第7話「筆木シズカ-7」
「おい、なんなんだよ!!!お前は!!!」
俺はこの場を去ろうとする一つの影の肩を掴み腕を振り上げる。
さっきのパラレルワールドの俺とは比較にすらならない、素人丸出しの一撃。
もし反撃されたら俺は死ぬ、でももうそんなことどうでも良かった。
ドン!!!
俺の拳が触れた瞬間、影はバラバラに崩れていき倒れて朽ち果てた。
「おい・・・嘘だろ・・・なんだよこの力は・・・」
影達がこの場から全ていなくなり、残ったのは死体の山だけだった。
俺はそこから目を反らすように天を仰ぐ。
「影は絶対に俺を攻撃することなく、そして影は簡単に倒せる、か・・・」
それはつまり、あの時俺が勇気を出して戦っていれば、パラレルワールドの俺をはじめ救えた命がいくつもあったということだ。
「はあ・・・俺ってクソだな・・・」
あの影は間違いなく俺以外でこのデスゲームに参加した奴誰かを殺して出来たものだろう・・・
だが大勢の命を見殺しにしたこの俺にそいつを責める資格は無い・・・
俺は決断を後伸ばしにして中途半端な立ち位置を決め込もうとした卑怯者だ・・・
「やはり俺は、週刊少年漫画の主人公にはなれなかった・・・」
これが週刊少年漫画の主人公なら、たとえ誰かを殺さなければ自分が死ぬと分かっていても、
誰かが襲われているのを目にすれば、迷いなく助けに行くだろう。
俺は結局そんな器じゃなかった・・・、俺は誰にも望まれない存在か・・・
「もういいわ。死のう、今すぐ。」
人がいなくなったこの街をトボトボと歩く。
ビルに入った俺は、無人の受付を素通りする。
エレベーターは壊れていたので階段で上へ上っていく。屋上へと続く扉には鍵が施錠されていた。
ドン!!!
「おお・・・すっげえ打撃力・・・」
屋上へ強行突破した俺はフェンスをよじ登って越え、下を眺める。
「たっけえ・・・」
予想以上の高さにビビりつつも俺はふと思う。
「ちょっと待てよ・・・これだけ攻撃力が上がってるってことは、防御力も上がってるかもしれねえよな・・・
これ本当に死ねるのか?」
影は神様は超人的な能力を持っていると言っていた。
アニメとかでも超人と呼ばれた存在がビルから落ちただけで死ぬとか聞いたことねえし、その可能性は濃厚だろ。
「まあいいか、ここで死ねなかったら後で影に殺してもらうだけだ。・・・ん?」
俺は地上に動いている人間がいるのを見つけた。
その人物との距離は遠く蟻のような大きさにしか見えないにも関わらず、
俺が神様とやらになったことで視力も強化されているらしくそいつの顔がはっきりと見えた。
「あれ、天海さんじゃね。」
天海ケイゴさん、病弱で留年した俺のクラスメイト。その天海さんも俺と同じ状況に陥っていたのか・・・
「まずいな・・・天海さん、ボロボロじゃねえか・・・」
天海さんは現在進行形で地面に跪き立ち上がれないほどに負傷していた。
真っ新だった天海さんの制服がボロボロになってしまっている。
天海さんに詰め寄る敵の後ろ姿が見える。このままでは敵に殺されてしまうだろう・・・
「どうする・・・助けに行くか・・・そりゃ俺は天海さんには酷い目に遭ってほしくないけど・・・」
また迷う。その場しのぎで楽な方向へ選んでしまう、後悔してまた同じことを繰り返す。俺はゴミだ。
「はあ・・・」
ひとまずもう一度様子を確認したい。敵の顔をどうにかして見えねえかね・・・
なんて挙動不審に動いていると、
「あっ!!!」
うっかり足を踏み外してしまった。まぬけすぎる。本当に俺という無能は・・・
でもまあいいや。
俺が天海さんの所に駆け付けたところで、敵を倒して天海さんを助けられる保証なんて無い訳だしな。
俺ごときがヒーローになれるなんて考えるのはうぬぼれすぎだし傲慢すぎる。
それに俺がビルの屋上に行くなんて行動を取らなければ、そもそも天海さんがヤバい状況だって知ることすらなかった訳で、
そもそも俺に天海さんを助ける義務なんて無いだろ。
だからここで最悪死んでも問題は無いわ。
天海さんには悪いけど、俺は『周りを何も見ず一目散にビルから飛び降りて死んだ』ということにしておいてくれよ。
・・・まあ、なんてマイナスな思惑はあるんだが、一応プラスな思惑もあるぜ。
だってこれでもし俺の防御力が強化されてて無事だったら、普通に階段降りるより絶対早いじゃねえか。
・・・落ちている間の時間かゆっくりに感じられる。でも、そろそろ地面が近づいてきた。
この体勢だと頭から叩きつけられるな。
走馬灯が流れてくる。
大抵の思い出は世界や両親にいじめられたものばかりで、良かったと思えるものは片手で数えられるほどしかない。
本当にしょうもねえ・・・生きる理由が全くねえわ。そりゃ生きてて楽しくないわな。
ドン!!!
