第9話「天海ケーゴ-2」
「おっ?やんのか?いいぜ、かかって来いよクソ雑魚が。」
胸ぐらをつかまれている男子が相手を煽る。
彼の名前は在原崇君、クラスでは優等生に位置し、背が高くてよく女子にモテている。
だが彼は聞いている限り他人を馬鹿にしたような発言が多く、正直言って俺は苦手だ。あまり関わりたくない。
「・・・・・・・・・・」
胸ぐらを掴んでいる男子は何も言わず、より強く在原君を壁に押し付けることで怒りを表す。
何も言わずというかは、何も言えないと言ったほうが正しいか。彼は声を発することが出来ないらしい。
彼の名前は並里一太君、
どちらかというと小柄で中世的かつ美形な顔つきで髪の毛も肩まで伸びている為、ぱっと見は女子に見える容姿だが、
それとは裏腹にかなり凶暴な性格をしており大の問題児だ。
俺自身も並里君と目が合っただけで、ブチ切れられて机を蹴られたことがある。彼ともまたあまり関わりたくはない。
なぜこのような状況になっているかは分からないが、
恐らくは在原君が並里君を挑発したか、並里君が在原君に突っかかったかのどちらかであろう。
「全然来ねえなwチキン野郎すぎるだろ。
まあ弱い犬ほどよく吠えるって言うしな、今から土下座して学校辞めるってなら許してやるぜ。
お前が辞めたらお友達の山野上も辞めてくれるだろ?
お前ら2人はマジで害悪すぎてずっと俺の前から消えてほしいって思ってたんだよ。自殺してくれたら尚良しだな。」
「・・・・・・・・・・!」
ドン!
並里君は在原君を壁に叩き付ける。
在原君の言う山野上とはクラスメイトの山野上悠理君のことである。
見渡す限り山野上君は今日はまだ学校には来ていないようだ。
並里君は学校生活でほぼ全員を敵に回しているが、唯一例外として山野上君とだけは仲が良い。
山野上君の前では常に不機嫌そうな表情の並里君も笑顔を見せている。
この山野上君というのも素行が悪いことで有名だから、同じ問題児同士で馬が合うのかもしれない。
「おっと、いけねえや。
お前耳は聞こえるんだったよなw、ついつい聞こえてないものと勘違いして過激な発言をしてしまうぜ。」
在原君は壁に打ち付けられても、痛くも痒くもないという素振りで涼しい顔をして並里君を煽り立てる。
そして在原君の顔がニヤケ面から真剣な表情へ変わると共に、並里君の手首を掴んだ。
「まあ、そんな紛らわしいのも俺が今日で終わりにしてやる。今からお前の鼓膜潰すわ。
ついでに両目もオマケして、三重苦で二度とシャバに出てこれねえようにしてやんよ。」
なんという発言だ・・・!在原君という人間は平気で一線を超えるな・・・
手首を掴まれた並里君の表情が苦痛を浮かべる。
在原君は細身であるが、かなりの握力を持っているようだ。
ドン!
華奢な並里君はいとも簡単になぎ倒される。
「秒で終わらせてやるわ。
これからの人生は俺に舐めた口を利いたことを一生後悔しながら生きていくんだな。
あ、口を利いてはいねえかw」
在原君は腕を振り上げ並里君に殴りかかろうとする。その瞬間、
「やめろ!!!!!!!!!」
ドスの効いた低い声が教室に響き渡る。誰の声なんだこれは?
在原君は声の主に心当たりがあるのか、その人物の方向へ向いた。
「なんだよ、三方?並里がクラスで皆に迷惑かけてんのはお前も知ってるだろ?
こんな消えても別に誰も困らねえような野郎庇うとかお前正気か?」
なんと今の声は三方君だったのか!?こんな声を出せるとは知らなかった・・・
表情も普段の優しい表情から冷酷な表情に変わっている。
「別に庇ってるわけじゃない。問題はお前だ!!!
