第5話「筆木シズカ-5」
「有効な武器・・・それは貴方の肉体そのものです。
貴方はもう人間ではなく神様になったのですから、超常的な能力を獲得しております。
その能力を以てすれば、軽く腕を振っただけで貴方の手は刃と化し、一般人など一刀両断です。」
「いや、それは嘘だろ。全然今までと変わったって感じがしねえんだけど。
そんな力あるならこの部屋のドアとか余裕で破壊出来るはずだろ。」
「この部屋は神様が日常生活を問題なく送る為に頑丈になっていますからね。
戦いになればすぐに理解出来ますよ。」
「信じられんわ。」
「さらに、貴方が殺害した人間は私のような影に変貌します。
この影もまた高い戦闘能力で一般人を殺し回り、その殺害数は貴方のものとしてカウントされます。」
「なるほど・・・人を殺せば、その死体を殺戮マシーンに出来るということか。やられた側からすれば最悪だな。
まあお前の話が全部本当だとするなら、これで200万人はいけるかもしれねえな・・・」
「私の話は全て真実ですよ。」
ふざけた説明は淡々と進んでいく、
こんな漫画みたいなことが現実に起こってしまうなんてやはり信じたくはない。
意味が分からな過ぎてイライラしてきた。
世界の嫌がらせとはこのレベルにまで達するのか。クソが・・・どれだけ俺を不愉快にしたいんだ・・・!
「戦いは壮絶なものとなりますが、世界の為にも必ず生き残り、そして何かしらの戦果を挙げてください。
戦いに参加する意思を見せなかった神様は、残念ながら例え生き残ったとしても帰還後にペナルティとして死んでもらいます。」
「絶対に人を殺せってことか・・・」
「はい。それに人を殺すことはこの戦いを制する上でより有利に立ち回ることができます。
殺した人間は稀に影では無く刀や銃といった神様という存在に有効なダメージを与える武器に変化しますからね。
貴方は格闘経験のほとんど無い素人ですが、
これを手にすることによって武道家の神様にも太刀打ちすることが出来るようになりますからね。」
「おお・・・ランダム要素の存在でよりデスゲームっぽくなったな・・・」
「それでは、戦いの始まりです。いってらっしゃいませ。30分後に笑顔で再会出来ることを祈っております。」
「え?始まるの?全然実感が湧かねえんだけど。うわ、まぶしっ!!!」
目の前が突然強い光に包まれた。次の瞬間俺はどこかの街の中にいた。
「なんじゃこりゃ、瞬間移動か?」
周りを見渡すと外国人ばかりだな、町の看板やポスターも全部英語だし、
ここは日本じゃないのかもしれねえ・・・
相変わらずスマホの電波は圏外だ。
「おーい、テレビ局さんよ。俺とかはっきり言ってクソつまんねえ陰キャだぞ。
なんの撮り高も期待出来ねえから、この企画は終わらせたほうがいいと思うんだけど。」
俺はこの期に及んでドッキリ説に縋りつく。
大声出したせいで滅茶苦茶見られてるわ。まあ慣れてることなんだけど。
俺はふと落ちてた新聞を拾い上げ目を通す。
「は?え?どうなってんの!?マジでバグっとるだろ!?」
俺は2つのことに驚いた。
まず1つ目は英語で書かれている新聞が完璧に読めることだ。
俺の英語力は定期テストで毎回赤点になってしまうほどだったのにも関わらず、
なぜ急に覚醒してしまったのか・・・
2つ目は記事の内容だ。
「第三次世界大戦から今日で100周年だと!?」
この新聞がドラマの小道具でないというのなら、どうやらここは本当にパラレルワールドらしい。
記事によれば、この世界は100年前の戦争で世界中で核兵器が行き交い人類の80%が死滅してしまい、
多くの国家が壊滅し今も復興が追い付いていない状況とのことだ。
いやでも、ここは普通に綺麗な街だけどな・・・やっぱ記事に書いてあるのはデタラメか?
