第55話「笹岡チカコ-14」
「そこが一番気になるところよね。
まず、さっき私は声も届かない、物に触れることだって出来ない存在だち言ったわよね?」
「ただ何も出来ずにそこにいるだけの存在だと言っていましたね。」
「でもそれには例外があるの。ある特定の状況下においての話なんだけどね。」
「例外ですか・・・それはどういった状況ですか。」
「幽霊は生きている人間に憑依することが出来るの。」
「憑依・・・なるほど、幽霊といえばそんな話も聞きますね。
それで姐さんは体を乗っ取ったというわけですか。でもどうして堅田だったんですか?」
「その通りよ。
誰かに憑依さえすれば私は、その人間を介して物に触れたり食べたりした時の感覚を味わうことが出来るようになる。
だけどこの憑依はチカちゃんが考えてるほど便利なものでもなくて、誰の体にも憑依という行為が出来る訳じゃないの。
例えばチカちゃん相手には不可能ね。というか大抵の人間には無理よ。
ユキエちゃんみたいな子は私が日本中を探し回って見つけた本当に稀な例だったの。」
「私の体は乗っ取れないけれど、堅田の体なら出来る。一体、私と堅田で何が違うというんですか?」
「それも私もあまり良く分からないの。
ただ、霊媒体質っていう言葉があるように、そういう体質の人間だったってことね。」
「はあ・・・なんというか堅田は中々大変ですね。
憑依してたってことは貴方は堅田の体で今までやりたい放題してたって訳ですか・・・」
この話を聞いて私は正直姐さんは普通に悪霊のカテゴリに入るのではないかと思った。
「まあ、私のやっていることはとても褒められたことではないわね。
実は社会には秘密裏に怪異という存在に対応するために設置された防衛組織があるのだけれど、
私はそいつらに従わずに生きてるから、立派な討伐対象よ。
でも一応弁明させてもらいたいのだけれども、ユキエちゃんの体で滅茶苦茶をしてる訳ではないわ。
やろうと思っても出来ないしね。
というのも、憑依した人間を自由に動かせるのは1日に5分程度が限界で、
残りの23時間55分はその人間の中で休んでエネルギーを蓄えておく必要があるわ。」
「自由に動けるのはたった5分しかないんですか・・・
しかもその為にほぼ1日身動きがとれないとなると、中々しんどくないですか?」
「そんなことないわよ。
人間の中に潜んでいる時も意識自体はあるから、ユキエちゃん視点で日常の光景を見ることが出来てそれはそれで楽しいわよ。
チカちゃんが分かりそうな例えで言うならVRゲームに近い感覚かしらねえ~
今の時代は本当に凄いわ。あんなものが世に出てくるなんてねえ。」
「そうですか・・・もしかしてユキエの生活を見ている過程で私のことも知ったんですか?」
「ええそうよ。最初は嫌味なガキだと思ってチカちゃんのことを嫌っていてしまったのだけれど、
表情に影があるのが気になって、チカちゃんについて回ったって訳よ。ごめんなさいね。」
「まあ私は堅田に対してクソみたいな絡みばかりしてましたからね・・・
あの時に中に姐さんがいたというわけですね。嫌な思いをさせてごめんなさい。
これは当然、堅田に対しても言うべきセリフなんでしょうが、
こんな状況になってしまってますます言うタイミングを逃してしまいそうです。」
「そうね・・・でもまずはこの状況を生き残ることを優先に考えましょう。
死んでしまったらもう仲直りなんて無理だもの。
大丈夫、チカちゃんもユキエちゃんも私が絶対に死なせないから!」
「はい・・・」
「話を戻すけど、私がユキエちゃんの体を乗っ取ってやっていることといえば、
せいぜい夜中に部屋を歩き回ったり、夜食を食べたり、フカフカのベッドに寝転ぶことぐらいよ。
あとはパジャマからユキエちゃんのかわいい私服に着替えて、大きな鏡の前でその姿を眺めたりもしてるわね。
生前の私はむさくるしい巨漢のゴリラ男だったから、小さくてお人形みたいな女の子に憧れていてね。
ユキエちゃんはまさしく私の理想の姿を体現していて、つい楽しくなっちゃうのよ。」
「なるほど、確かに堅田に憧れるってのは分かりますね。
私も無駄に背が高いので堅田みたいになれたらなとは度々思ってました。」
「あら~そうだったの~!!!でもチカちゃんだって美人で細くて手足が長くて素敵じゃない!!!
