第13話「筆木シズカ-9」
俺が手をかけた彼女は大きな鳥の影となり、遠くへと飛んで行った。
その場に一瞬の沈黙が走る。
「なんてことをしたんだ君は!!!」
そして俺は神谷ユウキに殴られて吹っ飛ぶ。痛ってえ・・・殴られたのは人生初かもしれねえな・・・
「筆木君!何を考えているんだ!!!」
天海さんも俺を冷たい視線で睨む。俺は今自分の行動によって明確に2人を敵に回してしまった。
だが後悔なんてしていない。俺は自分に胸を張れる正しい行動をした。俺は痛みを堪えながら立ち上がる。
「俺はお前らに非難されることは何もしていない!!!
彼女は死にたがっていた!!!だからその願いを叶えてやっただけだ!!!
お前ら分かってるのか!?人間にとって一番大切なものは金でも命でもない・・・それは心なんだよ!!!
心を穏やかに保つこと、これに人生の全てを捧げるべきなんだよ!!!
その為の理想の生活がよく遊んでよく食べてよく寝て、ついでにオナニーをすることだ!!!
これを妨げるような人間は死ぬべきだし、これが出来ない人間は死ぬのが正しい!!!
そして彼女は後者だった・・・
残念なことがだ一度心に付けられてしまった傷は一生消えることは無い・・・!
彼女の心は大切な人達を突然、理不尽に奪われたことによってズッタズタに切り裂かれてしまったんだよ!!!
一度壊れてしまった心は二度と元には戻らねえんだ!!!
そんな状況で彼女に生きることを強制するなんて酷すぎるだろ!!!」
俺は必死に半泣きになりながらも訴えた。それでも俺を見る2人の目つきは変わらない。
「なんて独り善がりな考えなんだ・・・筆木君、君はそういう人間なのか!!!」
俺はとりあえず天海さんを黙らせることにした。
正直天海さんは目が縦にくっついてるんじゃないかと思うほどの釣り目で顔がかなり怖いので、
内心ビビり散らかしているが、やるしかない。
「天海さん・・・!自分の立場というものを分かってるですか?
現状では立つことで精いっぱい・・・戦うなんて不可能じゃないですか!
そんな中で俺まで敵に回してしまったら貴方はもう生き残れませんよ・・・!!!」
「俺を脅してるのか・・・?」
「その通りですよ!!!
天海さんの境遇では俺の考えを理解したくはないというとこは納得できますし、
心の中で俺を否定することはいくらでも構いません・・・
でも、今それを俺に向かって口に出すべきことではないというのは分かりますよね・・・?
俺だって天海さんを殺したくはないんですよ・・・」
「君と一瞬でも仲良くなりたいと思った俺が間違っていた・・・」
「俺を刺激するような言葉は言わないほうがいいですよ。
大体天海さんの方が先にゲームに乗ってるじゃないですか。そんな人間が正義面して俺を責める資格なんて・・・」
「分かったよ・・・俺はもう何も言わん・・・」
俺の目論見通り天海さんは黙り込んだ。
「ふざけるな!!!開き直るとは君はなんて邪悪なんだ!!!」
「はあ!?別に開き直ってねえわ!!!俺はただ自分がやるべきことを果たしただけなんだが?
はあ・・・本当に分かってくれねえ奴は分かってくれねえんだな・・・!」
「君は間違っている!!!
彼女は一時の感情だけで死を選ぼうとしていたんだ、それはどう考えても止めるべきじゃないか!!!
そりゃあ大切な人を失ってしまった悲しみは消えることはないだろうけど、
彼女の人生はこれから先まだ長かったんだ!!!
いつかは乗り越えることが出来て幸せを掴みとれたのかもしれない。
その未来を君は奪い去ってしまった・・・これを許されるだなんて間違っても言わせるか!!!」
「乗り越える、なあ・・・確かにお前みたいな強い人間なら最後には必ず乗り越えられるだろうけどよ。
誰しもがお前になれる訳じゃねえんだよ!!!押し付けてくるのをやめろよ!!!
俺はいきなり大切な人を失った彼女よりかはマシな人生を送ってきたが、未だに立ち直れてねえ・・・
それどころか気持ちは沈む一向だ!!!
