第57話「筆木シズカ-22」


「アハハ!!!尾形君はこの状況を楽しんでるんだね。それで良いと思うよ。

正直この先どう転んでも私達の結末は地獄に行きつく訳だし、ならせめてその道中ははしゃぎ倒さないと損だよ。

堅田さんもカッカしてないでそうすれば?

自分だけがデスゲームに巻き込まれて不幸になるなんて腹立たしい気持ちはよく分かるから、

せっかくもらった神様の力でバカ面さらして生きて他の間抜けどもをそれ以上の絶望に叩き落せばいいんだよ!」


「明智さん、真面目そうな貴方もそういう人間だったのね。」


「まあね。おっとそんな目で見ないでよ。怖い怖い。いや~私ったら堅田さんを敵に回しちゃったよ。

でもまあ、堅田さんには何も出来ないし問題は何一つ無いんだけどね。アハハ!!!」


「うう・・・悔しいわ・・・こんな状況で私は生かさず殺されずに過ごさないといけないだなんて・・・

嫌よ!!!こんな状況!!!」


堅田さんは唇を噛みしめ三角座りになり、涙を流して顔を下に向ける。


「堅田さん・・・俺はなんて声をかければいいのか分からないよ・・・

でも、俺はまだ希望はあると思ってる。こんな狂った状況がこれから永遠にまかり通るだなんて絶対に有り得ないだろ。」


そんな堅田さんを鈴木ヒトナリがしゃがみ込んで慰める。

『狂った状況が永遠にまかり通るだなんて絶対に有り得ない』、・・・か。

有り得た結果が俺達の生きている今の世界なんじゃないかと俺は一瞬言おうとしたが、そこをグッと飲み込んだ。

鈴木ヒトナリの優しさに横やりをいれるなど野暮以外の何物でもない。


「なんかよく分からないけど、

レオと内浦さんは怪異と戦ってきたプロでこういう不可解な状況を何度も乗り越えてきたらしいからな。

もしかすれば俺達もレオと内浦さんに力を合わせれば、助かる道は開けるかもしれない。

だから堅田さん、悲観的になるあまり心を閉ざしてしまうことだけはやめてほしい。」


「ジンセー君は優しいわね・・・、と貴方が人殺しでなけでば素直に言えたのでしょうけどね。

私に表向きは寄り添うような言葉を放つだけ放って気持ち良くなってるんじゃないわよ。この偽善者。」


「・・・ッ!」


鈴木ヒトナリはその言葉に苦しい表情を浮かべる。

そういえば生き残っているということは鈴木ヒトナリも人を殺したんだよな。

でも見てる限りだと俺には鈴木ヒトナリが悪人だとは到底思えんわ。

こうやって突き放されるのは可哀相だ。


「堅田さん、いい加減ウザいわ。自分は気を失ってただけでクリーンだからって、言いたい放題言いすぎなんじゃねえか?」


「何よ、筆木君。私に文句があるっていうの?」


俺は前に出た。今日だけでもう100年分くらいは人前で話してるな。


「文句ありまくりだわ。お前の中ではここにいる皆は軽蔑に値する大量殺人鬼だっていうのかよ。」


「ええそうよ!!!分かりきったことを聞かないでちょうだい。」


「そういう決めつけだけで判断するのは良くねえわ。まず俺は現状大量殺人鬼じゃねえからな。俺が殺したのは1人だけだ。

戦果をあげなければペナルティで殺されるっていう話だったが、その戦果っていうのは1人殺すだけで良いらしい。

俺は正直死ぬ気だったから拍子抜けしたわ。」


「筆木!それって本当なのか!?」


鈴木ヒトナリは驚いている。


「筆木君の言っていることは本当だよ。僕もあの影に色々と詳しいルールを聞いたからね。

生き残りに必要なノルマはたったの一人殺害するだけでいい。これは今後も変わることはない。

だから、理論上はこの戦いの犠牲者を33人×6回分で198人に抑えることが出来るんだ。

この戦いでは攻撃側が一般人200万人を殺害して相手の世界を滅亡させることを求められているけど、

実はそれに失敗しても課されるペナルティなんてないから、本来はそう務めるべきだ。

もっとも・・・神貨という世界改変を可能とする報酬の存在がそれを不可能にしているんだけど。」


佐谷君が補足説明を加え、言い終えると明智と在原の方向を見た。


「ごめんね~!!!1人でいいのにたくさん殺しちゃって!!!

