第36話「筆木シズカ-15」



廊下には俺と同じく会議室に向かうクラスメイト達がいた。半分くらいは暗い表情だ。

ここにいる全員が人を殺したのだから当たり前といえば当たり前ではあるけれど。


会議室に入ると、影が一人、前に立ってその場を取り仕切っていた。

あの影が発表会を進行していくのだろう。

影に座る席をしていされたので俺は従った。

メジャーリーガーの風我能も怖い顔をして座っている。

あんまりジロジロ見てるとキレられそうだな・・・

落ち着きなく周りを見渡していると天海さんと目が合ったので即座に反らす。さっきの出来事で非常に気まずい。

あの行動を特に反省する気はないけど、それでもやっぱ敵を作らないためには大人しくしておくべきだったかもしれねえ。

でもそれは無理だな。

あの場には神谷ユウキがいて俺は冷静さを失っていたし、

それにもし彼女が生き延びて幸せになってしまったら、自殺という選択肢を否定されているみたいで嫌すぎる。

この世界は生きてるだけでどうにかなるような甘い世界じゃねえんだよ。

俺は運の良かっただけの人間が『試練は乗り越えられる』だのとほざくのが何よりも許せねえ!!!


なんかムカついてきてしまったんで気持ちを静める為に生き残ったクラスメイトについて考えるか。

この俺筆木静荷含め天海敬悟さん、佐谷健汰君、三方玲生君、山野上悠理、明智世知の生存は既に確認してたが、

ここに在原崇、尾形祥真、鈴木仁成、並里一太、平田空良、内浦紅さん、

堅田雪恵さん、公平真央さん、花畑京姫さん、笹岡千果子さんの10人が新しく加わった訳だ。

明智は俺達の2年A組の生徒31人と担任の綱田先生の全員が巻き込まれて、

そのうち16人が死んでしまったと言っていたから、

それが事実なら今この場にいない人間は死んでしまったということで間違いない。

これはマジでヤバい状況になってしまったな。

ついさっきまでは普通に暮らしてたはずの人間が簡単に死に追いやられてしまうなんて、

やっぱりこの世界に希望なんてものはねえわ。これは辛い・・・

まあ俺はクラスで孤立してたから死んだ奴らとの関わりになんて正直あまり無い。

強いて言うならその中の山口君っていう奴と修学旅行で同室になって色々熱く語り合ったことはあるんだけど、

そこから仲良くなることは無く、話すことすら全く無かったっていうのが俺クオリティだからな。

そんなレベルの俺まで結構メンタルに来てるから、まともな関わりがあったらこんなもんじゃ済まねえだろう。

実際死にそうな顔してる奴もいるし・・・

サッカー部の平田なんて手を顔に覆って泣いてるじゃねえか・・・

平田は犠牲者の一人である村仲さんと付き合ってたからな・・・

クラス内で付き合ってたといえば笹岡さんとアメリカ人のティム・ヘイデン・スウェインもそうだけど、

笹岡さんを見るとやはり魂の抜けた顔をしていた。どこを見ているか分からない目だ。


とても見てられん、俺がその立場を代わってやりてえわ。

まずそもそも俺にはもし死んでしまったら滅茶苦茶ショックを受ける存在ようながいねえんだよ。

俺の家族とか死んでくれたら嬉しいだけだし、俺に不快感を与えた罪を悔やんで今すぐ自殺して欲しいと思ってるからな。

だからそんな大切な存在を得ることが出来たこと自体が羨ましいんだわ。

そういう訳だから代わらせてくれ。

俺がその立場を代わってやれればその後はもう後追いするだけだし。

死んだらまたその人に会えるなどという甘いことは考えていない。

天国や地獄といった類の死後の世界など存在しないというのが俺の考えだからな。

そんな宗教的な教えは、いわば地雷原のようなこの世界を認めたくないが故に、

作り出された創作でしかない。

その存在意義は認めるが、俺はその真実を分かっているが故に宗教などという虚構にはすがる気にはならない。

やはり俺が救いを感じるのは自殺という概念だな。

ただ自ら命を絶って終わるだけのシンプルな行為に飾られた嘘などない。

