第11話「天海ケーゴ-4」


無差別に人々を殺害していくと、新たに分かったことがある。それは殺害後に変化する影のことだ。

発生する影の9割は人の形をしているが、残りは違う生物の形となるようだ。

俺がたった今殺害したばかりの老人は四足歩行獣の影に変化した。

影の形から見てチーターだろうか、凄まじい速さでここから走り去っていく。

この影も人を殺しに行くのだろう。この速度では触れた衝撃だけで死ねるな。

並ぶビル達が示すように、ここにはかつて生活があった。

そんな生活がよく分からないゲームなどというもの全て消え去っていくなんて、やはり世界とはふざけている。

とはいえ、こんなどうしようも出来ないことを嘆いている時間は無い。


「確か制限時間は30分だったよな・・・もう半分も過ぎてしまっている・・・」


立ち止まっている暇は無い、少しでも多くの人数を殺さないといけない。

もうここには生きている人間などいない。別の場所への移動が必要だ。

レアな確率で人型ではない影が現れるということだが、それよりもさらにレアな確率で武器が現れると言っていた。

もしこの先対戦相手の神様と遭遇してしまった場合、

長年ベッドで寝込んで昨日までロクに運動することが出来なかった俺では対応することが出来ないだろう。

経験や技術が圧倒的に足りない。

俺がこのゲームで生き残る為には武器の存在は必要不可欠だ。などと考えていると・・・


「これは全部君がやったのか?君はあの影の言う事にに従ってしまったっていうのか!」


遭遇してしまった・・・何というタイミングだ。いや、むしろ今になるまで一人だったのが幸運だったのか・・・


「・・・・・・・・・」


俺は相手の神様の姿形を目にして内心少し驚いた。

その姿は俺が毎週愛読している週刊少年ジャンクの人気漫画『ダークブレイカー』の主人公である

神谷ユウキに酷似していたからだ。

着ている服装が軍服のようなもので原作とは違うもののこれがコスプレならかなりクオリティが高い。

SNSに投稿すればたちまち人気者になれるだろう。俺も勿論フォローする。

しかし相手がコスプレイヤーだろうがなんだろうか関係ない、俺と彼は敵同士なのだ。隙を見せてはいけない。

俺は平然を装って静かに答える。


「ああ、そうだ。ここら一帯の人間は俺が全員殺した。」


「君はあの影の言うことに従ったというのか!?こんなに人を殺して君は何も思わないのか!?」


「申し訳ないとは思っている。だが他にどうしろというのだ。

俺自身の命が懸かっている状況なんだ。例え悪だのエゴだの言われようが俺は生き残ることを最優先する。」


「生き残りたいからって、あの影の言う事を鵜呑みにするのかよ・・・!

あの影に利用されるだけ利用されて切り捨てられるかもしれないんだぞ!!!」


「お前の言っていることは正しい。だが何を言おうが俺はもう大量の人間を虐殺してしまった。

その事実は変えることは決して出来ない。それならば俺は自分の判断を貫くまでだ。」


「つまり君は人殺しをやめるつもりはないということか!!!」


俺達の間に緊張が走る。戦うしかないのか・・・

体格を見てみると、背丈はざっと170後半ぐらいで俺と同じくらいだが、

その捲り上げられた袖から見えるよく鍛えあげられた腕から分かるよう筋肉量が俺と圧倒的に違う。

戦いになれば負けるのは確実にモヤシである俺であろう。

そう考えると俺はこの軍服の男からどうにかして逃げないといけない。

勿論追いかけられるにしろ生きている人間がいる場所まで辿り着くことが出来れば、

僅かな可能性だが武器が手に入るかもしれない。

俺が勝つとすればその方法しかない!


「お前は漫画が好きなのか?」


軍服の男の集中を少しでも紛らわせる為に俺は突拍子も無く問いかけた。


「いきなり君は何を言っているんだ!?

漫画なんて金持ちの嗜好品だ。僕みたいな一傭兵に手が出せる代物な訳ないじゃないか。」


軍服の男は困惑しながらも答えてくれた。この男は敵じゃなければ良い人なのかもしれない。

それにしてもこの答えはなんだ?何かの冗談か・・・?


