第29話「明智セシル-1」
◇
『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず』は嘘だ。
私は自分自身の立場を持ってそれを痛感している。
私は今この若さにして多くの凡人共では一生辿り着くことの出来ない領域に立っている。
「あら、警察!?ちょっと奥さん一体何があったっていうのよ!?」
「あのアパートに住んでる若い男の人が亡くなっているのが見つかったんですって!!!
もしかしたら殺人事件かもしれないって話よ!!!」
「なんですって!!!最近はどんどん世の中が物騒になってきていて怖いわ~!!!」
いつものように登校していると、愚民たちが騒ぎ立てているのを耳にした。これは面白そうだ。
事件が起きたアパートの部屋付近は立ち入り禁止となっているが、私は気にせずに黄色いテープをくぐり抜けて侵入した。
「おいコラァ!!!何勝手に入ってるんだクソガキ!!!」
それを見た若い男の刑事がブチ切れて私の腕を掴む。
「何やってるんだお前は!!!」
そして中年の男の刑事も怒号をあげる。
「今すぐにその人の腕を放せ!!!馬鹿野郎ッ!!!」
しかし、それは私へではなく若い刑事へと向けられたものだった。
「えっ!?」
若い刑事はあっけにとられた顔をする。
「お前はその人のことを知らないのか!?こっちに来い!!!」
中年刑事は若い刑事に耳打ちをする。私の素性について話しているのだろう。
若い刑事は顔色を変えて真っ青になった。そして慌てて私の方向へ駆け寄ってくる。
「さ、さ、先ほどは失礼な態度をとってしまい申し訳ございませんでした!!!
まさか刑事局長殿の姪御さんだったとは・・・」
何を隠そう私の一族には警察官が多く、中でも伯父さんはキャリア中のキャリアという偉い人なのだ。
伯父さんには子供がいないので私は幼い頃から可愛がってもらって良くしてもらっている。
全てを知った若い刑事は死にそうな顔をしており、正直滅茶苦茶面白い。
出来ることなら写真に残しておきたいがここは我慢だ。
「私の方からも深く謝罪させていただきます。
コイツはやる気があるのはいいんですが、まだまだ青臭い若造で物を知らなすぎるんですよ。
後できつく言っておくんでここは勘弁してやってください。」
「いえいえ、全然気にしてませんよ~
傍からみれば私なんて怪しい人間ですからね。その若い刑事さんの行動は当然ですよ。
むしろ、職務を全うする姿勢に頼もしさを感じましたよ。」
私は微笑んでみせた。
「不快な思いにさせてしまい本当にすみませんでした!!!ほらお前も頭を下げろ!!!」
「は、はい!!!」
朝っぱらから国家の忠犬2人をひれ伏せて本当に気分が良い。
私としてはこの光景をもっと眺めていたいが、そういう訳にもいかない。
「お2人とも頭を上げてください。本当に私は何も気にしていませんから。
それよりも、事件の状況について詳しく教えてください。」
そうだ、私は一般人では知ることの出来ない詳細な事実を知るためにわざわざここに踏み込んだのだ。
私にとっての娯楽とはこの世の不幸を知ることだから、惨めに倒れている死体を何が何でも拝みたい。
「今回も明智先生のお力を貸していただけるのは心強いです。今日も何卒よろしくお願いします。」
そういう下心から特権を利用して色々と事件に首を突っ込んで捜査ごっこをしていたら、
いつの間にかに警察内で名探偵とか先生だとか呼ばれる存在にまでになっていた。
まあ私としては色々と動きやすいし嬉しい限りだ。
「もちろんです。必ず私達で真実を明らかにしてみましょう!」
◇
こうして、学校をサボって刑事達の捜査に協力していたのだが、それは僅か2時間ほどで終わりを告げた。
「刑事さん、私がすべてが分かりました。」
「本当ですか、明智先生!?一体この事件の真相はどういうものだったんですか。」
「まずこれは不運な事故だったんです。」
「なんだって!?」
私は数少ない証拠から2時間ドラマのラストシーンばりの推理を展開していく。
それを聞いた刑事達は感心して頷き拍手を送った。
「やはり流石だな。明智先生の頭脳にはあっぱれとしか言いようがない。」
「今まで多くの難事件を解決した明智先生が仰るのなら間違いないでしょう。」
◇
刑事達は警察署に戻り、事件解決を喜んでいる。
「お前達!!!今日は皆で飲みに行くぞ!!!」
中年刑事が声を高らかにして叫ぶ
「おおー!!!」
「明智先生も宜しければ、いらっしゃってください。」
「えっ、私みたいな部外者が皆さんの楽しい集まりに混じっても良いんですか?。」
「勿論ですよ!!!このスピード解決は明智先生のお陰ですから!!!是非ともお礼にご馳走しますよ!!!」
「俺も明智先生に色々お話を聞いて勉強したいです!!!」
今朝私に怒鳴りかかってきた若い刑事も今ではすっかり私に尊敬の眼差しを向けている。
「歓迎するぜ嬢ちゃん!!!」
「主役の明智先生がいないのは寂しいですよ。」
他の刑事達も私の参加を熱望している。
「そこまで言っていただけるのなら・・・分かりました。是非ともお供させていただきます。
これから少し用事があるんですけどすぐに終わりますので、その後に合流させていただきます。」
◇
署から出た私は、入手したばかりのとある連絡先に電話を入れて、ある人物とすぐに会う約束を取り付けた。
電車を乗り継いてはるばるとやってきたのは立派なタワーマンションだった。
私が会う人物はその最上階に住んでいる人物だ。
「いや~お忙しいところわざわざすみませんね~
こんなに美味しそうなスイーツまで用意していただいて恐縮です。
私は食べることが大好きなんですが、その中でも甘いものには目がないんですよ~」
私は高級ソファに腰をかけてくつろぐ。そんな私に40代の女性が険しい顔をして目線を向ける。
私は単刀直入を話を切り出した。
「私が来たの理由は先ほど電話でもお話した通り、今朝の殺人事件についてです。
あれの犯人は貴方でしょう?」
「な、なにを根拠にそんなことを言ってるんですか・・・」
「往生際が悪いですね・・・私をこの家に上げた時点でほぼほぼ認めてるようなもんでしょうに・・・」
私は内ポケットからポリ袋に入った証拠品を振り付けて見せる。
「!?そ、それは!!!」
「これは貴方の社章ですよね?現場に貴方がいた何よりの物証です。
被害者と揉め合っていた時に落としてしまったのでしょう。
おそらく貴方は現場を離れてからそれを失くしてしまったことに気づきましたよね・・・
今日はずっと気が気じゃなかっでしょう。今にも死にそうな顔をしていますからね。
正直滅茶苦茶面白いですよwアハハw」
私は爆笑しながら机を叩く。
「動機は痴情のもつれw
被害者の彼は貴方と交際していましたが、彼は貴方よりも15歳も年下でしたw
ホストで勤務している彼はババアの貴方のことなんて愛しておらずw、
搾取する金ヅルとしてしか見ていなかったw
そんな訳で浮気までされて、そのことについて揉みあっていたら、勢い余って死なせてしまったw
これが全ての真相ですw
人間ドラマとしてかなり楽しめましたw
オーソドックスなエピソードで安心感がありますねw
ありがとうございますwアハハハwww」
私は足をバタつかせながら半笑いで話す。
「全て正解よ!!!あの男が全部悪いんじゃない!!!私は悪くない!!!」
「認めましたか。」
「貴方私をいったいどうするつもり!?」
犯人は凄い形相で私を睨んでくる。私はそれに満面の笑みで返した。
「別に悪いようにはしませんよ。」
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