第14話「筆木シズカ-10」
「君のこの戦いに乗っている人間か・・・!!!」
「当たり前でしょ。
そりゃこんな事実を100パーセント受け入れてる訳じゃないけど、思考停止で逆らうだけじゃ何も出来る訳がない。
このゲームを終わらせたいのだとしても、今僕達に最も必要なのは情報だ。そしてそれは生きてなきゃ手に入らない。
ここで出る犠牲は必要なものだと割り切らなきゃ。」
「それを僕が黙って見過ごすとでも・・・?」
「だろうね。当然の反応だ。だから君は僕の邪魔になるって訳。悪いけどここで排除させてもらうよ。」
神谷ユウキと佐谷君は拳を交える。佐谷君は空手の全国大会出場者だから俺とはレベルが全然違う。
神谷ユウキと互角以上に渡り合っている。その光景は今まで特撮の戦闘シーンでしか見たことがないものだった。
「グハアッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
決着が着いたようだ。佐谷君の勝利だ。
「最後に、何か言い残すことは?」
「悔しい・・・僕は誰も助けることが出来なかった・・・」
神谷ユウキは涙を流す。嫌いな人間の致命的な敗北を目にすることが出来て正直俺はいい気味だった。
「君には同情するよ。こんなことが起こらなければ僕が君に手にかけることも無かったというのに。
だけど安心してほしい。君の無念は僕が引き継ぐから。
僕はいつか不幸の無い世界を作ってみせる。その世界でまた会おうじゃないか。」
佐谷君は神谷ユウキの息の根を止めた。そして俺は神谷ユウキの死体に駆け寄る。
「ざまあみろ!!!!!!!!!
ハハハ!!!やはりこの世界に乗り越えられないことはあるんだよ!!!
お前のような強い人間でもな!!!そうじゃなかったらこうやって今横たわってねえだろ!!!
これに懲りたら二度と俺の弱さを否定してくるんじゃねえぞ!!!
前へ見て進むことをを押し付けてくるんじゃねえぞ!!!この主人公野郎が!!!」
俺は自分自身が今まで抱えてきた心の叫びを神谷ユウキに浴びせる。
すると、神谷ユウキの目が開いたように見えた。
「うおおっ!!!ちょちょ、ちょっと待てよ!!!コイツまだ生きてるのかよ!!!
佐谷君が止めさしたんじゃなかったのか!?ぬか喜びかよ!?
これも書き換えによる嫌がらせか!?マジで勘弁しろよ!!!」
「いきなりどうしたんだい筆木君・・・落ち着きなよ。彼はどう見たってもう生きていないじゃないか。」
「おお、本当だ・・・見間違いか・・・」
俺を見る視線は冷ややかなものだったが、いつものことなので気にはしない。
佐谷君は腕時計に目をやった。
「もうそろそろ30分経つね・・・今日の戦いはひとまず終了だ。
一般人を200万人殺すか相手の神様とやらを33人殺すかがこっちの勝利条件だから、
今後の展開的に考えて、とりあえず相手の神様を1人減らせたのは良かったね。
おそらくはこっち側の神様も何人も減ってるかもしれないけど。」
「その件なんだけど佐谷君、俺も死ぬかもしれんわ。」
「筆木君、それはどういうことだい?」
「いやあ・・・、確かあの影は戦果を上げなかった人間は殺すとか言ってただろ?
俺実はこのゲームで1人しか殺してないんだわ。成果としたら中途半端すぎてこれはゴミすぎるだろ。」
「なるほど・・・まあ普通に考えて人を殺すなんて簡単に出来ることではないからね。
僕みたいにいきなり何人も殺してる人間のほうがこの状況下ではおかしいよ。
でも、求められる戦果の水準が分からないからね。
もしかしたら『最低でも1人殺したらOK』ってことになるかもしれない。
あの影は『戦いに参加する意思を見せなかった神様を殺す』と言ったから、
僕は1人でも殺せば戦いに参加していることになるじゃないかと思うんだ。
今はこっちの人数を減らさないように僕はそれを祈りたいところだね。
天海さんの方はどうなんだい?」
「天海さんはがっつり殺してるっぽいわ。本人曰くここら一体は自分の仕業だって。」
「へえそれは良いね。
戦力になる上で一番大切なのが士気のあることだから、そんな人間が1人でも多くいてくれるのは嬉しいよ。」
「佐谷君、君はどうしてそんなに平然としていられるんだ?
