第6話「筆木シズカ-6」
「朝の挨拶はohayogozaimasuですね。ちなみに昼はkonnnichiha、夜はkonnbannhaです。」
「へー、もう一回言ってください。ちょっとメモします。今から婚約者と会うんでちょっと自慢します。」
こ、婚約者!?コイツさらりととんでもねえこと言ったな・・・
この俺とまったく同じ顔をしているのに、お前は彼女いない歴イコール年齢じゃないのかよ・・・
「朝はohayogozaimasu、昼はkonnnichiha、夜はkonnbannhaです。」
「ふむふむ・・・ありがとうございます!」
「フデキさん、貴方婚約者がいるんですね・・・」
「はい!この写真の一緒に写ってる彼女がそれです。」
パラレルワールドの俺はロケットペンダントを取り出し中を開いて見せた。
写真には今まで散々鏡で見てきた顔と一緒に芸能人レベルで可愛らしい美少女が写っている。
「おお・・・この婚約者の方もアジア系に見えますが、同じ日本系だったりするんですか?」
「いえ、彼女は中国系です。」
「彼女とはどういった経緯で知り合われたんですか?同じ学校のクラスメイトとかですか?」
「私達は政略結婚の許嫁として、元々周りによって幼い頃から婚約が決定されていました。
実際に対面したのは1年前ですがね。」
「政略結婚!?フデキさんってお偉いさんの家族だったりするんですか?」
「そんなに驚くことですか?ここでは別に珍しいことでもないでしょう。
確かに私は議員の息子なのでサトーさんの言うところのお偉いさんの家族だということには変わりありませんが、
それは貴方だって私と同じようなもんでしょうに。綺麗な身なりをしていて、学校に通っているんですから。」
パラレルワールドの俺は怪訝な顔を浮かべる。
「え・・いや・・・」
やべえ、怪しまれてるな・・・生きてる世界が違うからどうしてもボロが出てきてしまう。
しかし、世界が違うだけでここまで人間って変わるもんなのか。
そりゃ俺だって『もし○○だったら・・・』っていう妄想はよくするけどさ、こんな全身エリート人間の俺は想像出来ねえよ。
「す、すいません。今のはクソつまらないジョークです。盛大にスベりちらかしました。忘れてください。」
「は、はあ・・」
俺が意味不明なことを言ってしまって、白けた空気になるってのはまああることだからな。
ここもそういうことにしておいてくれ。
「俺って人と話すのが下手くそなんですよね・・・」
久しぶりに本当のことを言った。情けない・・・
「あ、そういえば彼女さんってどういう方なんですか。仲良くやってるんですか・・・」
急転換で話を逸らす。無理やりすぎるのは十も承知だ。
「彼女は明るくて元気ですね。彼女といるとこっちまで気分が良くなります。」
パラレルワールドの俺は俺に合わせてくれた。コイツ優しいな。さすがはエリート。
「彼女は音楽・・・特に大戦直前期の音楽が好きで、よくその頃のヒット曲を歌ってくれますよ。
私もピアノをやっているので、一緒に伴奏なんかをしているうちに距離も縮まりました。」
「へえ~それは、それはロマンティックで良いですね。俺にはそういうのに縁が無くて憧れますよ。」
本当に憧れるわ。
最初は政略結婚ってどうなんだと思ったが、
よくよく考えるとお見合い婚とか自由恋愛でなくてもおしどり夫婦になってるカップルなんていくらでもいる訳だしな。
仲良くなれたっていうんなら何の問題もないな。
あんな美人とイチャイチャなんて羨ましすぎるだろ。
それに加えピアノやってるとかお前さ・・・
そりゃ弾けたら滅茶苦茶カッコいいなって妄想はよくするけど、
あんな両手で違う動きするややこしいのなんて俺にはハードル高すぎて無理に決まってるじゃん。
それを本当にやってのけるなんて、同じ俺だとは到底思えねえ・・・
正直有能で幸福な世界線の自分と話すなんてまあまあ地獄だから、さっさとこの場から逃げ出してえよ・・・
というか、俺は今何をやっているんだろうな・・・
