第41話「筆木シズカ-20」
「別に三方が生き返らせたいと思う対象は謝さんだけじゃないと思うんだわ。
良く分かんねえけど三方は組織で漫画の主人公みたいにヤバいのと戦ってきたわけだろ?
だから当然一緒に戦う仲間とかもいた訳だ。
そして、そいつ等の中の1人ぐらいは怪異とかいうのにやられて死んでしまったはずだろ。
そんな人間を生き返らせることが出来るかもしれないんだぜ。
お前はこの事実を前にして何とも思わねえのかよ。
もし何かを感じたなら花畑さん達の気持ちも理解できるんじゃねえか?
だからそんな目の敵にしねえでくれよ。考えを改めてくれよ。
笹岡さんに謝ってくれよ。俺が言いたいのは以上だ。」
「筆木シズカ・・・お前の主張はよくわかった。
確かに僕には生き返らせたい人間がいる。
それはお前の言うように怪異に立ち向かい散っていった戦友達でもあるし、
怪異によって理不尽に貪られた僕の家族もそうだ。」
「なっ!!!お前・・・そうだったのか・・・だったら・・・」
「でもそうだとしても、自分勝手に過去は変えてはいけないんだ!!!
お前達を認める訳にはいかない!!!」
「は?なんでだよ!?」
「本来の運命を捻じ曲げてしまえば、また別の誰かに皺寄せが行く。
本来死ぬはずのなかった人間を殺すことになってしまうかもしれないんだぞ!!!
これを罪深いと言わずになんという。お前達がやろうとしているのはそういうことだ!!!」
「はあ?そんなこと気にしてたのかよ!?別にそんなのどうでもいいだろ。
大切な人を救いたくて何が悪い!!!
誰かが貧乏くじを引かないと成立しないこの世界のシステムが悪いわ!!!」
「自分自身の行動を外的要因のせいにするとは呆れた話だ!!!お前は腐ってる!!!」
「腐ってるとは言い過ぎだろ!!!なんでここまで言われなきゃいけねえんだ!!!
いいか?仮にトロッコ問題で自分の友達と赤の他人を選択しないといけないという状況に置かれた時に、
自分の友達を選んだ人間を誰が責められるっていう話だ!!!これはそういう問題なんだわ!!!」
俺と三方は口論を続けるも話は平行線を辿った。
「お兄さん、その辺にしといたら?
お兄さんは何としてでもその坊主頭にチカちゃんへの暴行を謝罪させたいんだろうけど、多分無理だと思うの。
その坊主頭は石頭だからねえ~こりゃあ私の親父並みの頑固さよ。いや~あの人は最悪だったわ。」
その様子を見かねた堅田さんが口を挟んできた。
でもなんか妙だ。堅田さんってこんなフランクな話し方だっけ?俺が知らんだけかもしれんが。
でも接点もロクに無い俺のことをいきなりお兄さん呼びするようなイメージは無かったんだけどな。
「別にそこの坊主頭に見下されても良いじゃないの。
あんな奴がいくら文句を言ってこようが無視して好きに世界を改変すれば良いだけなんだから。
お兄さんもチカちゃんもたかだか小僧一人を重く見すぎよ。どうせアイツには何も出来ないわ。」
「・・・まあ確かに堅田さんの言う通り、三方は無視すればいいとは思うわ。
俺は滅茶苦茶三方にビビってるから、何とか分かり合えないかと俺の真摯な感情をぶつけた訳だけど、
何一つ分かってもらえなかったからそれはもう諦める。
実際、三方が花畑さん達の世界改変を邪魔する為に出来ることってあんま無いわけだしな。
せいぜい発表会で花畑さん達の改変に反対するくらいだろ。
あ、でもそうすると神貨を使ってしまって、ある意味あの影の思惑に乗ることになってしまうから、
それすら三方にとっては取りたくない手段だな。
まあ仮に三方が反対するという選択をしたとしても、その時は俺が花畑さん達に賛同して三方の反対を取り下げるから、
どのみち出来ることは無いけど。」
「え・・・?」
俺の発言に花畑さんと天海さんは目を丸くする。
「良いのか?筆木君?俺の願いに君の神貨を使わせてしまって・・・」
「全然良いですよ。
俺にはあまり改変したいことってありませんし、神貨は貯まる一方だと思うので、
それなら花畑さんとか天海さんとか使おうと思います。」
「あ、あ、あ、ありがとう!!!ふ、ふ、ふ、筆木君!!!」
「礼には及ばんって。」
花畑さんは輝いた目で俺を見てくる。
「・・・・・・・・・」
その一方で天海さんは何か考え込んでいる顔をした。やはりさきほどの件で、俺に協力されるのが嫌なのかね。
その辺も含めて天海さん後で一回話し合いたいな。そこで揉めるようなことがあれば天海さんとはもうさよならだ。
「いや~お兄さんは漢ねえ~!!!
