第33話「明智セシル-5」



・・・なんてことを考えながら、何てことのない日常を過ごしていたはずだったんだけどね。

まさかそれが全て崩れ去ってしまうような出来事に巻き込まれてしまうだなんて。

自分が不幸になってしまうのはシャクだよね。


でもいきなり災害とかで即死するよりかは運が良いほうかな。

このゲームに乗った上で色々と上手くいけば、生き残れる訳だし。

もちろん今更人を殺すことに抵抗なんて一切ない。今まで散々他人の命を弄んできたんだから。

私はあくまで観客であり、自らフィールドに立つことは美学に反するけれども、

その為に最も大切なのは五体満足であることなのだから、

それが脅かされようとしている今、拘りなどは一旦捨てるべきだろう。

あの影な何者なのかは分からないが、まあヤバい存在であることは馬鹿でも分かるよね。

それに戦果に応じて与えられるという報酬も気になる、その為にもやはり絶対に生き残らなくては。

正直私って運動神経は至極平凡だから不安しかない。

せめて従えている怪異を呼び出すことが出来たら違ったんだろうけど。

だが、どうしようもないことを嘆いても制限時間が迫ってくるだけだ、

身体能力は明らかに強化されてるし頑張るしかない。


「よし!!!いっちょ頑張りますか!!!やるからには私の視界に入った愚民共を一人残らず地獄に叩き落してやりますよ。」


私は人々を次々と手にかけていく。

この体はどうやら一撃で一般人を倒せるレベルの力があるらしい。

人間の急所というものをいちいち意識しなくても、闇雲に腕を振り回しているだけで致命傷を与えることが出来る。

完全に作業ゲーって感じだね。ノルマが200万人といのはかなりかったるい。


「あれ?」


そんなことを考えていると一人の黒色人種の男の子供を殺し損ねてしまった。


「うう・・・痛ってえ・・・」


子供はその場にうずくまる。顔つきは幼いが体格は私よりも良い。やっぱり外国人は大きいね。

真っ白な妙な服を着ていたが、どんどんと赤くなっていく。


「ミスちゃったかな・・・やっぱり体を動かすのは苦手だね・・・」


私はさらに一撃を加える。


「ゴホッ・・・やめてくれ・・・」


しかし、子供は死ななかった。

一発目と違って二発目は人体の構造を考慮に入れたものだ。

この力を与えれば普通の人間なら死ぬはずだ。


「そうか・・・君って神様に選ばれた子か。」


「カハッ!!!アンタはイカれてやがる・・・なんであんな奴らのことに従っちまうんだ・・・」


「なぜって、これが最善の行動だからに決まってるからじゃないですか。

お姉さんは頭の良さには自信があるんですが、これ以外に出来ることが分かりませんね。

強いてあげるとすれば無念を抱いて死ぬことぐらい?

