第40話「筆木シズカ-19」


「三方君はそんなことが本当に出来るつもりなのか?」


俺は三方君に問いかけた。


「なんだ?筆木シズカ?お前も僕に文句があるのか?」


俺は花畑さんをかばって前に出ている天海さんをかばってさらに前に出る。

はっきり言って恐怖しかないが、せっかく2人が勇気を出したというのに、ここで便乗すら出来ないようなら終わりだ。


「文句っていうか、まあ色々言いたいことがあるわ。」


俺は覚悟を決めた。ええいままよ!


「まず三方君はこの状況を終わらせたいみたいだけど、その目途は立ってるのかということを聞きたい。

いつ俺達はこの殺し合いから抜け出して元の生活に戻ることが出来るんだ?」


「現状目途は立っていない・・・」


三方君は苦しい顔をした。


「だろうな。こんな強大な力、災害レベルの力を持った相手にどう立ち向かえるってんだ。

残念ながら三方君は負けてるんだよ。

あの影に逆らえず、俺達がこの殺人ゲームに放り出されて死人が出るのを止められなかった時点でな。

悪いが現状俺達にとって三方君は無力だ。そんな存在の言うことを100パーセント従うなんて出来ない。

あの影は俺達に対してこの施設で過ごし、世界を改変することを推奨している。

だがそれは裏を返せば、それをしない場合は何らかの不利益を与えられる可能性があるということじゃないのか?

三方君があの影に従わないというのは構わない。三方君があの影倒してくれるならそれが一番だ。

でも三方君が背負ってるリスクを俺達にまで押し付けてくるのはやめろよ。

暴力で俺達を従えようなんてもっての外だろ!!!まあ明智はクズだからどうでもいいけど。」


俺は三方君の目を見つめる。


「チッ・・・じゃあ勝手にしろ。悪魔に縋るような真似をしたお前達を僕は一生軽蔑するが。」


三方君はそう吐き捨てて背を向ける。なんとかその場を収めることができたようだ・・・

三方君の俺への評価は無事最低になったが、これからの為に必要な犠牲だろう。


「ふ、ふ、ふで、筆木君、ありがとうござ、ございます!!!」


「別にお礼を言われるようなことはしてねーよ。」


「筆木君・・・」


天海さんが神妙な顔をして俺を見ている。

ちょうどいいタイミングだしさっきの弁明をして何とか天海さんとは和解に持っていくか、そう思った瞬間だった。


「ふざけるな!!!私達を見下しやがって!!!私達を見捨てやがって!!!」


「何をする!!!」


ドンッ!


さっきまで黙り込んでいた笹岡さんが突如三方君に掴みかかり大声で叫んだ。

三方君はそんな笹岡さんを引き剥がして地面に叩きつける。女だろうが容赦がない。


「誘惑に釣られることの何が悪い!!!当たり前の感情じゃないか!!!

たったそれだけで私達を助ける価値の無い人間だとみなすのか!!!

