第52話「笹岡チカコ-11」



そして私の人生を大きく変えることとなる運命の一日がやってきた。

見知らぬ土地に放り出された私はショックのあまりその場に座り込んだ。


「What's wrong?Are you feeling sick?You look pale.」


すると私と同い年くらいの少女が私を心配して話しかけてきた。

すごい・・・英語で話しかけられたのに、何と言われたかが分かる。

英語でどう返すべきかも頭の中に思い浮かべることが出来る。

常識では考えられないことが今起こっているのだ。


「Excuse me,I need to get up.Can you lend me your shoulder?」


「Yes,sir」


私が立ち上がるために肩を貸してほしいと言うと、少女は快く承諾してくれた。

私は少女の肩に手をやり立ち上がる。


「I'm sorry.」


私はそう呟いて即座に彼女の首を絞めた。いや、絞めたというよりかは握りつぶしたと言ったほうが正しいか。

一瞬の出来事に彼女は自分が死んでしまったことも認識できなかってあろう。

なんという力だ。私は化け物になってしまった。

返り血で真っ赤になってしまった私を見て、人々は叫び声をあげて逃げ惑う。

私はそれを追うことはなく、またその場に座り込んで静止した。


「人を殺してしまった・・・!」


私は血に染まった自分の手を見て嘔吐した。

体の震えも止まらず、私はしばらくその場から動くことが出来なかった。

しかし、ずっとそうはしていられない。このゲームには30分の時間制限がある。

もっと成果を上げなければ私は殺されてしまう。私はそれだけは避けたかった。


「今の私をいくらでも罵倒するがいい・・・ただそれでも、私は死にたくないんだ・・・」


私はそう呟いて立ち上がる。

私の周辺からは大半の人間が逃げ去っていたが、

このパニックで怪我をして逃げ遅れた人間や、親と離れた子供がまだその場に居た。

私はその者達を一人一人殺していった。

劣悪な行為に手を染める自分を受け入れることは出来ず、スムーズにはいかないが、心に蓋をして手を動かし続けた。


「Someone help me!」


一人の幼い少年が逃げるのを私は追う。一瞬で追いついて少年を転ばせた。

絶体絶命のピンチに泣きわめく少年を顔を見て私は一瞬動きを止めた。しかし、見逃すわけにはいかない。

再び動き出して少年の首を掴んだその時だった。


「笹岡!!!貴方はいったい何をしているの!!!」


「!?お前も巻き込まれていたのか!!!」


現れたのは堅田だった。


「その子から今すぐ手を離しなさい!!!」


堅田の声に動揺し、私は思わず言われた通りに手を離してしまった。

少年は起き上がって堅田の方へ逃げていった。


「う・・・うう・・・怖いよ・・・お姉さん・・・」


「よしよし、怖かったわね。そんな中でよく頑張ったわ。貴方は偉い子よ。

ここは危ないから私の後ろで隠れてなさい。貴方のことは私が助けるから。」


涙を流す少年を堅田は優しく抱きしめ頭を撫でる。そして少年は堅田に言われた通りに後ろの物陰で息を潜めた。


「ねえ、笹岡!!!ここに倒れている人達、これ全部貴方がやったの!!!」


堅田は私に叫ぶ。


「そんなに怖い顔するなよ。仕方ないだろう。やらなければここで死ぬのは私なんだ。」


「貴方、あの影に言われたからって思考停止で逆らうこともなく人を殺してしまったの!?

何か他に方法を考えようとしなかったの!?本当に貴方は最低ね!!!

貴方は昔っからどれだけ私を失望させれば気が済むの!!!」


堅田は一線を越えてしまった私を罵倒する。そんな堅田に私も怒りを覚えた。


「じゃあどうすればいいんだよ!!!お前だってここの人間を殺さないと死ぬんだぞ!?

何か良い方法を思いついてるっていうのかよ!?それともお前はここで死んでも良いと言うつもりか!?」


「死んで良いだなんてそんなことは言ってないじゃない!!!私だって死ぬのは嫌よ!!!

