも良いというのかい?

これは戦争なんだ。大切な存在を守るために戦えよ。」


僕は自分の行為を正当化する台詞を吐いた。

正直、僕達の住んでいる世界なんてものはは別にどうなろうが構わないんだけどね。

むしろ滅亡してくれたほうが普通に嬉しいまである。


「もちろん私は戦うわよ。でもそれはお前みたいにこの状況に屈する訳じゃない。

このくだらない戦いから抜け出してこれから先誰も死なずにすむ手段を探し出してみせる!!!」


「馬鹿を言うのはやめてくれよ。僕達には時間が無いんだ。そんなこと出来るわけないでしょ。」


「そうやってやる前から決めつけてたらいつまで経っても出来ないわ!!!

逆に聞くけどお前はどうしてそうも簡単に人を殺せるのよ!!!お前には少しは罪悪感というものがないの!?」


「罪悪感・・・?ハハハ、そんなものある訳無いじゃん。なぜなら僕は全く悪くないから。

悪いのは僕達に殺しを指示している存在でしょ?これは自分の生命を守るための行為だよ。

別に謝さんが死ぬのは構わないんだけどさ、僕の邪魔までしないでくれる?」


「いい加減にしなさい!!!言っても聞かないならここでお前を止める!!!」


どうやらここで拳を交える羽目になりそうだ。正直勝ち目というものは全く見えない。

ただでさえ1対2と人数で僕が不利なのに、相手が謝さんじゃね。

彼女には中国武術の技術があるし、背も僕より15cm以上は高い。

戦う前から僕は彼女に心技体全ての面で負けている。

僕は足の速さに関してだけは自信があるので、ここで逃げるのも選択肢の一つだ。

というか最善の結末を迎えるにはそれ以外無い。


でも僕は彼女のことを前々から気に食わないと思ってたから、

その綺麗な顔に一発入れるぐらいはしたいと思ってしまう。


「ねえ謝さん、僕は君に勝ちたいよ・・・僕が君が大嫌いなんだ・・・

自分の能力を周囲に認められて、夢に向かって邁進していく君が憎いよ・・・」


武術を知らない僕は僕は適当にそれっぽい構えを取る。

その場の感情に囚われる僕は馬鹿だ。理屈で動くならこれは絶対に間違っている。

だからこそ今までロクな人生を歩んでこれなかったのだろう。僕は生きるのがヘタクソだ。


「お前は私に嫉妬していたの?あまりにもしょーもないわね。

お前が惨めなのは言い訳ばかり言って何も行動を起こさないのが悪いんじゃない。

全部お前自身のせいよ。」


「なんだよ!!!綺麗事ばっかり言って!!!

この世界は全てが報われる世界じゃないんだ!!!

運良く椅子取りゲームで勝てた立場のお前が偉そうにするな!!!」


僕は謝さんの顔めがけて一直線に駆け出した。そして、全ての力を込めて勢いよく拳を振るう。


ブンッ!!!


しかし謝さんは素早くかわし、僕の拳は空ぶってしまった。

そしてそのまま主導権を謝さんに握られる。僕はもう終わりだ。


「このまま僕を殺すつもりかい!?」


「いいえ、私は止めるだけ。殺しをしたらお前と同じになるじゃない。」


「!!!」


その言葉は余計に僕を苛立たせた。


「なんだよそれ!!!正義のヒーローぶって不殺掲げてカッコつけてるつもりかい!?

甘いんだよ君は!!!反吐が出る!!!僕は死ななきゃ止まらないぞ!!!舐めるなあああ!!!」


僕は叫んで激しく動く。たとえここで死んでも謝さんに一発入れる覚悟だった。


「どんな事情であれ他の誰かを殺すということが選択肢に入ったら人として終わりよ。」


しかし、謝さんは無駄のない動きで僕の打撃を避ける。


ボコッ!


そして、強い一撃を僕は顔に受けて倒れた。


「ああ・・・うぅ・・・」


あまりの痛みに僕かまともに言葉を発することが出来なかった。恐らく鼻の骨ぐらいは折れている。

涙まで出てくる。


「そんなんになったらお得意の屁理屈も出てこないわね。所詮、お前なんてこんなもんよ。」


「ぢくしょう・・・」


僕は必死に立ち上がろうとするが、謝さんはそれを許さず僕の上に乗っかった。


「あああああああああああああ!!!」


静寂な空間に僕の叫び声が響く。


「お前の関節を外させてもらったわ。これで身動きは出来ないはずよ。

少しはお前が殺めてしまった人達の気持ちを理解できた?」


「クッソー!!!そうやってお前は善人ぶっていればいいんだ!!!

そうやって綺麗な人間としてペナルティで殺されることになればいいんだ!!!」


謝さんに見下されて、この状況は僕の完敗だ。もはや泣き叫ぶことしか出来なかった。


「全然反省してないわね・・・私はあの影に大人しく殺される気はない。返り討ちにしてやるわ。

グレゴリー、そいつをおぶりなさい。」


「分かったよ、お姉さん。」


「うわっ、なにするつもりだよ!!!」


グレゴリーというのがこの子供の名前だろう、抵抗しようにも僕は手足を動かせないのでやかましく騒ぐしかなかった。


「うるさいわね。黙ってないと顎も外すわよ。

この状態で放置しておくとお前は殺されてしまうかもしれないじゃない。だからほっとけないわ。」


「・・・そう。もう勝手にしてくれ。」


失意の僕は天を仰いだ。

戦果を挙げなかった神様はペナルティで殺害される。

果たして僕は戦果を挙げたと見なされるのだろうか。不安でしかない。

それから後の僕は子供におぶられて影と戦う謝さんをずっと見ていた。

謝さんは殺されてほしかったけど、影程度ではまともなダメージすら与えることが出来ない。

倒せるとしたら相手の世界の神様だけど、それが現れたら僕まで殺されてしまう。

僕は悔しくてたまらなかった。



「ハハハ、やっぱり謝さん殺されてるじゃん。ざまあないね。ま、綺麗に死ねて良かったんじゃない。」


だからこそ、生き残った僕が謝さんの死体を見た時は嬉しくてたまらなかった。

謝さんに折られた骨も治っていたからなおさらね。

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