第31話「明智セシル-3」



「ふぁ~、いや~昨日は楽しかったなあ~。

やっぱり他人のお金でたらふく食べるのは自分で払って食べるのよりもはるかに美味な気がするよ~。」


朝の登校で私はまだ昨日参加した刑事たちの飲み会の余韻が抜けきっていなかった。

皆私に対する接待モードなので楽しくない訳がない。

私が将来警察官になると宣言した時は拍手の嵐で快感だった。

その中でも特にあの中年の刑事は良い人だったね、私にお土産のお寿司まで買ってくれたし。

あれは帰った後夜食として美味しく頂きました。ご馳走様でした。


「あれ?」


食べ物ことばかり考えながら歩いているといつもの道が急な工事のために立ち入り禁止になっていた。


「参ったな・・・ここから別の道に回るのはめんどくさいね・・・まあ通っちゃうか。」


私はここが本当は工事をしている訳ではないことを知っている。

中に入ると重装備の怪しげな恰好をした明らかに土木作業員のではない人間達が忙しそうにしていた。

これは間違いなく対怪異の組織であろう。


「皆さんお疲れ様です!」


私はここを立ち入り禁止にしている彼らを横目に通り抜ける。

私は彼らとも顔が利くので何かを言われることはない。


「おいレオ!!!お前なんでそんなに俺にキツイ態度なんだ!?

俺はただ今何が起きているかを知りたいだけなんだよ!?

もしかしたら、お前は何かとんでもなくヤバいことに巻き込まれているんじゃないか?

だったら俺にも話してくれよ!!!少しでもお前の力になりたいんだ!!!

俺達友達だろ!!!」


そこには同じクラスの鈴木仁成君と三方玲生君もいた。


「鈴木ヒトナリ・・・、僕はお前を友達だと思ったことは一度も無い。

お前に出来ることも何も無い。ただお前は僕に利用されてるだけでいいんだ。」


「は・・・?お前何でそんなことを言うんだよ・・・」


冷たい態度をとる三方君に鈴木君は滅茶苦茶ショックを受けている。これは素晴らしい表情だ。

朝っぱらからこんなものを見れるなんて今日はツイてるね。


「お疲れ様です!!!三方隊長!!!

今日もまた現れてしまったんですね、いつも平和の為にありがとうございます!!!」


私は三方君に向かって敬礼をした。


「お世話になっております、明智さん。これでも先月よりは少ないペースです。

また明智さんの知恵が必要になる時も来ると思うので、その時はどうかお願いします。」


「もちろんです!!!任せてくださいよ!!!それじゃあまた後で学校で会いましょう。」


私は三方隊長に向かって一礼した後、彼らに背を向けて歩き出そうとする。


「おいちょっと待てよ明智!?レオが隊長って一体何のだよ!?

その口ぶりからしてお前何か知ってるんじゃないか!!!知ってるなら俺に教えてくれよ!!!」


しかし、そんな私を鈴木君が呼び止めた。


「え~どうしよっかな~w。」


振り向いた私は鈴木君をニヤけながら迷う素振りを見せる。


「頼む明智!!!教えてくれ!!!レオの奴はまともに俺の話を取り合ってくれないんだ!!!」


「う~んw。」


正直教えても別に良い。

この世には怪異という存在が実在していて、三方君はその中で悪い怪異を倒すことを職業にしている人で、

鈴木君はその為に虫取りホイホイにされているということを

どのみち鈴木君の記憶は消去されて彼が真実を知ることはないから、

一度全てを知った鈴木君の反応を見てみたいとは思う。

でもまあ、それをやると三方君が気に食わないだろうな。私としては三方君はあまり敵には回したくない。


「・・・やっぱり駄目かな。私が鈴木ジンセー君に勝手に話したら三方君に怒られちゃうからね。

どうしても教えて欲しければ三方君に土下座でもしてみれば?まず、それくらい誠意を示さなないと。」


私は断るついでに適当なことも言う。


「・・・そうだな。」


すると鈴木君は神妙な顔をして頷いた。まさか鈴木君、やる気なのか。


「レオ・・・、きっとお前にも何か人には言えない事情があるのは分かる。

何も知らない俺なんかがずけずけと踏み込んで良い領域じゃないのかもしれない。

でも今こうやって訳の分からない化け物が俺達に襲い掛かってきて、そしてそれをお前が倒した。

そんな光景を見せられて『何も話せない』って納得出来るわけがないだろ!!!

