第18話「筆木シズカ-14」
「その顔、筆木君は信じてないね。」
「そりゃそうだろ。全部無料とか常識じゃ考えられんわ。これがマジなら常時大赤字で商売として成り立たねえじゃん。」
「でも、今の状況も常識では考えられない訳じゃん。この場所ではそういうものなんだとして受け入れるしか無くない?」
「それはそうだけど、だからといって明智の言うことを信頼出来る訳じゃねえしな。
実際明智は人の不幸が大好物だってさっき言ってたばかりじゃねえか。
だから正直に言うと俺をハメようとしてんじゃねえかと疑ってるわ。
全部無料とかいう嘘で俺に堂々と万引きさせてしょっ引かれていく光景を見て見て笑いたいだけなんじゃねえかって。」
「私がそんなしょぼいことする訳ないじゃん。嫌だなあ・・・
やるなら少なくとも死人とかが出るレベルじゃないとね。絶望は手間をかけて熟成させなきゃ、フフフ。」
参ったな・・・こんな中二丸出しの薄ら寒い台詞をリアルで聞くことになるとは・・・
恥ずかしすぎて笑えて来るわ。
「ふむふむ・・・こりゃ筆木君は私の事を良く思ってないようだね。」
「まあ、さっきからの明智の発言を聞いてりゃな。」
「ま、そんなに私の言う事が信用出来なきゃ、ここの店員やってる影に聞けばいいじゃん。」
「まあそうするのが最善か・・・どこにいるんだろ。おーい!!!店員さん!!!」
俺が声を張り上げると影はすぐ現れた。俺はスマホの録音機能をONにする。
「どうなされましたか?」
「ここの店の商品が全部無料とかいう怪情報を聞いたんだけど、それの真偽が知りたい。」
「はい、それは本当でございます。
この店のみならずこの施設では神様に対して商品及びサービスを全て無料で提供しております。」
「嘘だろ!?今からここの商品色々大量に持っていくけど、後で窃盗だとか言い出さねえよな?」
「そんなこと言いませんよ。お好きなだけ持っていってください。」
「言ったな!?お前今の録音してるからな。後でやっぱ無しとかは無しだぞ。
まあこんな録音お前らの謎技術なら消し去れそうだから俺のやっていることなど無意味かもしれんが。」
「二言はありません。安心して持っていてください。」
「あと部屋にあったお菓子とか飲み物とかももしかして無料なのか!?もう食っちまったんだけど。」
「もちろんです。」
「そうか・・・分かった・・・」
俺が頷くと影はまたどこかへと消えていった。
「どうやらマジみたいだな・・・」
「だから言ったじゃん。」
「でもなんか持っていくの怖いな・・・タダより高いものは無いっていうし・・・」
「言うほどタダかなあ?こんな訳の分からない戦いに参加させられていつ死んでもおかしくないっていうのに。
奴ら影から与えられたものは骨の髄までしゃぶりつくさないと割に合わないよ。
というか筆木君部屋にあったお菓子食べちゃったんでしょ?今更じゃない?」
「まあ、それもそうか。」
「奴らって私達が戦いさえすれば頼んだことはなんでも聞いてくれるし、召使いのようにこき使ってやるのが正解だよ。」
そういって明智は手を叩く。すると何人もの影が現れた。
明智は持っていた衣服を影に手渡し、一人の影に自分を抱きかかえさせた。
「まるで気分はお姫様だね。それじゃあ買い物も済んだし私は部屋に戻るよ。筆木君バイバ~イ!!!」
明智と影達は去っていった。明智はお姫様と言っていたがどちらかというと奴隷を従える女王様だな。
「さてと、とりあえず持っていくか・・・」
俺は下着とジャージとパジャマをそれぞれ一週間分持っていくことにした。
「正直ずっと部屋に引きこもってネット三昧の予定だったんだけど、これからどうするかなあ・・・」
俺は衣服を両手に抱えてながらいくつかの店舗を見て回ってそう思った。
本屋や玩具屋などここにあるものは全て俺のものに出来るということはかなり魅力的だった。
一回どこに何があるのかを探索して把握しておきたいよな・・・
「まあ、次の戦いは30日後って話だし急いで結論を出す必要はないか。
精神的にも滅茶苦茶疲れたし、とりあえず今日は発表会とかいうやつに行ってそれが終わったらゆっくり部屋で休むか。
探索は暇になったらやればいいか。」
俺はとっとと部屋に戻ることにした。
発表会まであと25分か・・・着替えも手に入ったことだし、一度シャワーを浴びておきたい。
少し急ごう。
◇
ザー
「あったけえ・・・!!!」
最高に気持ち良い。シャワーのお湯に身を包まれ、心まで洗われた気分になる。
「時間があれば浴槽にも入りたかったんだが・・・、まあ仕方ないか。これでも充分すぎるだろ。」
今の俺は満足感と幸福感に包まれている。やはりお風呂タイムは朝と夜、1日2回欲しいな。
「ところで、俺が歯医者で嫌がらせ発動された話をしていいか?
