第53話「笹岡チカコ-12」
「お前は私の考えてることを何も知らないだろ!!!」
ボコッ
私は倒れた堅田に馬乗りになって泣き叫びながら殴り掛かる。
「あ・・・貴方みたいな人間の・・・考えてることなんて知りたくもないわ・・・」
堅田はボロボロになりながらも私に言い返す。
「クッソー!!!そうやってお前はいつも私を否定し続けるよな!!!
こうなったのもあの時からだ!!!あの時、お前は友達だった私のことを一方的に見切ったよな!!!
小学校の球技大会のバスケで初戦で負けた時のことだよ!!!
ヘラヘラしていた私にお前は最低だと絶交を突き付けた!!!
あの時お前は私のことをふざけた女だと断定してたんだろうけど、私は真剣に自分の信念を持ってヘラヘラしていたんだ!!!」
「あ・・・貴方は何を言っているの・・・?意味が分からない・・・ウグッ!」
堅田の口を開かせないよう私は更に一撃を加えた。
「この世界は理不尽なんだ!!!私は6歳の頃にそれを思い知った!!!
私の兄が犯罪者になったんだ!!!しかも大量殺人鬼だ!!!
兄はまず自分の職場の人間を殺し、自分の両親も殺し、その後も逃亡を続けながら多くの人間を殺して、
最後は警官に撃たれて死んだ!!!
残された私は親戚に引き取られて、その家の人間にゴミのような扱いを受けている!!!
その家のオスガキ2匹のせいで私はもう処女じゃないんだ!!!う・・・うう・・・」
私の目からは滝のように涙がこぼれ落ちていく。
「そんな・・・、それは本当・・・?ウガッ!」
堅田は私の独白に目を見開き、驚きを隠せないようだった。私はさらに一発を入れた。
「堅田!!!お前は不幸のどん底に突き落とされた私にとって唯一の希望だった!!!
だから私は大好きなお前には泣いてほしくなかったんだ!!!
この世界は理不尽だから努力が報われないなんて当たり前だ!!!
だからその事に絶望して悲しむよりも、
そんな事はまともに受け止めずにすぐに忘れてしまって笑えばいいと私は思ったんだ!!!
なのにお前は私のその考えを聞こうともせずに頭ごなしに否定した!!!否定し続けた!!!
私はそんなお前が許せない!!!」
長年溜め込んでいた感情を吐き出した私はその勢いで堅田をタコ殴りにする。
「ハァ・・・ハァ・・・」
気が付いたときには堅田は気を失ってしまっていた。
堅田の顔は血を流し酷く腫れあがり従来の美しい顔の面影は無かった。
私はそれを見て怒りの感情が収まって、自分の顔を両手で覆う。
「堅田・・・ごめん・・・決してこんな事をしたかった訳じゃなかったんだ・・・
なんでこんなことになったんだろう・・・」
人を殺さなかった堅田に待っている結末は死しかない。このままだと私達は永遠の別れとなる。
仲が良かった頃の記憶が私の脳裏を駆け巡る。
「ユキエ・・・あの時バスケで負けて悔しがってるユキエの前でヘラヘラしたことを言って悪かった・・・
さっきは私の思想を叫んだけれど、今思えばお前が嫌ならそれを押し付ける必要はなかった・・・
いつまでも謝らずに意地悪ばかり言ってたのも謝るよ・・・
お前との間に出来た距離を受け入れたくなくて意固地になってたんだ・・・
本当は自分勝手だけど、私はお前に許されたかった!!!お前にまたチカちゃんと呼んでもらいたかった!!!