お前あんな奴と戦うの今日が初めてじゃないよな?だって明らかに反応が落ち着いていた訳だし。

ひょっとして俺の知らない裏でこれは日常茶飯事なのか!?

だとしたら俺はお前が心配だ。

命の危機にさらされている友達を俺は他人事だなんて言って見捨てたくないんだ!!!

だから頼む!!!教えてくれ!!!教えてください!!!」


鈴木君は三方君に目を見て話した。

そしてすべてを言い終えた後、地面に膝を付き、手のひらを付き、おでこを付けた。

コイツやりおったなwww。


「おっと、この場に私はお邪魔虫だね。」


私はそう言って急いで2人のもとから立ち去る。これ以上笑いを堪えるのは苦しかった。


「アハハハハハハハハハハハ!!!」


そして周りに誰もいないのを確認し高らかに爆笑した。

鈴木君の土下座姿・・・、出来ることならあれも写真に残しておきたかったな・・・

あれは鈴木君があそこまでしても結局三方君は態度一つ変えることなく記憶を消してしまうことも含めて面白すぎる。



そして私は学校に到着し、それに少し遅れて三方君と鈴木君も現れた。

学校での鈴木君は案の定さっきの記憶を奪われてしまったようで、何事もなかったかのように平然としている。

三方君も何事もなかったかのように鈴木君の友達を演じている。


「おはよう在原君、今日も出たみたいだね。」


私はクラスメイトの在原崇君に話しかけた。

在原君も私の友達の一人だ。

在原君は女癖が非常に悪くて、浮気がバレて彼女を逆ギレで殺しちゃった時に助けてあげた。

昨日の事件の逆パターン。

在原君は対怪異組織の幹部候補だから色々と使えるんだよね。


「ふ~ん。まあどうせアイツが倒したんだろ。」


「まあね。私が三方君に会った時点で全てが終わってたよ。」


「お前らなんの話をしてるんだ?」


クラスメイトの鈴木喜朗君が話しかけてきた。

このクラスには鈴木が2人いる。まあ良くある名字だからね。

もう一人の鈴木君は在原君とよく話すことが多い。

この2人にさらに尾方祥真君、油井徳三郎君という2人のクラスメイトを加えた4人が

クラスの中でいわゆる一つの仲良しグループになっている。


「なんでお前に言わなきゃならねえんだよ。」


「そうは言わずに教えてくれよ。」


「めんどくせーわ。」


仲良しグループといってもぶっちゃけ在原君ともう一人の鈴木君はそこまで仲良くない。

もう一人の鈴木君は在原君のことを友達だと思って絡みに行くが、

悲しいことに在原君がもう一人の鈴木君を友達とは思っておらず、それをうっとおしく思っている節すら見られる。

もう一人の鈴木君は鈍感だから気づいてはいないけど。


「ただのオンラインゲームの話だよ。それが三方君が強いってだけ。」


「ふーん、何のゲームだよ?三方がゲームやってるのって意外だな。あんまりそういうの興味なさそうな感じだったから。」


「秘密。」


「なんだよ~明智まで。つれないなあ~。」


適当にもう一人の鈴木君を躱していると、近くにクラスメイトの並里君がいるのに気が付いた。

並里君はしょっちゅうこの学校の生徒とトラブルを起こしている。

そしてそれは大抵並里君の被害妄想の強さからくるものだ。

周囲の人間が自分の悪口を言ったんじゃないかと思い込んでしまうらしい。

そこで私は面白いことを思いついてしまった。

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