絶対にこんな悠長にお喋りなんてしてる時間じゃないだろ・・・
でもだからと言って、じゃあ今の俺が何をやるべきかって、それは人殺し、なんだよな・・・・
ここまで来たら、あの影が言ってたことがガチだってことは嫌でも分かる。
俺が生き残る為には戦うしかねえ訳だ。でもどうすっかなあ・・・
そこまでしてあの世界で虐げられ続けながら生きたいかって話だわ。俺の心は着実に自殺へ傾いてるからな・・・
一度壊された心は二度と元には戻らない。この先起こるどんな喜びも俺をトラウマを完全に消し去ることは出来ない。
そう考えると、もうここで死んでいいかなと思う。
だけどまあ殺されるのは嫌すぎるよな。もしここで敵が出てきたらマッハで逃げるわ。
どうしてもビビってしまって踏ん切りがつかねえからな。
だからまあ、この30分は何もせずにどうにかして生き残りてえなと思う。
そしたら、あの影と再会してペナルティで嫌でも死なないといけなくなる。
正直あの鋭利な腕刀で首をスパッといかれたら、割と苦痛なく逝くことが出来る気がするんだよな・・・
これは楽観的すぎるかね。もしかしたらあの影がドSで俺は散々甚振られて死ぬことになるかもしれんし。
でもどの道どうしようもない状況なんだから、前者に縋りたいわ・・・
「どうしたんですか?そんな険しい顔して考えこんで・・・」
「えっ?あっ、いや・・・」
いかんいかん自分の世界に入りこんでしまっていた。俺って本当にコミュ障すぎるな・・・
「あの・・・この後婚約者と会うと言っていましたが、お時間は大丈夫なんですかね。
俺のせいで遅刻とかなったら申し訳ないです。」
「それは全然大丈夫ですよ。むしろ早くに来すぎたぐらいなんで、時間を潰すのに困ってたところなんです。
貴方のおかげで助かりましたよ。」
「は、はあ・・・それは良かったです。」
さてと、どうやって話を切り上げるかな。もういっそこのまま逃亡するのもアリか?
などと考え始めているとそれは突然やってきた。
「キャーッ!!!!!!!!!!!!!!!」
町に悲鳴が響きわたる。その悲鳴は鳴り止まぬことなく、周囲の大勢に伝播していった。
「今の叫び声は何ですか!?何か事件が起こったのですか?ッ!!!何だアレは!?」
「・・・・・・・・・」
俺達2人が目にしたのは、人を次々と殺して回る影だった。
「サトーさんここは危険です!逃げましょう!」
「は、はい・・・」
パラレルワールドの俺は逃げようとする。しかし、
「囲まれてしまった・・・影は1体だけじゃなかったのか・・・」
影の軍団がその場を支配する。生き残りは囲まれた俺達2人だけとなってしまった・・・
「これは非常事態です・・・彼女は無事でしょうか・・・急いで向かわないと。
サトーさん、私が道を開きます。私は武道にも自信があるので安心してください。」
パラレルワールドの俺は俺に微笑んで、構えをとった。
「私はここで死ぬわけにはいかないんだ!!!」
パラレルワールドの俺は勇敢に影に立ち向かっていった。どうやら武道に自信があるというのは本当の事のようだった。
複数の相手に俺には出来ない洗練された動きを見せる。
「くっ・・・」
しかし、得体の知れない怪物達とただの人間、その力量差は明白である。
パラレルワールドの俺にダメージが蓄積されていき、どんどん動きが鈍くなっていく・・・そして
「うわああああ!!!!!!!!!!」
断末魔をあげて、あまりにもあっけなくもう一人の俺は息絶えた。
もう一人の俺は俺のことを最初ドッペルゲンガーだと言った。
ドッペルゲンガーに出会うと死ぬという噂があるが結果的にそうなってしまった。
「すまん、結局俺は何も出来なかった・・・俺は何をするべきなのか分からなかった・・・」
この場に居る俺以外の人間を全員殺し終えた影達は俺に襲い掛かることはなかった。
それどころか俺に一礼をして、次々とこの場を離れていく・・・
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