それとも君は他に何か良い考えを思いついてるんですか?」


「だからといって、よくこんな残酷な真似を・・・!アンタはクソッタレだ・・・!」


「ハハハwクソッタレねえ・・・まあそれは否定しません。

お姉さんはクソッタレ中のクソッタレです。

そういうわけなので今から君の息の根も止めさせてもらいますね。

一般人を1人殺しても私達のノルマの200万分の1にしかなりませんが、

君みたいな神様を1人殺せば33分の1ですからね。

嫌なら立ち向かって来なさいよ。私としてはこのまま無抵抗で死んでくれたほうが助かるけど。」


「そんなわけにはいくかよ・・・!」


子供は立ち上がり私に飛び掛かってくる。泥仕合が始まった。

こんな殴り合いの喧嘩なんて産まれて初めてだから、なかなか思うようにはいかない。

力も相手の方が強くて、攻撃を受け続けるのが辛すぎる。

相手もそこまで格闘に精通しているわけではないのが不幸中の幸いか。


「ハァハァ・・・このクソガキ・・・レディ相手に容赦ないな・・・

もっと紳士としての心持ちを・・・グハッ!!!」


私の顔に鋭いパンチが入った。


「お前は俺達にとって敵でしかないんだから、性別とかどうでもいいだろ!!!」


「くっそお・・・この野郎・・・今の私の顔とか鏡で見れなないじゃん・・・

どうして私がこんなことに・・・ふざけやがって・・・おりゃああああ!!!」


そして気の遠くなるような苦しい戦いに終止符が打たれた。


「グッ・・・」


起き上がることの出来なくなった子供を私は見下ろしている。あとは止めを刺せば私の勝利だ。

勝負を分けたのは殺意の差だろう。このゲームにおいては必要不可欠だ。


もっとも私も限界は近い。立っているのがやっとで、今誰か別の神様に襲われたら私は終わりだ。

右腕なんかは曲がってはいけない方向に曲がってしまい感覚が無い。


「全く・・・こんなにしてくれちゃってさ、本当は簡単には死なせずに甚振ってやりたいところだよ。

まあ、時間も余裕もないからさっさと終わらせちゃうけど、君は運が良いね。」


「俺はあいつ等のためにもまだ死にたくねえよ・・・」


「ハハハ、最期に良い顔見せてくれるじゃん。」



「ハァ・・・ハァ・・・」


満身創痍の私はその場を離れて身を潜める場所を探していた。残りの時間は隠れてやり過ごすつもりだ。

普段は涼しい顔をしている私が顔面崩壊レベルにまで体を張ったんだ。十分仕事は果たしたであろう。

後は元からこのゲームに参加していたメジャーリーガーと私同様に巻き込まれた他のクラスメイト達に頑張ってもらいたいね。

やっぱり期待できるのは組織の隊員である三方君、在原君、内浦さんの3人かな。

日頃の経験による高い戦闘能力は勿論のこと、

それに加えてその場で選択して何かを切り捨てることが出来る非情さというものを

持ち合わせているから確実に活躍してくれるはずだ。

逆に言うと他のクラスメイト達はそれを持っているのかが未知数だから不安だね。

今まで殺すとか殺さないとかそういった世界とは無縁の普通の生活を送ってきた人達な訳だから。

純粋な身体能力だけで考えるなら、

演劇部の謝さん、野球部の本山君、空手部の佐谷君、

サッカー部の平田君、バイクレーサーの尾方君の5人は

全国レベルで組織の人間とも引けをとらないと思うけれども、

このゲームに乗ってくれるかというと話は別だ。

特に謝さんと本山君は薄ら寒い綺麗事ばっか掲げてる姿が容易に想像できる。

佐谷君に関してはよく分からないけれど多分そっち側だろう。

逆に尾方君はこういうの面白がってくれそうな気がするな。

尾方君は在原君に組織にスカウトされたことがあって、その時かなり乗り気だったって話だから。

結局は三方君が尾方君と面談するところまでいったんだけど、

どういう訳か三方君が不合格にしちゃってこの話は無くなって、在原君が死ぬほど私に愚痴ってきたんだけどね。

平田君も彼が抱えているとある事情を考えると乗ってても驚かないかな。

やっぱり殺しに乗る人は少なそうだな・・・。どんなに多くても十数人ってところか。

殺しに乗ったところで生き残れるとは限らないしさらに減りそうだ・・・

私だって状況としてはかなりヤバい訳だし。これはキツイな・・・

組織の隊員達と尾方君と平田君以外でゲームに乗りそうな面子が私含めて軒並み弱いんだよね。

山野上君、並里君、筆木君、花畑さん、笹岡さんあたりの心に闇を抱えてるメンヘラ達は乗っててもおかしくないんだけど、

こいつ等全員私より弱いまである。

並里君とか普段あんなに周りに噛みついて喧嘩してるのに勝ったことを見たことがないレベルで弱い。

筆木君と笹岡さんは体育の授業とか球技大会とかで見る限り鈍くさいポンコツだけど、

中学時代はそれぞれ卓球部と陸上部でそれなりに結果を残した時期もあったから、

復活すればまだ期待出来る方だけれども、この2人は自殺してる可能性も高いんだよね。

山野上君と小城さんに関しては論外かな。

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