俺は定期検診に通ってるんだが、マジで歯医者が嫌いすぎるんだわ。
その理由としてまず一定時間口を開け続けなければならないという行為が苦痛すぎるってのとさ・・・」
ようやくリラックスした俺は、いつもの独り言を並べる癖が出てくるまでになった。
「ふー・・・」
備え付けのバスタオルで体を拭き、ジャージに着替える。
脱いだ制服はとりあえず畳んで隅に置いておく。
コインランドリーかあるいはクリーニング店も多分この施設にはあるだろうと思うから後で探して持っていくつもりだ。
ガチャ
引き出しからコップを冷蔵庫からコーヒーと牛乳を取り出し、コーヒー牛乳を作る。
やはりお風呂上がりに飲むならこれ一択だろ。
ソファに腰かけてコーヒー牛乳をチビチビ飲みながら、俺はテレビの電源を付ける。
ちょうどワイドショーで風我アタウの完全試合が特集されているところだった。
元プロ野球選手のゲストが風我の投球技術について賞賛している。
「にしてもこの風我が俺達と同じ立場にあるとはなあ・・・」
明智は風我は以前からこのデスゲームに参加していると言っていた。
メジャーリーグの選手として活躍しながら、裏では人々を虐殺していたということだ。
どういうメンタルしてんだよ・・・
やっぱあれかね、自分の人殺しについて考え始めてしまうと頭がグチャグチャになってしまいそうだから、
臭いものに蓋をするようにその事実から目を反らして何かしらの用事を作ってずっと動き続けてのかね。
俺が今まさにそれだし・・・
正直パラレルワールドの俺の婚約者を殺した時の俺はその場の勢いとか感情で動きすぎていたわ。
あれが正しかったとは思うし後悔はしていないけれど、油断すると脳内であの時のことがループ再生されてしまう。
そしてその時の感情がごった煮になって頭が熱くなる。
「こりゃ今日は寝れなさそうだわ・・・風我も不眠症だったりするのかね・・・」
同じ状況に置かれている仲間として悩みを共有しあうことが出来れば、精神状態的に少しはマシになるかもしれない。
俺としてはそれを風我に問いかけてみたいと思っているが・・・
「でもあの風我クソ怖かったからな。
『クソガキ共と馴れ合うつもりはねえ』とか言ってたし、とても話しかけられねえわ・・・
てか、アイツも発表会に参加するのかね。
俺のクラスの連中って我が強いのが多いから風我と揉めたりするかもしれねえし、多分その場の空気が地獄になるな・・・」
そう考えると、そろそろ時間だが発表会に行きたくないという感情が出てきた。
まあそれでも行くけどな、やはり同じ立場にいる仲間がいるということを実感して気持ちを少しは楽にしたいし。
多分、俺が一番殺した人数は少ないだろ。これは数の問題ではない話だけれども。
とりあえず俺は出しゃばることなく、いつも通りモブキャラに徹していればいいだけだ。
当事者にならずに傍から見ていれば揉め事は面白いからな、これはかなりクズな思考だが。
「さて、行くか。」
俺はコーヒー牛乳を飲み干してテレビを消し、部屋の扉に手を掛けた。
俺のクラスは担任含めて32人、そのうちの16人が死んでしまったと聞いた。
今生き残っているのが分かるのは、俺、天海さん、佐谷君、三方君、山之上、明智。そして死んだのは謝さんか・・・
果たして残りの10人は一体誰が生き残っているんだろうな。
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