第39話「筆木シズカ-18」
花畑ミヤコヒメさん、俺が言うなって話だが暗くて無口な人間という印象だな。一人称が僕だし結構な変わり者でもありそう。
癖毛が特徴的で前髪が長すぎて顔がほとんど隠れている。クラスメイトの山口君に以前聞いた話だと素顔はかなりの美少女らしい。
俺はこの噂はマジだと思う。花畑さんの母親は有名人で美人だと評判だからな。
山口君には修学旅行で俺の知らないクラスメイトの話を色々聞かせてもらったわ。
俺は花畑さんって高頻度で学校休んでるって思ってたんだけど、実は休んだ日は1日も無くて保健室登校してるらしい。
身長もどちらかというと小さいほうなのだが、その体を縮こまらせていることが多いので余計に小さく見える。
やはり障碍というものが花畑さんの人格形成に大きな影響を与えてしまったのかね。
花畑さんは吃音だけじゃなく、難聴もあるし、体調も崩しがちみたいだから今まで相当苦労してきただろう。
花畑さんとは1年の時もクラスメイトだったんだけど、
現代文の授業で無理やり朗読させられて泣いてた姿は見てられなかったわ。
そういう訳でぱっと見そんな弱弱しい存在だったけれども、この戦いで生き残ったことに関しては意外だとは思わん。
花畑さんもそれなりにバトルジャンキーだからな。大げさ言い方すると女性版山野上だ。
花畑さんは山野上みたいに屁理屈こねてごり押しなんて芸当は出来ないが、母親が代議士だからな。
その親引き連れて学校に殴り込みよ。朗読事件の犯人である国語教師をクビに追い込んだ。
その時は俺も助かったな。俺もその教師は嫌いだったから。
奴は俺は授業を聞くために眠気と必死に戦っていたというのに、
俺をただただ寝てた奴としてゴミのように扱いやがったからな。
あの野郎俺を後ろに立たして散々罵声を浴びせた挙句、クラス全員の前で授業を止めたことを謝罪させやがってよ。
授業を止めたのはお前だろって話だわ。
これは山野上なら絶対戦ってたんだろうな、そして職員室呼び出し案件にまで話を大きくしてたんだろう。
まあそんな訳で結果的には不快な存在を俺の世界から消し去ってくれた花畑さんには感謝しかないかな。
花畑さんが親の権力を行使して暴れたのは他にも色々とある。
一番インパクトあったのは花畑さんのカンニングがバレた時だな。
正確にはカンニングじゃなくて、
答案の返却後に答えを書き換えて採点ミスとして申し出て点数アップを計ったという不正行為だが、
本質的には同じだろう。
正直俺的には、たかだかテストの点数なんかためにこんなリスクを背負うのは馬鹿だとしか思えない。
確かに成績が悪いと親に文句を言われてしまう訳だから、それをどうにかしたいというのは分からんでもないけれど、
だったらEXCELで成績表を偽造してそれを親に見せればいいだけじゃないか。
俺が知り合いだったらやり方を教えてあげられたのになと思う。
まあそれはともかくとして花畑さんは生徒指導に呼び出された訳だが、母親の力で見事お咎め無しに持っていった。
滅茶苦茶だな。
でも俺は別に花畑さんのことは嫌いではない。
花畑さんは俺達同級生に向かっては権力を使ってこなかったからな。
その気になればライトノベルとかにありがちな悪役令嬢として、取り巻きを従えて威張り散らせそうなもんだが、
花畑さんは大人しくてクラスメイトと接するときも丁寧な口調で頭をペコペコ下げて腰が低かった。
さて本題から大分脱線してしまったが、話を戻すと花畑さんは持ち前のガッツで三方君に反抗してみせた。
花畑さんが三方君に従えない理由とは世界改変に関するものであろうかと推測してみる。
俺が花畑さんの立場だったらと考えるとその答えが出てくる。
「それはどういうことだ、花畑ミヤコヒメ。お前もあの女と同じくこの世界をどん底に突き落とすつもりなのか?」
「明智さんなんかと・・・い、い、一緒にしないでくださいっ!!!
ぼ、僕は・・・ただ、じ、じぶん、自分の体を、な、なお、治したいだけなんです!!!
そ、そ、そ、そ、それをしないなんて・・・ぼ、ぼ、僕にはできな、出来ない・・・!!!
