第32話「明智セシル-4」


「そういえばこのクラスの男子って背が高い人が多いよね。」


思い立ったが吉日、私は話を切り出した。


「そうか?そうでもないだろ。俺とあの白人野郎が目立ってるだけじゃないか?中央値で考えろよ。」


在原君は否定したが、実際にこのクラスの男子の平均身長は同学年の他クラスと比べて圧倒的に高い。

190㎝半ばの在原君はこのクラスどころが学校内で一番高いし、

在原君の言う白人野郎ことアメリカ人のティム・ヘイデン・スウェイン君も190㎝越えと在原君に次ぐ身長で、

在原君の言う通りこの2人で平均をかなり引き上げているというのは正しいが、

彼ら2人を除いた平均値でも、やはり他のクラスよりも飛び抜けている。


「いや中央値も177㎝ぐらいはあると思うよ。

私がざっと見た限りだから正確なデータではないんけど、このクラスの男子は多分16人中9人が175㎝以上だから、

やっぱり平均的な高校2年生より高いよ。

私は157㎝だからこのクラスの男子と立ち話するときはちょっと首がしんどいね。ハハハ。」


「へぇ~そうなのか。」


「これは本当にマジだと思う。俺の周りは在原は言うまでもないけど尾方も油井も普通に背高いからな。

俺がクソチビに見えて困るわ。一応俺も172㎝はあるのに。」


もうひとりの鈴木君が私に同意してきた。よしよし、話の流れは順調だ。


「は!?wwwお前172もあったのかよwwwぜってえ170ないと思ってたわwww

え?盛ってるとかじゃないよな?マジで今の今まで165ぐらいだと思ってたんだけどwww」


在原君が今日一の笑顔を浮かべ爆笑を始めた。これは完全にもうひとりの鈴木君を見下して馬鹿にしている。


「盛ってねえよ。盛ってたらすぐバレるだろ。健康診断の結果見せてやろうか?

なんかやたら俺をチビだと思ってるやつ多いけどなんなんだろうな?

