第35話「明智セシル-7」
私は腰かけたベッドに背中から倒れこむ。
先ほどの戦闘で受けた傷は回復していたが、やはり精神的疲労が計り知れない。
私はその体勢のまま、影にこの戦いの結果について聞く。
基本的に影は聞けば基本的に何でも教えてくれるが、聞かないと最低限のことしか教えてくれない。
例えば自分の他に誰がこのゲームに参加しているのとかは聞かないと教えてくれない訳だ。
だからまあクラス全体でこのゲームに巻き込まれてるってのを知らない人もいる。
ということでここで情強と情弱の差が出てしまうからしっかりと細かいことも聞かないとね。
1日目の結果は私達33人のうち約半数の16人が死亡した。
人を殺す必要が無い相手側で死んだのは33人中9人なので、やはり人を殺す壁を超えるのは簡単に出来ることではないね。
むしろこの結果は私が想定していた中で最高の結果とも言える。
生き残った面子もところどころは意外な人間がいたけど大体は予想通りだ。
意外な人間に関しても先に襲い掛かってきた相手に対して
正当防衛で結果殺しに手を染めてしまったということで納得出来る。
ただ空手部の佐谷君だけはそういう訳でも無く、平気で人々を殺し回ったのというのには驚きを隠せない。
佐谷君の今までの言動から推測して不殺を掲げてペナルティで殺されるものだとばかり思っていたから。
よくよく考えれば、佐谷君の人物像に関しては私も知らないところが多いな。
これから知っていくことになるんだろうか。
後はゲームに乗りはするけれど、弱すぎて死ぬであろうと思われた面子がことごとく生き残っているのは凄い。
山野上君、並里君、筆木君、花畑さん、笹岡さんのメンヘラ五人衆とか病弱な天海さんとか、それに私とか。
いや~頑張りすぎでしょ。正直かなり運に愛されてるところはあるけどね。
特に並里君の戦いぶりが素晴らしい。
これは人間って極限状態に置かれてしまうと思わぬ力を発揮してしまうのかもしれないね。
ただ重要なのはここからだ。生き残った人達が神様としてどう動いていくか。
こんな特異的な状況を完全に読み切ることなど私にだって不可能だ。
でもだからこそ楽しみだ。今まで見たことのない最高に面白いものを見られるのかもしれないのだから。
「ところで、新しいお召し物に着替えますか?」
色々と確認を終えて、影が新しい制服と下着を手にそう問いかけて来た。
体の傷は治っても今着ている衣服は泥や血で汚れたままとなっている。
「それどこから持ってきたの?」
「私達は世界に存在する様々な物質を複製することが出来ます。」
「複製ね・・・、なるほど、ここに存在する商業施設の商品もそうやって手配しているんだ。
ありがたく着替えさせてもらうよ。」
そして私は服を着替えたが、ここでどうせ着替えるならお風呂に入ってからにすればよかったと後悔した。
どうやらまだ動揺によって思考が正常にならないらしい。
ひとまず心を落ち着かせるために冷蔵庫からお酒とそれとおつまみとしてのチーズを取り出してゴクゴク飲む。
「プハー!!!」
ようやく精神状況が落ち着いてきた。
今まで裏社会にまで首を突っ込んできた私だったけれども、こんな世界は初めてだ。
流石の私でももちろん表向きは取り繕ったりはしたけれども、自分の死を隣にすると冷静ではいれなかった。
「私もまだまだ未熟だね・・・反省しないと。」
でも決して今の状況が嫌だと言う訳ではなかった。
神様として人類の上に立ち、彼らの住む世界を混乱に陥れることが出来るというのは私がずっと願っていたことだ。
こんな馬鹿げた夢物語が今現実として存在している。
この事実を享受することが出来るならどんなリスクだって厭わない。
今までだって危険な探偵稼業で散々リスクを背負ってきた訳なのは変わらない訳だし。
今の感情はこの1年間を楽しみたいという気持ちでいっぱいだ。
生き残った面子的にも考えてこの世界は確実に崩壊する。この先私にとって夢と希望しかない。
「そんな世界を見届け続けるためにも、私自身が強くなることは必須だけどね。
あんな無様な姿をまた晒してしまったら、次こそは死んでしまうよ。」
私は目を閉じて拳を握り、決意を固めた。そしてお酒を一気に飲み干す。
「ところでこの施設には色んなお店があるみたいだけど、それら全部について記載された地図とかはないの?