うぅ・・・うわああああああああ!!!」
私は幼い子供のようにただ叫んだ。
しかし、制限時間があるのでいつまでもこんなことはしていられない。私は唇を噛みしめて、涙を拭った。
倒れている堅田に目をやる。
「どうしよう・・・」
私がこの場を立ち去れば、倒れている堅田は敵に殺されてしまう。
運良くこの場に誰も来なかったとしても結局は影にペナルティとして殺されてしまう。
「私がユキエを殺すべきなのか・・・」
私はゴクリと唾を飲み込んだ。そして恐る恐る堅田の首を両手で掴む。
「ユキエ・・・今から私はお前を殺す。
このデスゲームに乗って多くの人々を殺し、その罪を背負って生きていく覚悟を示すために。
私のことはいくらでも恨んでくれて構わない。」
そして私は力を入れる。しかし、その時だった。
バシッ
「ッ!?」
気を失っていたはずの堅田が私の手首を掴んだ。私は思わず力を緩める。
「ゴホッ!!!コホッ!!!」
堅田は目を開いて咳をした。
「落ち着いて、チカちゃん。」
そしてもう二度と聞くことのないと思っていた私の名前を呼んだ。
「堅田・・・?」
「いや~とんでもないことになっちゃったわね~
私ももう喜寿だし、今まで色々な事件の当事者となってきた訳だから、
並大抵のことでは驚かないつもりだったんだけど、これには度肝を抜かれちゃったわ~」
「!?」
私は目を丸くした。
意識を取り戻した堅田は従来の堅田とは別人に思えたからだ。明らかにおかしい。
堅田が今までこんなにテンションが高い話し方をしたことは無いはずだし、言ってることも変だ。
「一体どうしたんだ?何を言ってるんだ堅田?」
「そりゃあチカちゃん驚くわよね~実は今の私は堅田ユキエちゃんじゃないの。」
「それはどういう意味だ・・・?」
「私は堅田ユキエちゃんの体を借りているだけの別人なのよ。」
「は、はあ・・・」
「こんなこと突然言われたってチカちゃんからしてみたら意味不明よね。
もちろんちゃんと説明してあげるわよ。でもその前にこの大勢は苦しいから一旦起き上がらせてくれない?」
「分かりました・・・」
堅田の胸にまたがっていた私は立ち上がり、堅田の体から離れた。
「いててて・・・チカちゃんも結構派手にやってくれたわね。」
堅田の体を借りたという人物は顔を歪めながら立ち上がる。
「すみません・・・」
「別に責めてるわけじゃないわよ~あんな状況じゃ仕方の無かったことでしょ。
だからそんなに気に病まないで、チカちゃんって真面目ねえ。」
「いや・・・真面目なんてことはないと思います・・・私は不真面目なクソ女ですよ・・・」
「クソ女ってことはないわよ~チカちゃんは優しすぎるぐらいだと思うわ。
得体の知れない私の言うことを素直に聞いて立ち上がらせてくれたわけだしね。
私が不意に攻撃を始めたら危ないんじゃない?」
堅田の体を借りたという人物は不敵に笑う。私はまずいなと思った。
「しまった・・・!」
「アハハハ!!!大丈夫よ!!!そんなことはしないから。今の状況的に私達は助け合わないと。」
しかし相手には私に対する敵意は無いようだった。
「貴方は一体何者なんですか?私の味方ということでいいんですか?」
私は食い気味に問いかける。
「私の正体はお化けなの。もちろんチカちゃんの味方だから安心して。」
返ってきた答えは予想の斜め上をいくものだった。
「はい!?!?!?!?」
「アハハハ!!!そりゃそうなるわね。もちろん詳しく話すつもりだけどちょっと待っててね。」
驚きのあまり固まる私をよそめに堅田の体を借りたという人物は隠れている少年の元へ向かう。
「もう大丈夫よ。あのお姉さんはもうボクくんに攻撃しないって約束してくれたから。」
「ほんと・・・?」
「ええ、本当よ。よく頑張ったわね。もう誰もボクくんのことは襲って来ないわ。」
「うわあああああん!!!怖かったよおお!!!!」
「よしよし。」
堅田の体を借りた人物は少年を優しく抱きしめ微笑む。そして、
バタン
「ごめんなさいね。ボクくんは何も悪くないわ。ただ、私は2度も死にたくなかったの。」
堅田の体を借りた人物は少年の首を刎ねて殺害した。
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