第37話「筆木シズカ-16」


「あれっ?もしかしてさっきの言葉って冗談じゃなかったの?

えっ!?本当に自分がイケてるだなんて勘違いしちゃってる?いくらなんでもそれは哀れ過ぎるよ。

在原君のグループで名家の三男でイケメンの油井君と高校生バイクレーサーというカッコイイ肩書の尾方君は

イケてると言えるけど、在原君はどう考えても鈴木ヨシロー君と同類のキモ男でしょ。

恥ずかしすぎて見てられないから、現実見たほうが良いよ。」


山野上は得意げに在原を煽る。


「テメエ・・・!今までよりちょっとばかり強くなったからって調子に乗るなよ!」


在原は顔を真っ赤にして山野上をボコり始めた。

並里も山野上に加勢して在原に立ち向かうが、在原は強く、2人して痛めつけられている。


「確か殺そうとすると、お前ら瞬間移動しちまうんだよな。そういう訳なんでギリッギリに留めておいてやるよ。」


いつもこういう場面を収めるのはだいたい三方君なのだが、

やはりさっき謝さんを侮辱した山野上には怒りを抱いているのか、全く止めに入る素振りを見せようとしない。


「お、おい・・・在原落ち着けよ・・・」


鈴木ヒトナリが恐る恐る在原に声をかけるが、在原はその声を聞いてすらいない。

鈴木ヒトナリは制止を諦めてその場に立ちすくんでしまった。

他に止めに入ろうとする奴はいなかった。

まあ下手に在原を抑えかかろうとすれば自分までやられてしまうからな。

そもそもこれは山野上の自業自得な訳だし、わざわざ労力を割いてまで助けにいく気が湧かないというのは分かる。

俺も当然見て見ぬふりを決め込む。


「チッ・・・うるせえな・・・これだからクソガキ共は・・・」


メジャーリーガーの風我は静かにそう吐き捨てるも、それ以上の関心は示さずにタバコを吸い始めた。

こいつヤニカスだったのかよ・・・

よくよく見ると足をゆすって、異様に周囲をキョロキョロして落ち着きがないように見えるな。

やっぱ風我もこのデスゲームで相当を心削ってるのかね。


いや~それにしても本当に山野上は馬鹿だと思うわ。

なんでこんなバトルジャンキーなんだろうな。

奴も奴なりの信念があるのかもしれねえけどさ、戦った所で勝てるわけでもなく疲れるだけだろ。

俺はやっぱりさっきの神谷ユウキとの戦いでそれを実感したわ。

実際に信念を掲げて戦ってみた結果、何も得られるものが無いってことをな。

本当に疲れただけだわ、まあそれが分かっただけでも有意義だから後悔はしてねえけれども。

やっぱ俺はこんな非常時に陥ってもまだ穏やかに過ごしたいんだわ。

俺は山野上みたいに敵を作りまくる生き方はしたくねえ、たとえそれが自分の意志を殺すことになったとしてもな。

気に食わねえことでもその場で飲み込んで忘れちまえばいいんだよ。そして限界が来れば後は死ぬだけだ。

だから俺は後で天海さんに言い訳して気まずさを解消しに行くことにするわ。

山野上見てるとそう決意せざるを得ない。


・・・でもまあ、山野上が言ってること自体は激しく同意出来るわ。まさに禿同だわ。

俺も在原がなぜイケメン扱いされて女子にモテまくってるのかが理解出来ないからな。

俺は在原は手足の長さでごまかしてるだけで顔面はニンニク鼻で肌もデコボコで汚ねえし、

さっき自分が馬鹿にしてた鈴木ヨシローと同レベルのクラス最下層の不細工だと思ってる。

それに性格の悪さを隠そうともしてねえからな。

それなのに女子共は『キャー在原君!』って黄色い歓声で囃し立てるから、

おかしいのは俺かもしれないのかと不安になってたわ・・・

これも世界の嫌がらせの一種かもしてないってな・・・

こういう自分の美意識を否定されるのもじわじわと精神にくるんだよ・・・

そのせいでお笑いグランプリとかもすっかり見なくなってなってしまったんだよな。

ここ数年は俺はこれはダメだろって思った奴らが優勝して発狂して眠れないの繰り返しでさ。

もともとお笑い芸人はある出来事のせいで好きじゃなかったんだけど、