決して非難しているわけではない、俺だって俺自身が生き残る為に多くの人々を殺したからな。
後悔はしていないが、俺によって突然命を奪われた人間の気持ちを考えるとどうにかなりそうだ。」
天海さんが佐谷君に問いかける。正直俺もそれは気になってたが怖くてとても聞く気になれなかったから助かるわ。
「天海さんにはそう見えるんだね。
僕だって決して人を殺めてしまったことに対して何も感じていないわけではないよ。
でも悪いのは僕達じゃない。僕達はこの極限の状況の被害者じゃないか。
司法においても僕達が有罪になるわけがない。
だから今僕達が一番考えるべきことのなのはこの状況で何をすれば生き残れるのかということだよ。
そのためにも冷静でいることは不可欠だからそれを実践しているだけさ。」
「簡単に冷静になれるものではないだろう・・・」
佐谷君はすごいなと俺は素直に思った。
なんというかいつも浮ついてバタバタしている俺とは違って地面に足が付いている。
佐谷君なら俺が世界から受けている嫌がらせに対しても感情を露わにせず、
その場でやるべき事を的確に判断出来るんだろう。羨ましいわ・・・
「これで30分だ、おそらくはこのパラレルワールドからあのホテルみたいな部屋へ引き戻されるんだろうね。
また次の戦いまで閉じ込められてしまうのかな?
僕はなんとか脱出の方法を探るとするよ、君達とも合流出来るようにしたい。」
佐谷君がそう言い終えた途端に俺の目の前の景色が変わる。
佐谷君の予想通り俺は部屋に戻った、おそらくは佐谷君と天海さんも同じであろう。
ロクな戦果をあげることが出来なかった俺はあの影に殺されてしまう。
まあ、でも良いか。
どのみち俺のような知恵も力も心の強さもないクズの人生の末路は地獄以外になかった。
俺は言わば崖へと続く川を緩やかに流されることしかできない小舟だ。
常に冷たい水に身を包まれた小舟としての日常は辛く苦しいものだった。
小舟だって温泉に入りたいんだ、でもそれが叶うことはなかった。
そんな満たされない生活を今回突然やってきた悲惨な末路が終わらせてくれるというのなら、
それで良いと俺は思う。自殺について考え始めた段階だしちょうどいい機会だ。
最後に死にたい人間を死なせてあげることが出来たから今の精神状態は満足感がかなり高いし、ここで終わりたい。
俺は世界からの嫌がらせにもう疲れた。世界よ、この勝負は俺の負けでお前の勝ちだわ。
「スーハー」
俺は深呼吸をして死への覚悟を決める。
そして引き出しからお菓子を冷蔵庫からコーラを取り出した。
さしずめ最後の晩餐ってところだ。今はまだ午前九時だけれども。
毒が入っているかもしれんがもうどうでもいい。どうせ俺は死ぬ訳だからな。
ここで俺は石田三成が処刑される寸前に差し出された柿を
腐ってるかもしれないからと断り最期の瞬間まで自分の身を案じたとかいう逸話を思いだした。
まあ俺は三成じゃないからどうでもいいわ。
バリッボリッ
ゴクゴク
俺はソファに腰かけて優雅にお菓子タイムを決め込む。
どうやら懸念されていた毒は入っていないようで味は最高だった。
これならカップラーメンも食いたいが、まあポッドに水入れて沸かす時間はないだろうから諦める。
諦めは大事だ。この思想からしてやはり俺は少年漫画の主人公にはなれんわ。
プルルルルルルルルル
内線が鳴る。俺は無視する。まあわざわざ出なくても影の方から来てくれるだろ。
俺はギリギリまで人生最後の食事を堪能したい。
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