なんなら俺鈴木ジンセーより若干高いからな。俺が小さいほうの鈴木とかたまに言われるの意味分かんねえんだけど。」


「いやちょっと待てwww流石に鈴木ジンセーがお前より背低いのはないってwww

だってあいつそんなちっさくねえだろ?175の三方とよく並んで歩いてるけどそんなに変わらんし。

お前絶対調子乗って嘘付いてるわwwwつまんねえ冗談もほどほどにしろってwww」


「いや本当だって。お前全然信じてねえな。」


「それなら実際に横に並んで立ってみたら良いんじゃなかな?私、鈴木ジンセー君を呼んでくるよ。」


そういって私は鈴木君の席へ向かった。

鈴木君は椅子に一人座りソシャゲに興じていた。ジャンルは音ゲーだ。


「ねえ、鈴木ジンセー君。突然で悪いんだけど、ちょっとこっちに来てくれない?」


「ん?なんだ明智?まあ別にいいけど。」


鈴木君はゲームで邪魔が入っても嫌な顔一つすること無く文句無く来てくれた。鈴木君は人がいい。

そんな人間が怪異によって日夜、生命の危機にさらされているのだからこの世界は面白い。


「で、なんだよ?俺に何の用事があるんだ。」


鈴木君はもう一人の鈴木君の横に立った。


「うわwwwやっべえwwwマジじゃんwww」


「ほら見ろ、だから言っただろ。」


それを見て在原君はゲラゲラと笑う。もう一人の鈴木君の言う通り鈴木君はイメージより背が低かった。


「な、なんだよ・・・何笑ってるんだよ・・・俺の顔に何か付いてるのか・・・?」


鈴木君は顔をしかめる。


「いや、鈴木ジンセー君は何一つおかしくないよ。笑ってるのはこっちの問題だから心配しないでね。

これでもう大丈夫だから、席に戻っていいよ。ありがとうね。」


「え?もう終わりなの?結局何の用事だったんだよ・・・?」


鈴木君は首をかしげながら自分の席へと戻っていった。


「いや~死ぬほど衝撃だわ。鈴木ジンセーって170ぐらいしかないんだな。全然そうは見えなかったわ。」


「まあ鈴木ジンセー君は小顔で背筋が伸びてるから、実際の身長よりも高く見られがちだね。」


それにしても、在原君は鈴木君の身長を知らなかったんだね。

鈴木君は護衛対象だから詳細な個人情報も資料にしっかりと記載されていて、

それを真面目に読んでいれば知っていたはずだけど。

こういうところで在原君は三方君に後れを取っているんだろうな。そりゃ小隊長の座も奪われる訳だよ。


「何もしなくても周りが勝手に良く見てくれる鈴木ジンセー羨ましすぎるわ。

俺なんて遠近法狙いでいつも在原より前に出るようポジションを意識してるんだぜ。

涙ぐましい努力ってもんだ。」


「ハハハwwwそれ効果あんのかよwww絶対ねえだろwww」


在原君の笑いが永遠に続くのではないかと思われたその時だった。


ダッ!


「・・・・・・・・・」


「は?何?」


突然迫ってきた並里君が在原君の胸ぐらを掴んだ。その表情には怒りが見える。

よし来た!釣られてくれた!ここまでは私の狙い通り。ガッツポーズとまではいかないが拳を小さく握りしめた。


「何か言えよ・・・あっ、コイツ口利けないんだったなw何か言ったら軽くホラーだわwww」


在原君は並里君を馬鹿にしているので声が出せないことも平気で煽る。


「私が今並里君の思っていることを推理したから代わりに代弁してあげるよ。

並里君は近くにいる私たちが身長談義を始めたから怒っているんだよね。

身長の低い自分への当てつけだと感じて。だとしたらごめんね。」


並里君は頷いた。私は安全を確保するため微妙に離れる。


「は?お前俺らが身長について話してたのが、お前に対する攻撃行為だと思った訳!?

いや、自意識過剰すぎだろwwwキッショwwwそれは病気だわwww

皆お前のこと道に張り付いてるガム程度にしか思ってなくて、誰もお前に興味なんてねえから安心しろよwww」


そして在原君は100点満点の台詞を吐いた。


「お前マジでメンヘラだよなあ~女々しいのは顔だけにしとけよw」


もう一人の鈴木君も在原君に乗っかって並里君を煽る。


「どうするお前?俺の奴隷になるなら今までの無礼含めて全部チャラにしてやるけどw

お前のことは死ぬほど嫌いだけど顔だけは評価出来るから、可愛がってやらんこともない。

自慢じゃないけど俺って結構守備範囲広いんだぜw?お前って下の口はおしゃべりだったりするのか?

そういう訳で俺にこれから辱めを受け続けるのか、それとも今ここで殺されるか、お前に選ばせてやる。

どうだミサトちゃあんwww?」


「やっべえな在原wwwお前男もいけるとか強すぎるわwww」


在原君が邪悪な笑みを浮かべる。

在原君は朝っぱらからレディがいる前でこんな低俗な話を始めるのがきついんだよね・・・

まあ性奴隷として調教される並里君は見てみたいかもしれない。

際どい女装なんてさせたら並里君は美形だし絶対絵になると思うしね。


ドン!!!


並里君は在原君を壁に叩きつける。そりゃ奴隷になるぐらいなら死んだほうがマシだよね。

お互いがお互いをにらみ合い、クラス内で緊張が走る。


「おっ?やんのか?いいぜ、かかって来いよクソ雑魚が。」


在原君が並里君を挑発する。

このまま勝負になれば100バーセント在原君が並里君をフルボッコにするだろう。

並里君に勝ち目など一切無い。かわいそうな並里君。

その光景こそが私の望んでいるものだ。並里君には私の日常の彩りとなってもらいたい。

しかし、


「やめろ!!!!!!!!!」


結局は三方君が在原君を制止してその場を収めてしまった。

三方君は流石だね。在原君は使えない、これじゃあ一生三方君には足元にも及ばないだろう。

でも私は残念には思わない。

今回の件は種となった、いずれ花を咲かせ実を結ぶ日がやってくるだろう。

少しずつだが確実に前に進んでいる。私はいつか来る日を焦らずに待てばいいのだ。

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