でもアレかもしれねえな、先に復興出来た所に上級国民が住み着いてるのがこの街で、他は世紀末なのかもしれねえ。
う~ん・・・分からん。
でもよく見ると記事の日付も2356年4月17日だしやはりこの新聞はジョークグッズなのかね・・・
「Oh My God!Are You Doppelganger?」
考え込んでいると、俺は目の前を通りかかろうとした男に英語で問いかけられた。
そして俺はその男を見て驚愕した。
「なんてことだ・・・!貴方はドッペルゲンガーですか?」
俺にはさっきの男の言葉が日本語に聞こえた。
ドッペルゲンガー・・・、もうひとりの自分・・・まるで鏡を見ているようだった。
自分そっくりの男が目の前にいたのだ。
「ドッペルゲンガーなんて・・・そんな訳ないじゃないですか。でも確かに俺達似てますね。俺も驚きました。」
俺の返答は英語となって口から出る。妙な感覚だ・・・英語で何と言うべきかが分かってしまう。
発音もなんかそれっぽい。
「申し訳ございません、これは失礼いたしました。驚きのあまりつい我を忘れてしまいまして・・・
貴方もアジア系ですよね。」
「ええ・・まあそうです。俺には日本の血が流れてます。」
「そうなんですね!!!私も先祖の故郷が日本でして、凄く貴方に仲間意識が湧きました。
日本という国は先の大戦で無くなってしまいましたが、同族との繋がりは大切にしたいですよね。」
「ああ・・・そうなんですね。・・・はい。」
日本滅亡したのか・・・これは悲しい・・・
じゃあこの世界には今の覇権アニメとかも無いのか。日本野球機構も当然潰れたか。
つまんねえ世界だな。やっぱ戦争ってクソだわ・・・
「これも何かの縁ですし、友達になりませんか?私はシズカ・フデキと申します。貴方は・・・」
同じ名前か・・・これはもうパラレルワールドの自分ということで間違いないか。
てか、友達になろうとか滅茶苦茶グイグイくるなコイツ。俺の顔で俺が絶対に言わなさそうなことをよく言うわ。
「えーっと・・・俺はシズ、いや違う。」
「シズ?」
やべー、ここで同じ名前を言ってしまったら怪しまれてしまうわ。偽名を考えないと・・・
「・・・シズク、シズク・サトーだ。よろしく。」
苗字は無難に佐藤にしておく。日本の苗字1位。
「シズク・サトーさんですね。よろしくお願いいたします。私たちシズカとシズクで名前まで似てますね。」
「はは、そうですね・・・まあでも一文字違ってくるだけでも大分変ってくるじゃないですか。
シズカは物音の無い状況という意味でシズクは水の滴りという意味で全然違ってきますし。」
「それは日本語でという意味ですよね・・・シズクとはそういう意味だったんですか・・・
もしかして貴方は日本語にお詳しいのですか?」
え?そう聞いてくるってことはもしかしてコイツ日本語知らねえのか。さっきから英語しか話してねえし・・・
世界大戦が30年前ってことは日本もそれと同時期に滅びたのかね。
それでコイツは外国生まれ、外国育ちって訳か。すげえなコイツ。こんな俺カッコよすぎだろ。
「俺は学校で言語学を学んでまして、失われつつある文化を守りたいと思っています。」
今すっげえ嘘付いたわ。言語学だと?こないだの定期テストで現代文9点、古文7点だった俺が笑わせるなって話だろ。
「それは凄いです!!!じゃあその胸に書かれている文字も日本語だったりするんですか?
なんて書かれているんですかね。貴方の苗字であるサトーとかですか?」
パラレルワールドの俺は俺の制服の学ランの胸バッジを指差す。そこには筆木と書かれている。まずい・・・
「え、ええ、そうですよ!!!大正解です!!!フデキさんは勘がいいですね!」
俺はそう言いながら肩を横に向けさせるように体を捻じる。なるべく胸バッジに視線を向けさせないようにしなくては・・・
書かれている文字を覚えられて、後で調べられたら一発で嘘がバレる。
「ちょっとした日本語とか教えてくださいよ。例えば朝の挨拶なんかは日本語でなんというんですか?」
パラレルワールドの俺は目を輝かせる。
やめろ、俺みたいな嘘付きのクズをそんな目で見るんじゃねえ!
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