第10話「天海ケーゴ-3」
キーンコーンカーンコーン
「さあお前ら今日も授業を頑張ろうな!」
担任の綱田先生が入って来た。朝のホームルームの始まりだ。
「起立!礼!着席!」
クラス委員長の公平真央さんの大きな声がはっきりと響き渡る。
俺は何も考えずに席に着くと驚愕した。
座ったときに椅子に触れた感覚がクッションでも敷いているかのように柔らかかったのだ。
俺が辺りを見渡すと周りに綱田先生やクラスメイト達は誰もいなかった。
俺はいつの間にかホテルの部屋のような場所でベッドに腰かけていた。何が起こっているのか理解出来なかった。
◇
俺はこの部屋に閉じ込められている。携帯電話も繋がらない。
そんな危機的状況の中、俺はそんなことがどうでも良くなるほどの違和感を感じ取っていた。
俺はベッドで飛び跳ねてみる。
プルルルルルルルルル
「あっと!」
突然鳴った音に驚いて、俺は情けない声を上げてベッドから落ちてしまった。
頭からいった。今のは結構危ない落ち方だった・・・
起き上がった俺は恐る恐る内線の受話器に手を伸ばす。
不気味でしかなかったが密室に閉じ込められているという現状を打破するには出るしかない。
「もしもし・・・貴方は誰ですか・・・?」
「あなたは今日から神様です。」
受話器の声は若い男のようだった。
受話器の声は自分の正体を明かすことなく常識では考えられないような荒唐無稽な話を語り始めた。
俺は質問を交えながら、真剣に受話器の声の話を聞く。
「神様というのは要するにプレイヤーのことだろう?俺はとんだデスゲームに巻き込まれってしまったようだな・・・」
俺は受話器の声が言っていることを何一つ疑うことなく信じた。
「貴方はお人よしなんですか?こんな私のこんなふざけた話を全て信じてしまうなんて。」
後方から声がしたので振り返るとそこには若い男の影そのものがあった。
受話器の声とよく似ている・・・もしかすると一瞬のうちにわざわざこちらまで出向いたというのか・・・
こうやって目の前で声を聞いていると分かったことがある。この影の声は俺自身の声だ・・・!
「別にお人好しではないさ・・・むしろ性格は悪いと自負している。
ただお前の話には信じるに値する根拠が2つあった・・・それだけだ。」
「2つの根拠ですか・・・」
「ああ、まず1つ目は俺の身体だ。
俺は物心付いた頃から重い病におかされていてな、常に気だるさや息苦しさに付きまとわれていた。
ところがだ、この部屋に来てからの俺は人生で一番体調が良い!
ベットで飛び跳ねるなんてことは以前の俺では絶対に不可能だった。」
「人間ではなく神様の肉体になったことによる効果ですね。」
「神様か・・・俺は生まれ変わったというわけだな・・・」
デスゲームに巻き込まれてしまったという状況なのにも関わらず、俺の口角が思わず上がってしまった。
長年求めて続けて、それでも手に入らないことにコンプレックスまで感じていたものが、
今こうして自分のものになっている。なんと素晴らしいことだろうか。
「お前は神様の座を降りるには死しかないといったが、逆に言えばいつまで神様でいれるんだ?
神様とやらも老いて死ぬのか?」
「神様に寿命は存在しません。老いることもありません。
貴方は戦いで息絶えることがない限り不老不死の存在であり続ける事が出来ます。」
「不老不死、か・・・」
魅力的な言葉に俺はますます笑みをこぼすことをやめられない。俺は最低な人間だ。
永遠の命を得る為に俺はこれからこのゲームに乗って、大量の人々を殺す気でいる。
「貴方からは戦いに対する高い士気を感じます。これは期待できますね。
ところで、貴方が私の話を信じるに値すると判断した2つ目の根拠とは何ですか?」
その質問を問いかけられた瞬間、俺の顔から笑みが消える。俺は静かな怒りを露わにし答える。
「お前はこの話をふざけた話だといった。だが、考えてみてほしい。
この世界はいつだってふざけた話でありふれているじゃないか!!!