どこに何があるのかは確認しておきたいんだけど。」
「この部屋を出て左に進んだその突き当りにエレベーターがあります。
そこにあるタッチパネルがマップとなっておりますのでそこから確認可能です。
また、この後行われる発表会が終わり次第、貴方達は神様専用の独自ネットワークへの接続が許可されるので、
お持ちのスマートフォンからいつでもどこでもマップ情報を確認できるようになります。」
「へぇ~独自ネットワークなんてものがあるんだ。」
「はい、神様は独自ネットワークにてマップ情報の他にも様々な便利な情報を確認可能です。
さらに世界の改変もそのネットワークを介して行ってもらいます。」
「おっ!出たね、世界改変という単語が。それが出来るようになるのが楽しみで仕方ないんだよね。
早くやりたいな~待ちきれないよ。
まあこんなこと言ってもどうしようもないから、
時間潰しにこれからここで暮らすにあたって必要になるものを買いに行こうかな。
私色々とこだわりがちなんだよね。枕とかもいつも使ってるメーカー製が良いし。
そういう訳なんで私に付いてきてくれる?家具とかも大量に買うから荷物運びをやってほしいんだけど。
駄目かな?」
「かしこまりました。私達影は神様に使われる道具でしかないので、何なりとお申し付けください。」
すると影が複数体新たに現れた。
「召使いみたく扱って良いという訳だね。じゃあありがたくそうさせてもらおうかな。
さっきの戦闘で精神的に疲れて歩くのも面倒になってるから、
一番右の大きい影に私を抱え上げてもらって移動することにしたいんだけど。」
「かしこまりました。これでよろしいでしょうか?」
「お~お姫様だっこだ。最高だね。やっぱり1回はされてみたかったもんだよ。
それじゃあ早速行こうか。
まずは服を買いたいから一番近い服屋まで行ってくれる?
服屋で新しい服を買ったら、次は温泉で体を洗い流したいよ。」
そうして、私は影を従えて部屋を出た。
「あっ、謝さんだ。まあ謝さんの性格上こうなることは避けられなかったか。
きっと謝さんは影に抵抗して暴れまわったんだろうな。その様子を見てみたかったよ。」
「独自ネットワークにアクセス出来るようになれば映像として見ることが出来ますよ。」
「えっ、それ本当!?」
「貴方は神様なのですから過去に起こった出来事を知ることなど造作なき事です。」
「それはすごい!見るだけで楽しめるじゃん!!!ますます楽しみになったよ。」
服屋では筆木静荷君と遭遇した。
こんなことが起こったせいでただでさえ暗い筆木君の表情がより一層暗いものとなってしまっている。
筆木君とは今の状況についてガッツリ会話したけれど、やはり外面を気にせず本性を隠さなくていいというのは非常に楽だね。
筆木君と別れた後に温泉に向かったのだけれども、
体を洗い終えた段階で発表会の時間が迫っていると影が知らせに来た。
発表会への参加は強制では無かったが、生き残ったクラスメイト達の反応は絶対に見たかったので、
私は温泉に浸かるのを諦めて、急いで体を拭いて着替えて会議室に向かった。髪をドライヤーにかける時間はなかった。
そして、いよいよ発表会の開始となる。喜ばしいことに生き残った全員が出席していた。
さて、これからどうなるのであろうか。
波乱が起きることは明白だ。これからが楽しみでしかない。
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