第15話「筆木シズカ-11」


「お疲れ様でした。素晴らしい働きでしたよ。

2日目の戦いは1年後になります。ゆっくりと体を休めてください。」


そして俺の予想通りに影は現れた。予想と違ったことに影は俺に対して拍手をしていた。

そして影は次の2日目の戦いの話をしている。

次は1年後・・・確か戦いは6日に分けて1日30分行われると言っていたが6日連続という訳ではないのか・・・

次が遠すぎるだろ・・・

だがそんなことはどうでもいい、もしかしてこれは俺は殺されないということなのか・・・?

俺はそのことについて話を切り出す。


「それは皮肉なのか?俺は1人しか殺してないしお前の望む働きなんぞ一切出来てないと思うんだが。」


「いえいえこれは素直な賞賛ですよ。1人殺したという事実が素晴らしい。」


「じゃあ俺はお前に殺されはしないってことか?」


「勿論その通りです!」


「そうか・・・正直ここで死ぬ気満々だったんだけどな・・・」


「貴方は今死にたいのですか?」


「まあな、正直この世界にいても俺の心が蝕まれ続けるだけだし。正直生きる理由なんて全く無いわ。」


「そうですか・・・

貴方が死にたいというのならその願いを尊重しますが、ここは私の話を聞いてからにしませんか?」


「あ?話ってなんだよ?説教でもおっぱじめる気かよ?

先に言っとくけど生きたくても生きられない奴らとかどうでもいいわ。

俺が生きたところでそいつ等に対して何も出来んだろ。」


「そんな話ではありませんよ。この戦いの報酬についての話です。」


「報酬!?これって金貰えるのか!?」


「お金ではありません。」


「なんだ違うのか。」


「ですがお金に換えることも出来ますよ。この報酬を手にすれば貴方の心の痛みは軽減されるかもしれません。」


「それ聞き捨てならねえな。ちょっとやそっとで俺のボロボロに傷ついた心が良くなるわけねえだろ。

一体その報酬ってなんなんだよ!?」


「それは神貨です。」


「神貨!?なんだよそれ!?」


「神貨とは通貨ようなものです。戦いの戦果に応じた量が毎日神様の元へ振り込まれます。

そして貴方が影に申し出て必要な神貨を消費すれば、この世界の事実を何でも好きなように書き換えることが出来ますよ。」


「事実を書き換えるって、

例えばそれまでは存在していなかった食事中に肘をついてはいけないっていうマナーを、

あたかも以前からの存在していたかのように加えるとかか?」


「はい、その通りです。それに必要な神貨を貯蓄することが出来れば可能です。

もっとも常識を改変するにはかなりの神貨が必要になりますが・・・」


「なるほどな・・・やはりそういう技術はあったのか・・・

これは世界の嫌がらせは実在するという裏付けだな・・・

俺の所有物を隠してくるやつがどこかにいるということだ!!!」


「これは神貨の通帳です。あなたにお渡しします。」


影から渡されたのは普通の銀行通帳にしか見えなかった。


「俺の神貨とやらはまだ0みたいだな・・・これはいつ振り込まれるんだ?」


「毎日10時に行われる発表会が終了次第、振り込まれるようになっています。」


「発表会ってなんだよ。そんなもんあるのかよ。何の発表があるんだよ。」


「発表会とは神貨を使用して何の事実をどのように改変したかを他の神様に発表するものとなっています。

参加は自由ですが発表をしないと改変した事実は無効となってしまいます。」


「それは結構きつくね?

例えばエロ漫画とかにありそうな常識改変を実際に神貨を使ってやってみて、

女の普段着をバニー服とかにしたとしたら、それを他の生き残ってる奴らに言わなきゃいけないってことだろ。

発表会っていうか思いっきり性癖を他人に暴露する羞恥プレイ大会じゃねえか。

それに動じないメンタルが必要だろ。」


「おっしゃる通りです。ただ神貨とはあくまで報酬、使用しなければならない義務はありませんのでご安心ください。」


「でもまあ興味はあるから1回ぐらいは多分使うと思うわ。積極的にやるつもりはないけど。

そもそも俺って既に存在自体が恥そのものだから、今更落ちるような評判とかもないしな。

世界改変をしたらそのことを言ってしまえばそれだけでOKってことでいいのか?」


「改変が有効になる条件はそれだけでは無く、

発表後に発表会に参加している他の神様の内の誰かが反対しなければ有効となります。」


「うわっ、ダルっ。そういうのもあるのかよ。反対とかされて無効になったらマジで腹立つな。」


「ですが、ご安心ください。反対を表明するのにも神貨が必要です。

それも反対を表明した改変に使用された神貨の3倍にもわたる量が。」


「なるほど・・・じゃあそう簡単に反対できるようなもんではないってことか。割と通りやすいってことでいいんだな。」


「はい。もし反対されてしまった場合でも、

反対に使用された神貨のさらに3倍の神貨を消費すればその反対を無効にすることが出来ますし、

貴方の改変に賛同した他の神様が改変に要した神貨を消費してくれれば同じく無効にすることが出来ます。」


「他に賛同者が出てくるような改変をすればより通りやすいということか。

とりあえず発表会については分かったわ。

んでもう1つ質問があるんだけどさ、多分俺はこの通帳失くすと思うんだわ。

そうなったらなんか罰則とかあるのか?」


「失くすということは有り得ません。もしも通帳が見当たらない場合は影に申し出てください。

影は通帳の位置を把握しているので即座にお渡しいたします。」


「へえ~そりゃ便利だな。助かるわ。」


「発表会に参加する場合はこの部屋を出て右に進み突き当りにある会議室に行ってください。」


「さっき戦いに参加する前にこの部屋のドアは開かなかったんだけど、開くようになってんのか?」


「はい。戦いにさえ参加していただければ他の時間は自由です。

この施設内に色々と娯楽は揃えてありますので探索してくださっても構いませんし、

現実世界に帰り元の生活に戻ってくださっても構いません。」


「え、開放してくれんの?そのまんま警察とかに突っ込まれたりしねえか?」


「それも問題ありません。

神様に選ばれた人間以外の現実世界の人々の脳はこの戦いや関する事実を認識出来ないようになっていますので。」


「まあ、流石にそこは対策するよな。事実を認識出来たところでどうにも出来ないとは思うが。」


「元の世界にお戻りになりたい場合も影に申し出てください。今、お帰りになられますか?」


「それ聞くってことは逆に帰らなくてもいいってことだよな?

じゃあもう二度と一生帰らんわ。俺は現実なんて嫌いだ。そこで生きるなんて無理だわ。」


「かしこまりました。」


「ちなみにこの戦いはいつでも死をもって降りることが出来るんだよな?」


「はい、影に申し出ていただければいつでも。」


そう言って影は腕を鋭利な刃に変形させる。


「おお・・・やっぱいかついな・・・とりあえず今は死なねえからそれは戻してくれ。」


「かしこまりました。」


『いつでも死ねる』という確認はとった。これは最高だな。

発表会がどんなかとかこの状況には気になることばかりなんで、それらを知るために俺はもう少し生きることに決めた。


「さて、どうするかな・・・」


発表会まではまだ時間がある、この部屋から出てみるか・・・?

いや、その前に戦いで汗をかいたからシャワーでも浴びたいな。あとポッドにお湯を入れて沸かしておきたい。

とりあえずこの2つをやるか。


ゴクゴクゴク


「プハァー!!!」


やることを決めた俺はお菓子を完食し炭酸の入ったペットボトルを飲み干した。

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