第16話「筆木シズカ-12」


俺はポッド取り出して水を注ぎ、コンセントに繋いで湯を沸かした。

ふと、気になったことが3つあったので影に問いかける。


「お前ってずっとこうやって俺の近くにいる訳?プライベートが無いってのはきつくね?

これじゃあオナニーも出来ねえじゃねえか。」


「これは失礼いたしました。用が無いのであれば私はこの場から去らせて頂きます。

また用があれば内線で000とダイヤルしていただければすぐに影が駆けつけます。」


「なるほどな・・・じゃあ後2つ俺の質問に答えたら出て行ってくれ。」


「かしこまりました。」


「まず1つ目はさっきテレビが付かなかったんだけど、これは見れないのか?」


「あの時の貴方はまだ戦いに参加していなかったのでご視聴は不可となっていましたが、現在は違います。

テレビ放送は勿論配信やインターネットも無料で利用していただけます。」


影はそう言ってリモコンのボタンを押す。すると、朝のワイドショーが映った。

インターネットも使えるとのことなので、もしかしてと思いスマホを確認するとWiFiが接続されていた。


「こりゃ良いな。暇にはならねえって訳だ。なおさら現実世界に帰る理由が無くなったわ。」


俺は辛い現実世界を捨ててこの部屋で引きこもり生活を送ることを決断しようとしている。

その為に最後の質問を影に投げかける。


「ここってホテルっぽいんだけどよ、もしかして部屋の掃除とか食事とか衣食住の面倒見てくれるのか?」


「はい、部屋の清掃は毎日定期的に行われますし、

この施設内のレストランやコンビニエンスストアでは無料で食事を提供させていただいてます。」


「よし分かった。それじゃあ一旦俺を1人にしてくれ。」


「かしこまりました。失礼いたします。」


影は一瞬で消え去った。やはりこの世界の常識で考えられる存在ではないな。逆らうなんて無理だろ。

さて、これからのことは決まりだ。当分の間はここで悠々自適引きこもり生活を送る。

そして何か嫌なことがあったら影呼び出して殺してもらう。

そうと決まったらシャワーを浴びるか。


「と思ったけど、着替えがねえなあ・・・」


どうするかねえ・・・取りにいくか・・・あの家帰りたくねえんだけどな・・・

まあ・・・どのみち今すぐ帰ったら母親いる訳で学校サボってると思われたらめんどくさいし、

とりあえずは後回しだ。


「ちょっとこの部屋出てみるか・・・」


ワンチャンこの施設に売ってるところがあるかもしれねえし、ちょっと探索したい。

あの影もそれを推奨している様子だったし。


スーハー


俺は一息おいて、恐る恐る扉を開く。あの影の言っていた通り俺はこの部屋から出ることが出来た。


「ランシー!!!クソッ!!!なぜこんなことに!!!」


廊下では悲痛な叫び声が響き渡っていた。その声の主は三方レオ君だ。

その目線の先には首のない女の死体が血まみれで転がっていた。


ランシーとは恐らくは同じくクラスメイトの謝藍汐さんのことか。着ている制服からして間違いないだろう。

三方君と謝さんは確か演劇部で同じだったな。

下の名前呼びってことはお前らもしかして付き合ってたのか!?