も、もし文句があるのなら・・・どうぞ、ぼ、ぼ、僕をなぐ、殴ってください!!!」
花畑さんが三方君に向かって叫んだ。俺の予想が的中した、やはりそうなのか・・・
かなりブチ切れているが俺のようにボケだのアホだの言わず、丁寧な口調を保っているのは尊敬できる。
花畑さんは目を閉じて両手を広げて、三方君に殴られる覚悟を決める。
「花畑さんを殴るのはいただけない。殴りたいのなら俺にしてもらおうか。
三方君、俺も君には従うことは出来ないからな。
君には散々世話になったのにもかかわらず、その恩を仇で返すような行為で申し訳ない。」
天海さんが花畑さんを庇う。
「そ、そ、そ、そんな!!!天海さんが、か、か、かわり、代わりに殴られるなんて・・・わ、わる、悪いです・・・」
「花畑さんは何も気にしなくていい。これは俺自身の選択だ。
むしろ俺は一人ではないと勇気づけてくれた君には感謝しかない。
君と俺は心に何か通ずるものを抱えているように感じたからな。
さっき君が上手く言葉に出来なかった分まで俺が三方君にぶつけてやろうじゃないか。」
天海さんが三方君を目を合わせる。
「三方君・・・誰かが命を落とし続けるこの惨状を一刻も早く終わらせたいと願う君の気持ちは理解できる。
・・・世界改変という概念さえ無ければ、俺も君に協力していた。
今ある世界の真実全てを自分の思い通りに出来るなんて普段なら信じない馬鹿げた話だが、
俺達は既に超常現象が起こるのを目撃し続けてしまっている。
おそらく世界改変には本来なら不可能なこと可能にする力があるとみて間違いないだろう。
この魅力的な力を前にして手を伸ばさないことなど出来ない。
俺はこの力で長年俺を蝕んできた病魔を振り払う!例え誰であろうと俺の邪魔をすることは許さない!!!」
「・・・それでも駄目だ。
花畑ミヤコヒメ、天海ケーゴ、お前達は分かっていない!
世界改変はあの影共が推奨していることだ。あいつ等の利益になることだと考えるのが自然だろう。
お前達が悲劇を無かったことしたいのだと動けば、それは新たな悲劇を生み出すことに繋がるのかもしれないのだぞ!!!」
「構わない。俺は自分の願いを叶える為なら如何なる十字架でも背負う覚悟だ。」
「ぼ、僕も同じです!!!」
「お前達・・・頭を冷やせ!!!その場の感情で動けば、後で後悔するのはお前達だ!!!
これ以上アイツ等に罪を重ねさせられる必要は無い!!!
一度立ち止まって、僕に時間をくれ!!!
そうすれば僕は内浦と共にアイツ等倒して、お前達を元の日常に戻すことを約束する!!!」
三方君は高らかに宣言した。
まあ確かに三方君が全部終わらせてくれるのなら、それでも良いのかもしれない。
1年に1度死のリスクを確実に間近にする生活なんて普通に嫌だしな。
まあ元の日常に戻らないといけないというのが癪だが、
それはこの事件に巻き込まれたことに精神的ショックを受けたことを大義名分にして、
引きニート生活を送ることが出来ると考えれば、問題ない。
実際、嘘でもなんでもなく俺のメンタルは食らっとるからな。
・・・もっともこれは、三方君が終わらせることが出来ればの話だ。
「俺も花畑さんもそんなことは望んでいない!」
「お前達の意思など関係ない。お前達に行動を起こさせないことは僕の義務だ。
仕方がないが痛みをもってお前達の心を折り、お前達を抑止する。」
三方君が指をポキポキと鳴らす。これは本格的にヤバいな・・・滅茶苦茶怖え・・・
三方君って結構過激な性格してるんだな・・・
花畑さんと天海さんは必死に表情を崩さないようしているが、体の震えを抑えることは出来ていない。
「なあ、三方君・・・」
「おい、レオ・・・」
俺がようやく声を発すると鈴木ヒトナリと被ってしまった。
一瞬お互いに黙りこむ。
「おっと、すまん。出しゃばったわ。
鈴木ヒトナリは三方君と仲が良いから、三方君止めるなら俺が話すよりかは断然良いよな。」
「いや、筆木が言ってくれ。
天海さんと花畑がここままボコられるなんて見てられないから、とりあえず声を上げてはみたが、
俺にはレオを止める言葉を思いつかないんだ。頼む。」
記念すべき鈴木ヒトナリとの初会話。鈴木ヒトナリが俺に譲ってくれた。
「・・・どうも。」
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