第17話「筆木シズカ-13」


「同じ世界の神様同士での殺し合いは原則不可能だ。

どうしても殺したいなら、チャンスは戦いの間しかねえ。

そうじゃない時にぶち殺そうとしても今のちっこいガキみたいに強制転移させられて、ダメージも全快する。

何度やっても同じだ。」


「へえ~だから僕は助かったんだね。」


「この件に関してはちっこいガキの言ってることが正しいだろ。

俺としてもこのゲームの役に立たねえやつはいらねえし死んで当然としか思わん。

坊主のガキも本当はそれを分かってるから、このゲームに乗って他人をぶっ殺して今こうして生き残ってるんだろ。」


「・・・・・・・・・」


三方君は黙り込んでしまった。

そして山野上と風我を睨みながら、謝さんの遺体を優しく抱き上げ、そのまま部屋へ入っていった。


「三方君を黙らせてくれてありがとうございます!!!

あなたって本物の風我アタウですよね!!!

なんでこんなところにいるか分からないけどサインください!!!」


山野上は風我に駆け寄ってペンと手帳を差し出す。

この状況でこんなミーハーなムーヴが出来るとかどういうメンタリティしてるんだよアイツ。


「あ!?する訳ないだろ。俺はクソガキ共と馴れ合うつもりはねえ。」


風我はそう冷たく言い放つと、会議室の方へ去っていった。

風我って実物はあんな怖い感じの人間なのか・・・

普段のマスゴミに見せる爽やかな好青年としての姿はあくまでも表向きの猫を被った姿って訳か・・・

まあよくある話だな。


「はあ~ファンサ悪っ!!!それとも僕みたいなキモオタ陰キャはファンとして認めないってこと?