それですっかり拒絶反応が出るようになってしまった。

話を戻すが、そういう訳なんで山野上が在原のことをはっきりとキモ男だと断言してくれたのは救われたわ。

あとさらっと油井をイケメン扱いしてたのも助かる。

油井は逆に俺はイケメンだと思ってたのに全然周囲に言われてなかったからな。

まあ油井は髪型を七三分けにしてフレームの鼻のところが二つになってるタイプの眼鏡をかけている

かなり古臭いビジュアルだったから、

それが特徴的すぎて、皆油井の顔の造形にまでは目がいかなかったのかなと思うけど。

なにはともあれ在原は絶対にイケメンではなくクソブス。

あんなの女殴ってそうな奴と付き合ったところで性欲のはけ口にされるだけで飽きたらポイ捨てだろ。

まあ俺も普通に顎が無くてヤバい顔だから、

別に人の容姿にとやかく偉そうに言える立場ではないけどそれだけは譲れねえわ。

俺がこのクラスでイケメンだと認めてるのは佐谷君、平田、三方君、油井の4人だけだな。

万人受けする正統派の佐谷君、男性アイドルとしてやっていけそうな平田、

男男しい三方君、昭和時代のタイムスリップしてきたかのような油井。

あと一応それに加えて並里は純粋に顔の良さという指標でならこの4人に勝ってるけど、

あまりにも女顔すぎてイケメンって感じではない。


「お前ら本当に雑魚だよな。弱すぎて笑えて来るぜwよくこの戦いを生き残れたよな。

逆に死んでしまった奴らが情けなさすぎる。コイツら以下とか恥ずかしくて死にたくなるわwww

もう死んでるけどwww」


「テメェソウを馬鹿にしてんのか!?山野上以下とかふざけるのもいい加減にしろよ!!!」


在原の一言に平田がブチ切れて襲い掛かった。ソウってのは死んだ彼女の村仲さんのことだな、村仲想さん。

おっとりして優しそうな雰囲気の人で平田とは美男美女でお似合いだったな。


「うわお前までつっかかってくんのかよ。うっぜえ。

いまコイツらを可愛がってるんだから邪魔してくるんじゃねえよ!!!

お前は後で相手してやるから一旦寝てろ。」


在原は拳を入れようとするがそれを平田は手のひらで受け止める。


「おとなしく俺の一撃で倒れてろよ・・・生意気な・・・!!!!」


「一撃で俺を倒せるだなんてテメェは驕りすぎなんだよ・・・!

明確な格下相手にしかイキることしか出来ない雑魚が調子に乗ってるんじゃねえ!」


在原にボコられて気を失ってしまった山野上と並里を横目に2人は殴り合いを始める。

山野上と並里はあまりにも雑魚すぎたが平田は在原と互角に渡り合えている。

平田は並里よりやや小柄な体格ではあるが、サッカー部のエースとだけあって能力は高いな。


「やめろ平田!!!こんな屑の言うことをいちいち真に受けるな!!!」


ようやく三方君が平田を制止しにかかった。


「クッソー!!!そもそも何でこんなことになってるんだよ!!!」


ドンッ!


在原から引き離された平田は顔を歪めながら、この場にいる人間の大半が思っている事を叫んで壁を殴りつける。


「それはおそらく怪異のせいだと思う。」


するとそんな平田に対して三方君が突然訳の分からない事を口走り始めた。


「は?かいい?何言ってるんだお前・・・人を殺したショックでどうにかしちまったのかよ・・・」


平田はあっけにとられた顔をした。俺も今平田と同じ表情を浮かべていることだろう。

そもそも『かいい』ってなんだよ・・・どっからそんな単語が出てきたんだよ・・・

なんか怖いわ・・・三方君もこの状況に疲れてるのかね・・・?


「僕はいたって冷静だ。怪異といえば簡単に言えば妖怪のことだ。この世界にはそれが実在している。」


「は???いやいや嘘だろ!」


平田は開いた口が塞がらない。


「フッ!」


俺はあまりの突拍子の無さに思わず鼻で笑ってしまった。

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