お前の近頃の言動は身に余るんだよ。そんなに拳を奮いたいなら相手になってやろうか?」
三方君は鋭い目で在原君を睨みつける。もし、あんな目で見られたら俺は泣いてしまうだろう。
「・・・チッ、命拾いしたな、並里。」
在原君は逃げるようにしてその場を去っていく。
「おい、どこに行くんだよ在原。」
在原君の友達である鈴木喜朗君も在原君の後を追って教室を出て行った。
「はあ・・・本当に在原君には頭を抱えさせられる。」
在原君がいなくなったのを見計らって三方君は女子達のもとへ戻っていった。
「あ、争いを止めるなんて、三方君は紳士ね・・・」
「ほ、本当にそうさ!今の三方君は最高に男前だったよ・・・」
「み、三方もやるときはやるじゃん・・・」
堅田さんも羽地さんも仲丸さんも三方君の普段は見せない意外な一面に驚きを隠せていないようだった。
「さっすが三方クン、かっこいい~!!!も~どこまで私を惚れさせたら気が済むの?」
「だから内浦さん近いって!!!」
そんな中内浦さんだけは平然とした様子で、三方君に密接していた。
「あっ・・・」
俺は三方君と目が合った。
「ちょっと行ってくるよ。」
三方君はそう周りの女子にことわって、ノートを何冊も手にして俺の元へとやって来た。
「天海さんおはようございます。これは天海さんが休んでいた間の授業ノートです。」
三方君は優しい男だ。俺が学校に登校したとき毎回何かとつけて気にかけてくれる。
だからこそ、彼は怒らせると怖いのだと今回の出来事で理解した。
礼儀を持って接しなければ・・・・
「三方さん、いつも私の慈悲深い行動の数々を施していただきありがとうございます。
さきほども貴方は身を挺して喧嘩を止めました、賞賛すべき素晴らしい行いです。
貴方はきっとこれからもこの人間社会をより良くしていく存在でしょう。
そのような人物に出会えた事を感謝し、少しでも貴方に近づけるように私も精進していきたいです。」
そういって俺は深く頭を下げた。どうだ・・・?
「どうしたんですか天海さん、なんで急に僕に敬語を使いだすんですか・・・?
三方君は俺の言葉にただただ困惑している。へりくだりすぎたか・・・
失敗したな、度が過ぎてかえって相手を不快にさせてしまったかもしれない・・・
俺というのは本当に人と接するのが下手くそだな・・・
「い、いや、今のはちょっとした冗談だ。気にしないでくれ。
嫌な思いをしたというのなら、申し訳ない・・・」
「そうですか、別に嫌な思いなんてしてないですよ。
あっ、そうだ・・・それで授業でやった範囲なんですけど・・・」
三方君はさらりと流してくれた、ありがたい・・・
全く・・・俺は三方君に甘えてすぎている・・・
こうやって三方君の方から歩みよってくれるのだから、
俺のほうからも何か楽しい雑談でもして、より距離を縮めることが出来ればいいのだが。
「あ、あの三方君は・・・」
「ん?どうしたんですか?」
「いや、なんでもない。本当に助かったよ、ありがとう三方君。」
「どういたしまして!」
1人になった後、俺は席で頭を抱えた。
『三方君は週刊少年ジャンクを読んでたりするのか?』
この一言が言えずに俺は話を切り上げてしまい、三方君は女子達のもとへ帰ってしまった。
またやってしまった・・・何回目だ・・・これはもう友達とか無理かもしれないな・・・
「おはよう並里君、なんか服が汚れてるね?どっかで滑って転んだの?掃ってあげるから後ろ向いて。」
登校してきた1人の男子が並里君にフレンドリーに話しかけた。
先ほどの件で不機嫌だった並里君も彼の前では笑顔を向ける。
彼が山野上悠理君だ。
山野上君は身長が150cmほどとかなり小柄で童顔だから、制服を着てないと小学生に見える・・・
「ねえ~聞いてよ並里君。さっき駅で滅茶苦茶ムカつくことがあってさあ。」
他にも生徒たちが次々登校してくる。
どうやら今日は珍しく2年A組全員出席のようだ。
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