だって報酬はたんまり欲しいじゃん!!!」


明智は気にも留めず、両手を合わせて舌をペロリと出した。


「別に明智さんと在原君を責めてるつもりじゃないよ、僕も人をたくさん殺してしまったからね。

これはさっき言った事実をゲームが始まる前に聞いておかなかったという僕のミスだ。

あの時の僕は世界改変という概念の魅力に憑りつかれてしまって、視野が狭くなってしまっていたんだ。

だけど、こうなってしまったからには彼らの犠牲を無駄にしないためにも世界改変に力を入れるつもりさ。

これからも人を殺し続ける覚悟は出来てる。明智さんと在原君と同じ道を進むつもりだよ。」


「マジかよwお前は良い子ちゃんだと思ってたわwそこまでして世界改変でやりたいことっつーのが気になるなw」


「だよね~。そもそも私からしたら佐谷君が生き残ってることが予想外だったよ。久しぶりに驚かされたね。」


こりゃ佐谷君も明智とか在原寄りの人間なのか・・・?

佐谷君のことは爽やかで滅茶苦茶良い奴だと思ってたけど、大概ヤバそうだな。

三方同様呼び捨てに切り替えだな・・・


「1人でいいって何よ!!!1人の時点でダメに決まってるじゃない!!!

筆木君は一体何が言いたいの!?一人しか殺してないから自分は悪人ではないとほざくつもりなの!?

他人の権利を軽んじた浅ましい考え方ね・・・なんて気持ち悪い・・・!」


「はあああああああああああ!?そんなこと一言も言ってねえわ!!!

さっきから思ってたけど、お前って本当に人の話を聞く気が無いよな!?

決めつけばっかで視野が狭すぎなんだよ。

いい加減にしろよ!!!どつきまわすぞこの野郎!!!いや、別にやるつもりはねえけどよ!!!」


気持ち悪いだなんて言われてしまったので俺は思わず言葉を荒げてしまった。

しかし今はブチ切れている場合ではない、俺には言うべきことがある。俺は気を取り直して言葉を続ける。


「確かに俺は間違っても善人なんかではない。それは否定しない。けど俺は今言いたいのはそれじゃねえんだよ。

俺が言いたいのは、そんな大勢殺さなくても1人のみを殺して今この場にいるやつが俺以外にもいるかもしれないってことだ。

そうなると、話がまた変わってくる訳だ。」


「何が変わるっていうの?人殺しは人殺しじゃない。その罪は決して許されざるものよ。」


「お前、正当防衛の場合にも同じ台詞を吐けるってのかよ。」


「ッ!!!」


堅田さんは俺の一言にハッとした。ようやく理解してくれたようだ。


「こっちに敵意が無くとも相手が殺意を持って襲い掛かってきたら、生き残ることに必死になって、

結果、相手と揉み合いの末に相手を死に追いやってしまったケースも考えられるだろ。

このゲームには向こうの平行世界にも超人的な能力を持った神様がいる訳だし、加減なんて考える余裕なんてないだろ。」


「そうね・・・確かにその意見に関しては貴方の言う通りだわ・・・

この場に生き残っているという判断材料だけで全員を人殺しだと一括りにして責めるのは間違いだったわ・・・

私が浅はかだったわね・・・」


「分かってくれりゃ良いんだよ。俺はともかくとして鈴木ヒトナリは普段の人柄考えても正当防衛パターンだろ。

だから、そんな冷たい態度を取ってやるなよ。」


「・・・そうね。」


堅田さんが同意してこれで一件落着だと思ったその時だった。


「あの、筆木・・・」


「ん?どうした?鈴木ヒトナリ?」


鈴木ヒトナリはすっげえバツの悪そうな顔を浮かべている。


「いや・・・筆木が俺のことを信頼して話してくれたのを裏切る形になって申し訳ないんだが、

俺は普通に大量虐殺に手を染めたんだ・・・俺は堅田さんの言う許されざる人間だよ・・・」


「マジか!?」

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