芸能人を相手にしたって勝てると思うわ。」
「ありがとうございます。まあ私の全てが好きだと言ってくれた奴がいるんで今は自分に満足してます。」
「それってあの外人さんのこと?」
「はい。ティムは私なんかにはもったいないぐらい良い男です。」
私はティムの顔を思い浮かべる。そしてある可能性が脳裏に浮かびハッとした。
「あれ?チカちゃん?どうしたの?顔色がますます悪くなってるわ。」
「いや・・・このデスゲームには私と堅田が巻き込まれてしまったじゃないですか・・・
もしかしてティムも巻き込まれてしまったんじゃないかって思ったんですよ・・・
もしそうだとすれば私と違って誇り高いティムは絶対に人殺しには乗らないから、死んじゃうじゃないですか・・・
どうしよう・・・」
私は頭を抱えて激しく狼狽し、またしてもその場に座り込んでしまった。
「確かにその可能性が無いとは断言できないわねえ・・・でも一旦落ち着きましょう。
落ち着くというか・・・今だけはその感情に蓋をして、目の前の状況に集中してほしいわ。
私達が生き残る為にはチカちゃんの働きが不可欠なの。
これが終わったらいくらでも私に感情を吐き出してくれてかまわないから。お願いよ。」
そんな私を姐さんは優しく諭す。
何をやっているんだ私は・・・さっきから人殺しはずっと姐さんに任せっきりになってしまう。
そうだ・・・私は死ぬのなんて嫌だ・・・私も人を殺さないと・・・
「すみません、姐さん。取り乱してしまいました。今はこんなことをしている場合ではありませんでした。」
「謝らなくてもいいわよ。こんな状況に巻き込まれて取り乱すなっていうほうが無理に決まってるじゃないの。
ひとまず、あのビルの屋上に行ってみましょうか。
今の私達は視力も格段と向上しているし、高いところから見通すことで他の参加者の姿を確認することが出来るかもしれないわ。」
「そうですね・・・」
「そうと決まれば急ぎましょう!もう時間もあまり残されてないわ!」
「はい!」
◇
「これは驚いたわね・・・」
「はい・・・」
ビルの屋上から見えた地獄絵図に私達は言葉を失う。
黒い影の集団がが死体の山を歩く中、動いている僅かな人間に目をやる。
この中に知り合いがいるかもしれない。
「あそこにいるのは佐谷君ね、彼と同世代ぐらいの知らない子と凄い戦いしてるわ。
そこから500mぐらい先では三方君も警官みたいな女と戦ってるじゃない。
逆の方向を見てみると平田君もいるわ。
まさか私の人混みから瞬時にハンサムを見つけ出す特技がこんな所で役に立つなんて。」
「本当ですね・・・佐谷君の所をよく見ると筆木君と天海さんもいます。
これはもしかしなくても私のクラスのメンバーが巻き込まれてしまったんじゃないですか・・・
ティムはどこにいるんだ!!!」
私達は必死になってティムを探し出したが、結局見つけることが出来ずに今日の戦いは終わってしまった。
転送されて、目の前に現れた黒い影にティムについて聞きだしてみると、
想像しうる中で最悪の事実を突きつけられてしまった。
その瞬間私は体中の力が抜け落ちて、その場にしゃがみこんだ。
そこから先の記憶はあまり覚えていない。
堅田がいる部屋へと向かって、姐さんに泣きついたのだけは覚えているけれど。
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