はっきり言って第一印象は陰気でなよなよした気持ち悪い男にしか見えなくて最悪だったのだけど、それは間違いだったわ。
お兄さんは心に熱い芯を持った優しい人間よ。
今まで私に言い寄ってきた男達より100倍はいい男だわ。
よく見たらお目目もくりくりして結構可愛い顔だしね、私気に入っちゃった~!!!アハハハハハ!!!」
「は、はぁ・・・それはどうも。」
堅田さんは一人はしゃぎながら俺の肩を軽く何回も叩く。
やっぱ堅田さん変じゃね?絶対元々はこんなんでは無かったわ。
普段の堅田さんはクール系のポーカーフェイス女って感じでこんな豪快に笑うことは無かったはずだ。
一体何なんだ?このデスゲームのせいでメンタルがぶっ壊れてしまったのか?
「さっきから聞いていれば、お前、堅田ユキエじゃないな。誰だ?」
違和感を抱いていたのは俺だけでなく三方もそうだったようだ。
まあ三方は普段から教室で堅田さんとよく話していたからな。
やっぱりそんな立場の人間から見ても今の堅田さんはおかしいのだろう。
「あら~やっと私の存在に気づいてくれたのね?ここまで気づかないとはアナタ鈍感すぎるわ。
今まで怪異と戦ってきたと豪語する割には大したことないわね。雑魚狩りばかりして調子に乗ってた弊害かしら。
やっぱりアンタみたいな尻の青い若造は何にも怖くないわ。
このゲームとやらを終わらせることが出来る力なんてアンタには微塵も感じないねえ。」
「お前・・・、何者だ・・・」
「アンタが怪異と呼んでいる存在よ。
少し前からこの子、ユキちゃんに憑依して体を貸してもらってたのだけれども、
そのせいで大変なことに巻き込まれちゃったわ。
どういう訳かユキちゃんの体からも離れられなくなっちゃったし、踏んだり蹴ったりね。」
堅田さんの口から衝撃の事実が語られた。要するに堅田さんは怪異に体を乗っ取られていたという訳か・・・
状況がますます滅茶苦茶になっていくな・・・
「てかちょっと待て、離れられなくなったってヤバくね。一生堅田さんって乗っ取られたままなのか?
堅田さんの元の人格はどうなっちまうんだよ・・・」
「そこは心配しなくてもいいわよ、お兄さん。
私が表に出てこれる、つまりこの体の主導権を握っていられるのは半日につきせいぜい1時間ちょっとの間だけよ。
神様とやらに選ばれたおかげでこれでも大分増えたんだけどね。
もうそろそろ私はユキちゃんの中に引っ込むわ。」
「そ、そうですか・・・」
俺はロクに言葉が出なかった。何というか堅田さんはこれから大変だな・・・
「おっとそろそろ時間ね。お兄さんの名前ってたしか筆木君だったわよね。筆木君、また会いましょう!!!
チカちゃん、今は辛いだろうからゆっくり休んでね。また相談に乗ってあげるから。」
笹岡さんは頷いた。あの怪異とは知り合いなのか?
「ここは、死後の世界なの・・・?」
次に堅田さんが声を発した時、その言動は従来の堅田さんのイメージと違わないものとなっていた。
「違う。私達は生きている。」
「一体何が起きたのよ、笹岡!!!私はゲームに乗った貴方に殺されかけた所からの記憶が無いのだけれど!!!」
堅田さんは笹岡さんに向かって叫んだ。
堅田さんは普段通りの無表情ではあるが、流れ出る汗が尋常ではない、これはかなり動揺しているな。
どうやらさっきのゲームで二人の間に何かあったみたいだな。
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