第38話「筆木シズカ-17」


「一体どうしたんだよ、レオ!!!

この異常事態は妖怪のせいだって言いたいのか・・・!?そんなアニメ昔流行ったけどさ・・・

意味分かんねーよ!お前いきなりそんなふざけた冗談を言いだすような奴じゃなかっただろ!

お前も疲れてるのか・・・!?ちょっと休んだほうがいいぞ・・・」


鈴木ヒトナリも三方君に対して心配そうな顔をするが、三方君は気にも留めずに続ける。


「皆は信じられないみたいだけど、これは紛れもなく事実だ。

一般社会には公表されてないけど、この世界には超常的な能力を持った未確認生物が数多く存在していて、

その中には人々にその力で襲い掛かり事件を起こす悪意を持った存在もいるんだ。

今回の出来事もきっとそんな奴らの仕業だ!!!」


「三方君、それが事実だとして、なぜ一般社会に公表されてないことを君が知っているのかな・・・?」


今まで静観を決め込んでいた佐谷君が、三方君の話に興味を抱いたのか身を乗り出して質問した。


「悪意を持った怪異に対抗するため、国家は秘密裏に防衛組織を運営している。

そして、僕はその組織に戦闘員として所属しているんだ。」


「いやいやいや、三方君。本当にどうしたんだよ・・・

三方君がそんなティム並みの厨二病だとは思わなかったわ。」


三方君の台詞に俺も思わず声が出てしまった。

笹岡さんの彼氏でアメリカ人のティム・ヘイデン・スウェインは優等生ではあったが、

やたらとアニメの真似をした言動をしたがる痛い男だった。

まあ見てる分には面白外国人で楽しかったけど、でもそんな彼も今日死んでしまったんだよな・・・


「だよな筆木・・・やっべえわ・・・」


平田が同意してくれた。こうやって俺の名前まで呼んでくれるのは嬉しいな・・・

というのも、平田と俺は実は中学から同じで同じクラスだったこともあるのだが、

その時の球技大会のサッカーで俺がオウンゴールかまして敗退して、

ガチってた平田を号泣させてしまったという過去があってな。

別にその時平田は俺を責めたりはしなかったんだけど、やっぱ平田に対しては罪悪感しかなくてさ、

俺のほうから気まずくなってしまって、それ以来一切話さなくなってしまった・・・

まあ元々話してた訳でもないけど。

たから嬉しいんだけど、こんな状況じゃなかったら良かったなとは思う。


「信じられない気持ちは分かるけど、これは厨二などという言葉で片付けられる話ではない。

今から僕の話が正しいという証拠を見せてやる。内浦、頼む。」


「了解、隊長。」


三方君が内浦さんに呼びかけた次の瞬間、内浦さんの姿が普段の人間の姿から白くて大きなカラスの姿に変貌した。


「は!?!?!?!?マジかよ!?もはやなんでもありじゃねえか!!!」


声を荒げたのは俺だけではなく、その場にいた中の大勢がざわついた。


「内浦さんは人間ではなく怪異だったということかい?これは驚いたね・・・」


普段滅多に動じることのない佐谷君までもが顔色を変える。


「私も三方クンと同じく組織の隊員。」


「僕の言っていることがよく分かっただろう。

僕と内浦は今まで多くの怪異と戦ってきたけど、悔しいけど現状では手も足も出ない・・・

こんなにも大規模な影響を及ぼす存在は初めてだ・・・

この状況を脱出するにはここにいる皆で力を合わせることが不可欠だと僕は考えている。

だから皆はこれから僕に協力してくれ!!!僕の指示に従ってくれ!!!

そうしてくれれば必ず皆を元の生活に戻すことを約束する!!!」


「分かった・・・俺はレオのことを信じるよ・・・それで俺達は何をすればいいんだ?」


鈴木ヒトナリが真っ先に三方君に声をかける。


「まず最初にここで怪異に屈するのだけはやめてくれ!

奴らは商業施設や世界改変といった餌で誘ってくるが、

それは戻れなくなる罠の可能性が非常に高い!