俺は日頃から自殺は否定されるべきではないと願っている。

この地雷原のような世界のセーフティネットになってくれる存在だからな。

それを認めてくれないのは俺達から搾取したいだけだ。


「おっ、尾形。やっぱお前は絶対生き残れるよな。流石だわ。」


「在原はこんな意味わからん状況にたいしてずいぶんと余裕そうだな・・・

油井と喜朗とか他のクラスメイトも死んでしまったという話じゃないか・・・」


「そうか?まあ確かに俺はこんな理不尽な状況に慣れてるからいちいち動揺したりとかはしねえかな。

ただ、油井が死んじまったのは俺も悲しいわ。

アイツは地元の名士の息子で良いコネクションになりそうだったし、

旅行に連れて行ってくれたり高級料理を奢ってくれる気の良い奴だったからな。

鈴木ヨシローはどうでもいい。むしろ死んでくれてせいせいしてるわw。」


暗い気分を紛らわせるために耳に入ってきた会話を盗み聞きしていると在原がとんでもないことを言い放った。

おいおい・・・在原って鈴木ヨシローと仲良かったんじゃねえのかよ・・・

これは鈴木ヨシローが可哀相だと思うわ。

まあ俺はあんまり鈴木ヨシロー好きじゃねえけど。正直嫌いまである。

これは何故かというと、

俺が高校に入学して間もない頃にに鈴木ヨシローと一緒に弁当食って結構話してた時期があって、

その時の出来事が原因なんだわ。

ある日、鈴木ヨシローが誕生日でもらった腕時計を俺とか他の男子達に自慢してて、

他の男子達は順番でその腕時計をつけさせてもらってたりした訳よ。

それでいざ俺の番が来て、腕時計に触ろうとしたら『触るな。』って冷たい言い方をされて俺だけ拒否されたんだわ。

ガチで意味不明すぎて、それ以降俺は鈴木ヨシローと全く話さなくなった。

俺はそれを未だに根に持ってるって訳だな。

なんか思い出したらムカついてきたわ。正直俺も鈴木ヨシローが死んでせいせいする。

まあこんなことはとても言えないけどな。逆に在原はよくこんな人前で堂々と言えるよな。


「おい在原、なんでお前そんなこと言えるんだよ!

お前と鈴木ヨシローは友達じゃなかったのかよ?いつも一緒にいたじゃねえか。」


案の上そんな在原に疑問を抱くやつが出てきた。鈴木ヒトナリだ。

鈴木ヒトナリとは話したことは一切無いが、まあ雰囲気からして穏やかで優しそうな奴だと思っている。

顔もイケメンではなくブサイクでもないフツメンだが、安心感を感じることが出来て俺は結構好きな顔だ。


「あ?あんな奴友達じゃねえから。一緒にいたっていうか、アイツが付きまとってきただけ。

アイツは所詮イケてる俺らに寄生して甘い蜜吸いたいだけのキョロ充でしかねえよ。

アイツの気色悪い虫みたいなグロフェイスはマジで視界に入れたくねえし、

出来ることなら半殺しにして俺らのグループから放り出してやりたかったんだけど、

あんなでも油井は友達だと思ってたみたいだから、しゃーなしだよ。

もうそんな心優しい油井はいねえんだから、いくらでも言い放題だわ。」


「マジかよ・・・お前酷すぎるな・・・」


鈴木ヒトナリは唖然としている。

正直これはワロタわ。でも俺が友達だと思ってた奴にこんなこと言われたら泣いてしまうな。

一生立ち直れないわ。

まあ俺はぼっちで友達なんて一人もいないから、そんなことは起こり得ないので大丈夫なんだけれども。


「イケてる俺らねえ・・・

アハハハハハハ!!!在原君史上で一番面白いこと言うじゃん。

今までは口を開けば不快でしかなかったのに、周りを愉快にすることを覚えたんだね。

ひょっとしてお笑い芸人でも目指し始めたの?良いと思うよ、そのブスさなら天職だと思うし。」


「あ!?なんだお前!?」


すると突然山野上が在原に対して挑発を始めた。状況はますますカオスになりそうだ。

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