でもだからといって他人を殺すなんて絶対間違っているわ!!!

人を殺さずに済む方法はまだ思いつかないけれど・・・」


「はあああああ!?思いついてないのかよ!?やっぱりお前はポンコツだな!!!

それでいて私に偉そうに説教だなんてお前の良い子ちゃんっぷりには反吐が出る!!!

お前確か良い子ちゃん過ぎて補欠なのにバスケ部のキャプテンになってたよなあ!?」


「こんな時でも貴方は相変わらず無駄口が多いわね・・・全く・・・呆れたものだわ。

確かに私では思いつかないけれど、この戦いとやらに巻き込まれたのは私達以外にも何人もいるのよ。

彼らと急いで合流して打開策を考えればもしかすれば・・・」


「お前は本当に馬鹿だな!!!私も馬鹿だがお前はそれ以下だ!!!

こんなにも脳みそがお花畑だったとは・・・呆れるのはどっちだという話だ!!!

漫画じゃないんだからそんな都合良く物事が進む訳ないだろ!!!

あの影に従わなかったら結局何も出来ずに死ぬだけだ!!!

もういい!!!お前と話しても埒が明かない!!!私は何を言われようが自分が生き残る為に人を殺す!!!」


「自分さえ良ければいいと貴方は言うのね!!!そんなことは許さないわ!!!」


もはや私達ぶつかり合うのは避けられなかった。私は堅田の人形の様な奇麗な顔めがけて一発を入れる。

堅田は衝撃で仰け反るが倒れはせず、瞬時に態勢を立て直した。

鼻の骨が折れ血を流していたもののそれに動揺することはなく、

鋭い目つきを私に向けてお返しだと言わんばかりに私の顔面に一発、二発を立て続けに攻撃を加えた。

やばい・・・完全に私は堅田に押されている。

リーチの長さくらいしか私が勝っているといえるところが無い。

俊敏な動きと打撃の力強さといい、バスケ部で補欠ながらも腐らずに努力してきたことが分かる。

そこは素直にすごいと思うよ、堅田。

とはいえ私もただ黙ってやられる訳にはいかない。無心で手を動かし暴れる。

堅田も決して格闘のプロというわけではないので、私の無策な攻撃にも多少は食らってる様子であった。

私が堅田に1食らわせたら5にして返されるといった感じだ。

勝利の見えない苦しい戦いは続き、とうとう軟弱な私は折れてしまった。

腹に強い一発を受け私はその場に倒れこむ。

私が苦悶の表情を浮かべながらも膝をつき顔を上げると、堅田も座り込み私に顔を近づける。


「堅田・・・私を殺すのか・・・!」


「そんなことはしないわ。私は貴方のような最低な人間じゃないから。安心した?」


堅田ははっきりと言い切った。私に視線を向ける冷たいその目が私の胸に深く刺さった。


「最低な人間、か・・・確かにそれは否定しない。お前の言う通り・・・私はゴミクズだ・・・」


私はその先に言葉を続けようとしたが詰まってしまった。


「笹岡・・・、貴方泣いているの!?」


目頭が熱くなってポロポロと涙が出てきて体が震える。


「ふざけないで!!!泣いたからって許されると思ってるの!?

そんなので貴方が殺された人達やその家族が納得出来るわけないじゃない!!!

いい加減にしなさい!!!この卑怯者!!!」


堅田は叱責を続ける。それに私はイラつきを覚えた。


「別に許されようなんて思ってない!!!

私に自分の考えを一方的を押し付けて優位になった気になって偉そうに罵倒を垂れ込んでくるのはやめろよ!!!

私だって私なりに考えてるんだよ!!!少しはそれを聞いてくれたっていいだろ!!!」


私は泣き叫びながらヤケクソで堅田に頭突きを食らわせる。今度は堅田が倒れこんだ。


「うぅ・・・」


堅田は不意の衝撃で大きなダメージを負ったようだ。

私は残った力を振り絞って立ち上がる。これで形勢は逆転だ。

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