チッ・・・、辛いね。」


ドン


山野上は床を蹴って会議室とは反対の方向にあるエレベータに乗り込んでいった。

廊下には俺以外誰もいなくなった。

ふとエレベータの方に視線を向けるとこの施設のマップのタッチパネルが設置されている。

俺はそのタッチパネルを操作しこの施設に何があるのかを確認してみることにした。


「えーと、ここは10階なのか・・・

おお!滅茶苦茶店舗があるじゃねえか。数え切れねえな。そういえばあの影は娯楽は揃えているとか言ってたな。」


その結果この施設は相当にデカいことが判明した。この短時間では全ての情報を確認することは不可能だ。

一つの都市並みの規模があるんじゃないかと思わされる。


「服屋とかもあるのかね?いや絶対あるよな。」


検索機能で検索してみると何百件ものヒットがあった。

とりあえず一番近いのは38階にあるらしい。


「ちょっと見てみるか。品揃えとか値段とか色々気になるしな。」


俺もエレベータに乗り込む。

ここの施設の階数が多すぎて、階数を指定するのに数字を入力するシステムとなっていた。

エレベータは俺に思考する隙を与えることなく一瞬で目的地の38階に到着した。


「どうみてもショッピングモールにしか見えんな。」


エレベータから出た俺は再びマップのタッチパネルで服屋の位置を確認し、幾ばくか歩いて入店した。


「おっ筆木君じゃん、朝礼ぶりだね。」


するとクラスメイトの明智世知さんに遭遇した。

明智さんは1度、佐谷君に勝って学年1位を取ったことのあるガリ勉だ。

俺の記憶が正しければ佐谷君が学年1位じゃなかったのはその時だけだった。

明智さんはここの商品であろう数々の衣服を両手に抱えている。

それにしてもまたクラスメイトに遭遇してしまったか・・・


「またクラスメイトに遭遇してしまったか・・・」


思わず口に出てしまった。


「そうだね。この戦いには私達2年A組全員が巻き込まれてしまったみたいだよ。担任の綱田先生も含めてね。」


「それは本当なのか!?明智さん」


「うん。あの影とかいうやつに直接聞いたからね。神様とかいう存在はは33人が選ばれるって言ってたじゃん。

だからそのうちの32人が私達ってわけだね。

ちなみ私達以外の残りの1人が誰かってのは知ってる?知ったら絶対に驚くと思うんだけど。」


「ああ知ってるわ。廊下で目撃したからな。今朝ネットで話題になってるのを見たばかりだったからクソビビったわ。」


「私達は今日初めてこの戦いに参加させられた訳けれども、どうやら彼は前々からこの戦いに参加していたみたいだよ。」


「マジかよ・・・風我の奴、野球選手として活躍してる裏でこんなイカれたデスゲームやったのかよ・・・」


「イカれたデスゲーム・・・本当にその通りだね。もう既に私達のクラスでは16人が命を落としてしまったよ。」


「16人もかよ!!!」


「私達の陣営は半数ごっそりいかれたね。ちなみに相手の世界で死んだのは33人中9人だけだよ。

この差はやっぱりその辺の赤の他人を殺す必要があるかないかということが響いてるね。

相手は防御側だからヒーローを気取ることが出来るけれど、私達は攻撃側だから完全にやってることが悪役で、

それを受け入れられない人間はいるのは当然の話だよね。」


「明智さんは誰が生き残って誰が死んだのか知ってるのか!?俺は謝さんが死んだことしか知らねえけど。」


「勿論知ってるよ。あの影に全部聞いたからね。知りたい?

まあ、発表会の冒頭でこの戦いに関する結果は教えてもらえるから、それまでのお楽しみにしておいたらいいと思うよ。」


『お楽しみ』って・・・

この人は仮にも今まで一緒に学園生活を送ってきたクラスメイトが死んでるっていうのに、

そんな言い方が出来るとかちょっと酷くないか・・・?

俺はちょっと怖いがオブラートに包んで遠回しに本人にそれを聞いてみることにした。

まあさっきの山野上の件で万が一キレられてボコられても死ぬことは無いらしいと分かったしな。


「なんと言うか明智さんはこの状況でも平然としていられるんだな・・・

俺はもうメンタルぶっ壊れたからこれから先引きこもって暮らそうと思ってるわ。

そんで今はそれに必要になる物資を下見してるところなんだけど。」


「なるほどなるほど・・・

要するに筆木君は『明智さんクラスメイトの仲間が死んでるのにヘラヘラしてるなんでクズ過ぎ』って言いたい訳だね。」


俺の思惑は一瞬で看破されてしまった。


「い、いや・・・クズ過ぎって・・・別に俺はそこまでは・・・」


「いいよいいよ。別に怒ってないからさ。筆木君の仰る通り私はクズ野郎なんだ。

他人の不幸が蜜の味でさ。だから合法的に大量殺人をして幸福を奪いつくすことが出来て滅茶苦茶楽しかった!

これぞ私の求めてた非日常って感じでワクワクが抑えきれないよ。」


「お、おう・・・」


コイツマジかよ・・・

こんな災害の時ネットの掲示板で不謹慎なレスかましてイキりちらかしてそうな奴だったのかよ・・・

明智さんのことはあんまり話したことは無かったけど気さくで明るい人間だと思ってたのに・・・

こんな状況じゃなければクラスメイトの本当の顔なんて一生知ること無かっただろうな・・・


「おっ!軽蔑してるねえ~フフフ。

ま、筆木君にどう思われようが私にとっては痛くも痒くもないんで

特に怒ったりはしないから安心して好き勝手に蔑んでよ。」


「・・・・・・・・・」


俺は明智から目を反らした。コイツとは関わらない方が良いと確信した。あまりにも痛すぎる。


「それじゃ、俺はここの商品下見するんで。」


俺はそう言って明智と離れようとする。


「下見だけ?買ってかないの?」


すると明智さんが問いかけてきた。


「え、買えないだろ?神貨っていうのがここの通貨らしいけどまだ振り込まれてねえじゃん。

それともここ日本円使えるのか?まあそれでも財布持ってきてねえから買えんわ。」


「いやいや買えるって、ここの商品全部無料だからね。好きなだけ持っていき放題だよ。」


「マジ!?」


いやいやいや全部無料ってそんな訳ねえだろ・・・

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