そんな中で『生きてりゃいいことある』なんて楽観的で無責任な台詞を突き付けられるなんて反吐が出るわ!!!
お前一寸先は闇だぞ!!!
俺たちは明日には災害によって生き埋めになったり火だるまになったりしてもおかしくない世界を生きてるんだわ。
そうなった時に同じ台詞を吐けるのかよ!!!
てか今こんなクソみたいなデスゲームに巻き込まれて、現にそうなってるんじゃねえか!!!」
怒りを露わにしている神谷ユウキは正直クソ怖かったが、俺は食い下がらない。
正直俺は完全に自暴自棄になっていた。
俺のように力も知恵も心の強さも無い人間がこの緊急事態を生き残れる訳がない。
世界が今までの集大成と言わんばかりに全力で俺を否定しにかかっている。
それならば俺は最後に自分自身を貫いて暴れることしか出来ねえ。
自分の全てを自分を否定する象徴である神谷ユウキにぶつけて死んでやる!!!
「一寸先は闇か・・・それだけに関しては同意しかないな。」
なんか思うところがあったのか、天海さんが賛同してきた。
「同意してくれてありがとうございます。
やっぱ天海さんも『生きてりゃいいことある』とかぬかす野郎は明日にでも事故死しろって思いますよね。」
「・・・そこまでは思わん。」
一息ついて俺はファイティングポーズを取り神谷ユウキと目を合わせる。
「こうやって話し合うのも時間の無駄だろ。どうせ俺とお前は分かり合えねえんだ。かかってこいよ!!!」
「・・・そうだね。君という人間もこのまま野放しにしておくわけにはいくものか!!!」
神谷ユウキは強かった。打撃が一般人のそれでは無い俺は完全に押されている。
「君達は今まで喧嘩をしたことがないようだね。平和な世界を生きてるのが羨ましいよ。」
はっきり言って勝負にならない。それでも俺は立ち向かう。
俺は学校での剣道の授業を思い出していた。
男子は柔道と剣道の選択式、女子はダンス一択というシステムで
俺は武道とか死ぬほど嫌だったので女子が滅茶苦茶羨ましかったが、まだ刀を振る方がマシそうだと判断して俺は剣道を選択した。
そして案の定授業は地獄だった。
面とか胴とか技の練習を二人一組でやる訳だがこれが辛い。特に相手が三方君になったときが苦痛すぎたな。
他のクラスメイトは皆お互いにある程度手加減し合う空気が出来ていたのだが、
三方君は剣道の有段者らしく剣撃がガチで涙が出るほど痛かったのだ。
そんな訳で剣道の授業は憂鬱でしかなかったが、ただ最近は割と楽しくなってきた。
技の練習の段階を終えて、実践の段階に入ったからだ。
どうやら俺は戦うこと自体は嫌いじゃないらしい。
俺は三方君相手にも果敢に声を張り上げて向かっていき、その様子を綱田先生に褒められたな。
俺が学校生活で唯一誇れることだ。
「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
俺は神谷ユウキと取っ組み合いになる。
柔道とかマジで知らねえけど、どうにかして俺は足をかけて神谷ユウキを倒そうとした。
だが、上手くいく訳もなく俺は逆に投げ飛ばされて神谷ユウキに馬乗りにされた。
あっ、これ詰んだわ・・・
俺は自分の人生終了を確信した。
だが最後に嫌いな神谷ユウキを怒らせた上に一発や二発殴りを入れられたのは良かったかな。
そう思った時だった。
「ガッ!!!」
神谷ユウキがいきなり吹っ飛ばされて倒れこんだ。
「大丈夫かい?間に合って良かったよ。
それにしても筆木君と天海さんまでこの事件に巻き込まれていたなんて。
これは僕の推測だけど僕達のクラスメイト全員がこのゲームに参加しているかもしれないね。」
優男フェイスのイケメンが涼しい顔を浮かべて現れた。
それは俺のクラスの優等生、佐谷健汰君であった。
「いろいろ君達と情報を確認し合いたいところではあるけれど、まずはあの敵の神様とやらを殺害する必要があるね。」
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