決して在原のように『自分は神様になったんだ』と調子に乗って甘んじて受け入れてはいけない!」


「フッ、言ってくれるじゃねーか。偉そうに仕切りやがってよ。

皆が自分に従ってくれると思い込むなんておめでたい頭してるわ。

お前が言ってることは要はせっかく受け取った報酬を使うなってことだぜ?そんなことに従う奴いるのかよ。」


「在原君の言う通りだね。私も三方君の言うことには従う気は無いよ。

もう商業施設で新しい服も大量にGETしちゃったしね。」


「なんだって!?」


「もちろん、世界改変だって神貨とやらが振り込まれ次第、即行使するつもり。

私はどうやら相手の世界の神様を1人殺したことによってかなり多くの神貨が懐に入ってくるみたいなんだ。

だからかなりの大掛かりなことが出来るみたい。大勢の命を消し去ることが出来るレベルのことをね。」


「何をするつもりだ・・・!」


明智は邪悪そうに笑みを浮かべる。

俺はさっき服屋で明智の本性を知ってしまったが、どうやらこれからは皆の前でもそれを隠さずにやってくみたいだな。


「予告するね。

私は今日の12時ちょうどに首都直下型地震を発生させて、都会を大混乱に陥れる。

混乱に陥った下民どもが嘆き苦しむ様子を私が高見の見物でが楽しむために。」


「!!!!!!!!」


いきなりエンジン全開だな・・・


「貴様ああああああああ!!!!」


ボコッ!


三方君が容赦無く明智の顔面を殴りつける。まあ自業自得だな・・・


「やってくれるね・・・

さっき死んでもおかしくないほど散々やられたとはいえ、やっぱり殴られるのには慣れないよ・・・

私は温室育ちの甘ちゃんだからさ・・・

まあそれくらいにしといてよ。どうせここから1年間は私を殺せない訳だし。

私はこれから三方君の敵として好き勝手にやらせてもらうよ。」


「この野郎・・・!!!」


怒る三方君は本当に恐ろしい・・・敵には絶対に回したくねえわ・・・

でもそんなことも言ってられないんだよな・・・

なぜなら俺は三方君の言うことには従えないから。

俺の場合世界改変に関してはあまり積極的ではないからそこはどうでもいいんだけど、

商業施設に関してはこれから俺がここで引きこもって暮らすにあたって不可欠だからな。

これを利用しないなんて無理だ。

既に明智と同様に服とかも貰ってしまった訳だし。

今からは俺も明智と同じ立場に回らなくてはならない訳だ。

当然三方君からの好感度は下がり、最悪は三方君に殺されるまであるけどどうでもいいわ。

もしかすればこの発表会が終わった後急いで返品すればまだギリギリセーフなのかもしれないけど、

もはや今の俺にはそれをする気は一切ない。

そもそも俺は三方君の言う元の生活になんて戻りたくねえからな。

だからここは嫌だけど戦わなくてはいけねえわ・・・

三方君に宣戦布告ってところだな。

でもなかなか踏ん切りがつかねえ・・・この空気の中で声を上げる気にならねえわ・・・

どうせいつかはやらなければいけないことなんだから、先送りになんてしない方が良いというのは分かってるんだがな。


「ぼ、ぼ、ぼ!!!」


その時一人の女子の声が響いた。ここまで顔色を悪くして黙っていた花畑京姫さんだ。


「ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、ぼ!!!」


何かを必死に訴えようとしているが、だが花畑さんは重度の吃音症なのでなかなか上手く言葉を発することが出来ない。


「ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、ぼwww」


在原が真似をして笑い始めた。本当にこいつは・・・


「おや花畑さん、何か言いたいことがあるのかな?ゆっくりでいいから一旦落ち着くんだ。

大丈夫、だれも急かしたりなんかしないから。」


佐谷君が優しい声を投げかける。花畑さんは頷いて深呼吸した。


「ぼ、僕は・・・みか、三方君のに・・・したが、従うことは出来ません!!!」


「!!!」


これは先を越されてしまったな・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る