この状況を終わらせると宣言したのなら私達もひっくるめて助けてみせろよ!!!」


笹岡さんが美人な顔をぐちゃぐちゃに崩し泣きながら訴えかける。

学校ではずっと無表情だったから、笹岡さんがここまで感情を出すのは初めて見た。

彼氏のティム・ヘイデン・スウェインと二人きりの時は違う顔も見せてたのかもしれんが。


「うるさいぞ、笹岡チカコ。」


「グハッ!!!」


三方君が笹岡さんのお腹を蹴りつける。これはあまり直視したくない光景だな・・・


「落ち着いて隊長!!!イラつきすぎ!!!これは無駄な暴力だよ!!!」


人間の形態に戻った内浦さんが三方君を宥める。


「チッ・・・救いようのないクズが・・・」


三方君は冷めた目線で笹岡さんを見下す。

三方君ってこんなドス黒い人間だったのか・・・これはショックだな・・・


「あぁ・・・うぅ・・・」


笹岡さんは起き上がれずに苦しんでいる。


「そんな目の敵にするなよ、三方。笹岡さんが可哀そうだろ。」


延長戦だ。俺は三方とまた戦う決意を決めた。

正直精神的疲労はもう限界を超えていたが、笹岡さんの言ってることには共感出来るので見て見ぬふりはしたくない。

ここは無理をする場面だ。この発表会が終わったら絶対に寝るけど。


「なんだ筆木シズカ?まだ言いたいことがあるのか?」


「三方としては、世界改変をすることによってあの影が何らかの利益を許せないという考えなのかもしれないけどさ。

でもやっぱりそんな頭ごなしにに否定しまうのは良くねえわ。

今の世界を嫌だと思うことはそんなに悪いことなのかよ!?

じゃあお前はこの世界を素晴らしいと言えるのか???言えると言うならこの場で言ってみろよ!!!」


「・・・何故そんなことを言う必要がある?それによって僕に何の利益がある。」


「利益は無い。でも損も無いだろ。一瞬で終わるんだから言えよ。

『僕はこの世界は欠点の無い完璧な世界だと思っています』ってな。」


「お前はそもそも何の話をしているんだ!!!意味が分からない!!!」


「そうかそうか、言わないか!言えないか!言いたくないか!

そうだよな、そうに決まってるよな!!!

この世界を称えるなんて出来るわけがない!!!何故ならこの世界は狂ってるからな!!!

そうじゃなかったら、俺らのクラスメイトはこんなところで命を落としてねえだろ!!!違うか!!!」


「確かにそれは否定出来ない・・・」


「花畑さんにしろ、天海さんにしろ、笹岡さんにしろそういうところを変えたいと思って

お前に突っかかったんだろうと思うわ。

だから明智みたいに悪意を持ってこの世界を滅茶苦茶にする訳じゃないんだし、

障碍を治すとか死人を蘇生するぐらいは許してやれよ。

というかお前としても許したほうが良いんじゃねえか。

お前と仲が良かった謝さんが死んでしまったけど、神貨を消費してなんとか生き返らせるつもりは無いのかよ。」


「ふざけるな!!!」


ボコッ!!!


「グハッ!ゴホッ!!!」


俺は腹に一撃を食らい、倒れた後に蹴られる黄金パターンでボコボコにされる。

クッソー最悪だ・・・一応論理的に話を進めたつもりだったのに・・・どこで地雷を踏んだんだ・・・


「やめてよ隊長!!!いつもに増して暴力的すぎ!!!」


再び内浦さんが三方を止めに入ってくれたおかげで、なんとか俺への打撃は収まった。


「いってえ・・・」


「筆木・・・大丈夫か・・・?」


先に回復していた笹岡さんが俺に手を差し伸べる。俺はその手を掴んで立ち上がった。

隣にいる笹岡さんを見ると背が高いなという感想が真っ先に出てくる。

ばっと見る限り俺より数センチは高い。おそらく175㎝は確実に超えている。しかも顔は小さいから10頭身だわ。

すげえ・・・理想的なモデル体型だな。あんま並んで立ちたくねえ・・・


「筆木・・・、生き返らせられない。」


「えっ?」


殴られたショックの現実逃避でくだらないことを考えていると笹岡さんが何か言ってきた。


「神様に選ばれた人間はこのゲームで死んでしまうと生き返らせることが出来ないんだ。」


「マジ!?でもあの影はこの世界の全ての事実を書き換えられる的なこと言ってたじゃねえか。」


「例外があるらしい。私もティムを生き返らせたかったけど無理だと言われた。」


「そうだったのか・・・これは新事実だわ・・・

そこまで詳しくあの影に聞いてなかったから知らんかった・・・」


なるほど、謝さんを生き返られられないのか・・・こりゃ迂闊だった。


「とりあえず、すまん、三方。」


俺はひとまず頭を下げる。


「でもその上で言わせてもらうが、それでも三方は世界改変を認めるべきだ!」


「!!!」


三方が俺の元へ詰め寄ってくる。

俺は笹岡さんとかを巻き込まないようにさりげなく部屋の隅に移動した。

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