そうでないというのなら、なぜこの世に生を受けたばかりの少年が、この俺が病に冒されなければならなかったんだ!!!
俺だけじゃない、院内学級の皆だってそうだ!!!
あそこには予期せぬ病気や事故で苦しんでいた子が沢山いた!!!
アズサちゃんやヨシトモ君は命を奪われた!!!
俺達だけじゃない!!!一体この世界に何人襲い掛かった不幸の犠牲になった人間がいると思っているんだ。
今、笑顔の人間だって明日になれば笑えないことになるかもしれない!!!
この世界はふざけてしかないんだ!!!」
俺はベッドに拳を叩きつけた。
大声でまくし立てた俺に対して影は何の感情も抱くことはなかったようで淡々と話を続ける。
「それでは、戦いの始まりです。いってらっしゃいませ。30分後に笑顔で再会出来ることを祈っております。」
「・・・始まるのか。」
このふざけた世界は俺の命を奪おうとしている。・・・俺はそんな世界に負けたくない。
たとえどんなに汚い手を使って悪だと罵られようが生き残ってやる。
眩しい光が俺を包み込んだ。
「Oh my god!What's happening?」
俺はどこかの街中にいた。周りにいる人々は明らかに日本人ではない。
彼らの話している言語も英語だ。奇妙なことに俺には彼らの話していることがはっきりと分かる。
彼らは騒然としていた。どうやら見えない透明な壁が現れたらしい。
俺は彼らとともに壁に触れてみる、叩いてみても体当たりしてみてもびくともしない。
この異常事態・・・、やはり影の言っていることは事実なのか。
俺は覚悟を決めた。
「Excuse me!」
驚くほどネイティブ並みの発音が俺の口から出てくる。
中年の男性が振り返ったので俺はその男性の腹部に向かって拳を振りぬいた。
「な・・・なんだこれは・・・」
俺の拳は胴体を貫通し、腕を引き抜くと男性は意識を失くして倒れこんだ、周囲が悲鳴に包まれる。
俺に近づこうとするものはいなかった。
考える間も無く俺が初めて殺した人間は影に変化して、逃げ惑う人々に襲い掛かった。
俺も間髪入れず次々と人を殺めていく、体を動かしていないと心がどうにかなってしまいそうだ。
もう後戻りは出来ない。
影は人を殺してくれるが、どうやら影に殺された人間は影に変化しないらしく死体のまま地面に転がっている。
より多くの人間を殺すためには影に任せきりにせず、
自分の手で新しく影を増やしていかなければならないという訳か・・・
残酷なゲームだ。
あの影はこの世界に神様とやらが33人いるといった。
つまり俺以外にも32人が人殺しを強要されてしまったという訳だ。
果たして俺と同様にこのゲームに乗った人間は何人いるのだろうか・・・
普通の人間なら乗らなくて当然だろう。
例え殺されるのだとしても人を、それも何の恨みもない人間を殺したくはないものだ。
今頃彼らはこの状況を脱却するために何か他の手段に講じているだろう。
例えを挙げるとすれば警察に駆け込むというのがまず一番に思い付く。
まあだとしても警察には何もできないであろう。
この事態を引き起こした黒幕は、他人を瞬間移動させたり超人的な能力を与えたりと
現代科学では考えられないような技術力を持っている。
そんな相手にどう立ち向かおうというのだ。
話が逸れてしまったが、要するにこのゲームに乗らない人間は何人も出てくる。
このゲームで勝とうと思えば、当たり前の話だがゲームに乗っている俺が彼らの分まで働かなければいけないということだ。
「はー・・・とりあえず今は何も考えず機械でいるべきだな。」
俺は休まずに街を駆け回る。
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