第30話「明智セシル-2」
「私は女子高生探偵として警察内でも高い評価を得ております。
その私が貴方に繋がるありとあらゆる証拠を全て潰した上で今回の事件は事故だと断定しました。
なので、刑事達もそれを鵜吞みにしてこの事件を誰も犯人のいない不幸な出来事として処理するでしょう。
後はこの社章を貴方にお返しすれば、万事解決です。返して欲しいですか?」
「返してよっ!!!」
犯人は手に持っているポリ袋を奪おうとしてくるので、私はさながら闘牛士のようにそれを交わし続ける。
「なんかペットとじゃれあって遊んでいるみたいで楽しいですね、アハハw」
「お願いだから返してよっ!!!」
犯人は泣きそうな顔になっている。この表情は最高だ。
「もちろん最終的にはちゃんと貴方にお返しするつもりですよ。
そうじゃなければ私がこんなことをした意味が無いじゃないですか、
ただこれを渡すには一つ条件があります。」
「条件・・・?」
「私と友達になりましょう。」
「友達・・・!?貴方ふざけているの!?」
「おっと、ふんわりとして分かりづらい表現でしたね。すみません。
具体的に言うなら、経営者として成功している貴方が持っている利益や利権を私に分けてほしいってことです。」
「貴方、私を脅す気!?」
「そうです。この状況で貴方に拒否権はありませんよ。私に忠誠を誓いなさい。
今持っている財産や名声を全てを失って刑務所で辛い暮らしをするよりかは遥かにマシだとは思いますが・・・」
「・・・・・・・・・」
犯人は黙り込んでしまった。
「どうやら貴方はこの条件を飲んでくれるつもりは無いようですね。
いつ私がこの紅茶とケーキに口を付けてくれるのか待っているんでしょ?この毒入りデザートに!?」
「気づいていたの・・・!?」
「当たり前でしょう。殺人犯に出された食べ物なんて警戒しないほうが馬鹿ですよ。」
「そうよ・・・!!!私は貴方を生かして帰す気は無いっ!!!」
犯人はナイフを手にして私に襲い掛かる。
「おお~!やっぱり、一度人を殺した人間には殺すという選択肢が増えてしまってますね~。
でも考えてみてくださいよ。
2時間ドラマの殺され役じゃないんだから、私が貴方を脅すのになんの対策もしてない訳がないですか。」
私はそれに動じることなく指を鳴らした。
「あれ!?貴方!!!一体何をしたの!?」
すると犯人の体が停止ボタンを押したかのように止まった。
犯人の意思では体を動かすことが出来ない。いわゆる金縛りというやつだ。
私は犯人からナイフを奪う。
「貴方は超能力者なの!?」
「企業秘密です。でもこれで私と貴方の力関係というものをよく理解出来たでしょう。
悪いこと言わないのでここは従っといた方がいいと思いますよ。」
「・・・・・・・・・」
犯人は悔しそうな顔で私を睨み続ける。
「お~怖い怖いw別に貴方から何億とか何千万もむしり取ろうだとかは考えてないので安心してくださいよ~
私はただ有力者とのコネクションが欲しいだけなんです。コネがあれば色んなことが出来るじゃないですか。
普通の愚民じゃ食べられない料理を食べられたり、知れない情報を知れたり、入れない場所に入れたりとかね。
友達がいれば証拠の隠蔽や捏造ももっと簡単に出来るようになる。
貴方はたま~に来る私からのお願いを否応なしに聞いてくれれば良いだけです。
貴方とはこれから長く付き合っていきたいので滅茶苦茶な無茶を言うつもりはありませんよ。」
「貴方・・・私以外にもこんなことをやっているの?」
「勿論です。
詳しくは話せる訳がありませんが、貴方がビジネス上でよく関わる人達の中にも私の友達がいますし、
日本国民の誰もが知っているようなあの超有名人も私の友達です。
裏社会にだって肩までどっぷり浸かってます。
私の交流関係は幅広いので中には人間じゃない存在なんかもいたりしてねw」
「人間じゃない存在・・・?それはどういうこと!?」
「それは流石に冗談ですよw」
本当はマジなんだけどね。怪異とか怪異とか怪異とか。
「私がいなければ死刑になっていた存在も少なくはありませんよ。」
「私にこんなことを言う資格はないけれど・・・
貴方は利益の為ならたとえ恐ろしい凶悪犯でも野に解き放つの・・・?私には理解出来ないわ・・・」
「利益の為だけじゃありませんよ。」
「!?」
「ただ純粋にそれを求めるだけなら、
こんなワンミスでもやらかしたら即破滅してしまうような超危ない橋は渡らず、
真っ当に探偵しておいた方が俄然良いに決まってるじゃないですか。」
「ならどうして・・・」
「2年前に5人死んだ事件あったじゃないですか。
あの両親が事故死した時に財産全部親族に持っていかれて、その復讐で殺したってやつ。
あれは私が犯人をサポートしてあげたんです。
計画の完遂まで警察が犯人に辿りつかないように私が捜査をコントロールすることによってね。」
「そんな事件もあったわね・・・あの時のワイドショーは一連、その話題で持ち切りだったわ。
でもその事件の話が貴方がこんなことをしている理由と何の関係があるの?」
「まあまあ、話は焦らず最後まで聞いてくださいよ。
あの事件の犯人は職を転々としているフリーターで、私の利益になるような財産や権力は一切持っていませんでした。
それでもその時の私はいつも以上に張り切ってました。それが何故か分かりますか?
復讐劇は誰も幸せにならない最高の題材だからです。
白状しましょう。私は人の不幸を見るのが大好物なんです。
だからこそ私の望む最高のシナリオ通り物事が進んでいってほしい。
その為に惜しむものなど何もありません。
ここで私の持っている能力、権利をフル活動してみせますよ!!!
それほどに私は悲劇が大好きなんです。
こんなにも心躍らされるものなんて他にはこの世界に存在しませんからね。
だけど過去に起こった出来事を見ていると、
ここがこうだったらもっとゾクゾク出来たのになっていう悔やまれる展開が出てくることが度々あるんですよね~。
ヒヤリハットなんかはその最たる例ですね。私が一番嫌いな言葉です。
だから私はそんなものを全て無くして、質の高いものを作り出して、それを楽しみたいんです!!!
私がこの地球上全てを掌握した暁には、社会を人々が飢えて争う戦場に変えて、
私ただ一人だけが安全な観客席に座って美味しいものを食べながら、
人々が苦しむ様子をいつまでも眺めていたいんです!!!」
私はつい熱が入り長広舌を振るってしまった。
「・・・・・・・・・」
犯人は唖然としている。
「貴方・・・とんでもない女ね・・・」
「誉め言葉として受け取っておきます。
そういう訳でとにかく私と仲良くなりましょうよ~!!!
私の家来になるって決して悪いことばかりではないんですよ。
私の所有物としての利用価値を高めるためにも、貴方にはもっと社会の階段を上っていただきたい。
具体的には私の頭脳をお貸しして、貴方にもっとお金を稼がせてあげます。
ね?お願いしますよ~!」
私は右手を前に差し出す。
元より犯人に拒否権など存在しない。犯人は観念して私と握手を組み交わした。
「これからよろしくお願いします!」
私は100パーセントの笑顔を向ける。
「痛い!痛い!なんでそんなに強く握るの!」
「だって私のこと殺そうとしたじゃないですか。それは許せませんよ~。
それにこのスイーツを食べられないのもショックなんです。
これ3000円のやつですよね?この前テレビで紹介されてたのを見ました。
ということで帰りに同じもの買うんで、3000円ください~。」
私はしばし手を握り続けた。
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