そりゃショックだろうな。

状況から推測するに謝さんは人を一人も殺せずにあの影に殺されてしまったってところか。

謝さんは中国武術の道場の娘で拳法使いだったはずだけど、それでも影には勝てんのか。

こりゃ尚更逆らえる訳がないな。

しかし、またしてもクラスメイトか・・・・

こりゃ佐谷君が言ってた通り俺達のクラスメイト全員が巻き込まれてる可能性が大きいな。

まさかこんな安っぽい漫画やラノベでよくありそうな状況が現実で起こってしまっているとは、

いくらなんでもふざけすぎだろ・・・


「ハハハ、やっぱり謝さん殺されてるじゃん。ざまあないね。ま、綺麗に死ねて良かったんじゃない。」


廊下を通りかかった男が謝さんの死体を目にするなり煽りだした。

この性格の悪い男はクラスの問題児である山野上悠理だ。

山野上の下手をすれば小学生にしかみえないその見た目がクソガキ感を増長させ、

クラスで一番嫌われているといっても過言ではない。


「お前は今何を言ったんだ?言ってみろ?」


当然三方君は山野上に対して怒りを露わにした。

普段優しい人ほど怒らせてはいけないと言われているけど、それは本当だなと実感した。

三方君から放たれる凄みに部外者である俺までも恐怖を覚えている。


『「ハハハ、やっぱり謝さん殺されてるじゃん。ざまあないね。ま、綺麗に死ねて良かったんじゃない。』

って言ったんだよ。

駄目じゃないか、三方君は優等生なんだからちゃんと人の話は聞かないと。」


しかし、山野上は臆することなく三方君までも煽り出した。コイツの度胸だけは本当にすごい。

怖めの先生に怒られても必ず反抗して徹底抗戦するからな。別にコイツを褒めている訳ではない。

無駄に話を大事にして自分に科せられる処分まで大きくして馬鹿なんじゃねえのと思う。

俺の場合だったら先生に怒られて自分に言い分があったとしても素直に謝罪して話を終わらせるわ。

絶対そっちのほうが安全だろ。

戦ったところで傷ついた心が元に戻る訳じゃねえしな。


「お前・・・!」


「三方君、キレすぎ。悪いのは謝さんなんだからこれぐらいは言わせてよ。」


「ランシーのどこが悪いんというんだ!?言ってみろよ!!!」


三方君は拳を山野上の顔面に振るい、倒れこんだ山野上に馬乗りになり更なる打撃を与える。

三方君はこの俺に対してすら優しく接してくれるというのにあんな三方君を見たのは初めてだ・・・

その目を見れば、三方君が山野上を殺すのは明白だった。

まあ止める気は無い。山野上の自業自得だろ。

下手に止めに行っても冷静さを忘れている三方君に俺まで殴られるのがオチだし、

そんなんで三方君に恨まれるのは嫌すぎるわ。


しかしこのまま山野上が殴り殺されるのだろうと思い静観を決め込んでいると思わぬことが起きた。

山野上がその場から消えたのだ。


「言ってみろとか言っておいて僕に何かを言わせる有無を言わせずフルボッコにするなんて三方君は酷いなあ・・・」


「なっ・・・!?お前は今一体何をしたんだ?」


これには三方君も俺も驚きを隠せない。


「僕も分かんないよw、なんか三方君から食らったダメージも全快してるし。まあでも助かったよ。

全く・・・こんな風に殴られたのは今日2回目だ。

謝さんも僕が生き残る為に人を殺していたらそんなことは辞めろって綺麗事並べて、僕のことをボコボコにしてきてさ。

本当に偽善者はいい加減にしてほしいよね。

このゲームに負けたら世界が滅びるらしいから、ゲームに勝つ為に行動している僕の方が正しいに決まってるじゃないか。

だから間違った行動をして僕を妨害した挙句に死んだ謝さんはざまあないねって言ったのさ。」


「お前黙って言わせておけば・・・!!!」


三方君は山野上の元へ走って攻撃を加えようとする。すると、


「やめろ。そんな無駄なことしてんじゃねえ、この坊主頭が。」


現れた1人の男がそう冷たく言い放ち三方君の腕を掴んでその動きを止めた。


「おい・・・嘘だろ・・・本物か!?!?!?」


俺はその男を見て驚愕した。

その男は今日完全試合を達成したばかりの日本人メジャーリーガー、風我アタウだった。

やはり野球選手は実物で見るとデカいな・・・背は高いし、体も分厚い。

まさかここにいるなんて夢にも思わなかった。アメリカにいるはずじゃなかったのかよ・・・

もしかして風我もこのデスゲームのプレイヤーとして俺達と一緒にさっきまで人を殺していたというのか・・・!?

今日は色々ありすぎて混乱するわ・・・ここまでするのかよ・・・!!!

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