「ちょっと待て、漫画がお金持ちの嗜好品ってのはいくら何でも嘘だろう?

俺も庶民だが娯楽として余裕で買えるぞ、一冊500円ちょっとくらいじゃないか!」


「君はずっとお金持ちのお屋敷の中から出ずに育ったのか?いくら何でも世間知らずが過ぎるよ。

ていうか、エンって何?」


どういうことだ・・・?さっきから話が全然噛み合わないではないか!

おっといけない、俺が集中を切らしているではないか・・・ここは一度冷静になれ。


「失礼したここは日本ではないんだったな。エンとは日本国の通貨の単位だ。」


「日本か・・・、僕のルーツも日本だ。

でもなんでそんな国の話をいきなり始めるんだ?日本はとっくの昔に滅んでしまったじゃないか!」


「滅んだだと!?!?!?!?!?!?!?!?」


俺は今日一番の大声を叫んだ。ここであの影が言っていたことを思い出す。

そういえば俺はパラレルワールドに送り込まれているのだったな・・・

何らかの要因で日本という国家が滅亡してしまった世界ということか・・・

どうりで話が食い違う訳だ・・・俺と軍服の男では生きていく上で獲得した一般常識が全く違う訳なのだから。

納得した俺は一度深呼吸をする。


「どうやら、俺の生きる世界とお前の生きる世界では大幅な相違があるようだ。少しお互いの世界の確認をしないか?

申し遅れたが俺は天海敬悟、俺の世界では日本は滅んでなくて、俺はその国の高等学校に通っている。」


「僕はユウキ・カミヤだ。

僕の世界では30年ほど前に人類の80%が亡くなってしまうほどの第三次世界大戦が起こって、

そのせいで文化や技術は衰退して治安も悪い社会になってしまった。

貧しい僕は親を亡くし学校に行けずロクな職に就けないから、幼い家族を養うためにこうやって傭兵をしている。

この世界の大半の男は僕と似たような人生だ。」


軍服の男の口から語られたことに俺はまたしても驚く。

第三次世界大戦が起こってしまった世界というのも当然驚くが、一番はユウキ・カミヤという名前だ。

ユウキ・カミヤ・・・、神谷ユウキ、週刊少年ジャンク連載の『ダークブレイカー』の主人公だ。

軍服の男は漫画に手を出したことは無いと言った。

それを信じるなら、名前の一致は偶然ということになる。となると、そこから導き出される実に面白い結論が1つある。


それは、

『俺の生きる世界では架空のキャラクターとして存在していた神谷ユウキが、

パラレルワールドでは実在の人物として存在している』

ということだ。


何ということだろう。もしこれが事実ならとんでもないことだ。

『ダークブレイカー』の主人公の実在しているなら、あの漫画の可愛いヒロイン達も実在しているかもしれない。

是非とも一目会ってみたいものだ。神谷ユウキに聞きたい話は山のようにあるな・・・

だが、そんなことをしている時間は残されていない。


「それはお前にピッタリな名前だ。では。」


俺は神谷ユウキの不意を突き背を向けて全力でダッシュする。


「なっ!?また君は人を殺しに行くつもりか!!!させるか!!!」


ドン!!!


俺は一瞬で神谷ユウキに追いつかれてしまった・・・

あまりに俺が鈍足すぎた・・・まともに走ったことが無いので仕方のないことだが・・・


「これ以上君の犠牲を増やすわけにはいかない!!!」


戦いの火蓋が切られた。とは言っても俺が一方的にボコられるだけなのだが・・・

まずい・・・このままでは俺は死んでしまう!そう思った時だった。


「天海さん、大丈夫ですか!?いや、大丈夫ではないか・・・」


その声と同時にボサボサ頭で襟足の長い男が現れた。

彼は俺のクラスメイトの筆木静荷君。いつも暗い顔で無口なので俺がその声を聞いたのは初めてだった。

彼もこのデスゲームに巻き込まれていたのか・・・!

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