俺は勢い良く地面に叩きつけられた。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・痛ってえな。」
だが耐えられない痛みでは無かった。間違いなく俺の防御力は強化されている。
少し目の前がクラクラするが、俺はしっかりと立ち上がることが出来た。
「・・・よし行くか、天海さんを助けに。」
そう呟いて俺は駆け出した。ダメージ自体はそれなりにあるようで普段より速度は落ちてしまう。
だがそれでも俺は向かう。流石に天海さんを助けにいく。
防御力の強化が自信になってくれた訳だし、そろそろ自分の最低さに耐えられなくなってきた。
◇
「天海さん、大丈夫ですか!?いや、大丈夫ではないか・・・」
俺は天海さんの元に到着した。天海さんは全身から血を流し満身創痍となっていた。
「君は・・・、俺と同じクラスの。確か筆木君・・・だったよな?」
「天海さん、俺の名前知ってたんですね。」
「君のほうこそ・・・こんなロクに登校していない俺の名前を・・・」
「なんだ君は!!!君も神様とやらになってこの戦いに参加しているのか!?」
天海さんと戦っていた敵が声を張り上げる。俺はその顔を見て驚愕した。
「お前は、神谷ユウキ!?」
神谷ユウキ・・・週刊少年ジャンクで今最も勢いのある漫画である『ダークブレイカー』の主人公。
俺がアンチをしている主人公。
その敵はその神谷ユウキとそっくりだった。
動画サイトでよくある二次元の絵柄をAIで三次元にしてみた結果ってのがそのまんま目の前に立っている。
華やかなイケメンフェイスに特徴的な左右赤青のオッドアイ、派手な髪色まで原作通りだ。
違うところといえば、普段着ている学生服ではなく軍服のようなものに身を包んでいることくらいだ。
「どうして僕の名前を知っているんだ???」
「は!?お前マジで言ってんの?コスプレだろ?」
「コスプレ?なんだそれは?」
えええ・・・どういうことだってばよ・・・
「筆木君も俺と同じことを思ったんだな・・・」
天海さんが壁にもたれかかりながら立ち上がる。
「天海さん!!!起き上がったりなんかして大丈夫なんですか!?」
「大丈夫だ・・・今までの病弱な俺ならこんな傷を受けてしまったらまず生き残れなかったが、
超人的な肉体を手に入れたというのは本当の話らしい・・・俺は生まれ変わったのだ・・・」
「無理はしないでくださいよ・・・」
「ああ・・・それで、筆木君・・・俺の考えが正しければ、
俺たちの目の前に立っているこの週刊少年ジャンク連載漫画主人公神谷ユウキそっくりの人間は
その神谷ユウキ本人である可能性が高い・・・」
「は!?何を言ってるんですか?」
本当に何を言ってるんだこの人は?
すっげえ真剣な顔してボケみたいなこと言ってるぞ。この緊迫した状況で。
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