第58話「筆木シズカ-23」
鈴木ヒトナリの発言に俺は目を丸くする。
長広舌をふるってるうちに俺の中ではすっかり鈴木ヒトナリは正当防衛だったに違いないと思い込んでいた。
だからこの事実は意外で驚いた。
「そ、そうか。まあ俺はこの事実だけで鈴木ヒトナリを非難する気はないわ。
この状況じゃやむを得ないだろう。堅田さんはそうは思ってないみたいだけど、まあ無視しとけよ。
ゲームに乗った俺たちとそうじゃない堅田さんは分かりあえない存在だわ。」
堅田さんがまたブチ切れそうな様子を見せるので、俺は鈴木ヒトナリの肩を持つ。
「何がやむを得ないよ!!!適当なこと言ってるんじゃないわよ!!!
筆木!!!貴方は最低よ!!!同じ台詞を死んでしまった人達に言えるの!?」
「ついに呼び捨てかよこのクソアマが!!!こっちはムカつきながらも気を遣ってさん付けしてたのによお!!!
そっちがその気ならこっちもそうしてやるよ!!!堅田!!!
死んでしまった人達に同じ台詞を吐けるのかってか?吐けるに決まってるだろ馬鹿野郎!!!
俺達と殺された奴らの立場が逆だったら、絶対俺達が殺されてた訳だからな。
良いか?物が知らないお前にすごーく大切なことを教えてやるけどな、悪いのは俺達じゃない!!!
悪いのはこの状況を仕組んだ黒幕なんだよ!!!
それなのにどうしてお前は俺に最低だなんて言葉を投げてくるんだよ!!!
ったく、オネエに体を乗っ取られて滅茶苦茶されたのは同情するけどさ、
その八つ当たりで俺に当たってくるんじゃねえよ!!!」
バシン
「なんて貴方は醜いの!?いい加減にしなさい!!!」
堅田は手を伸ばして俺の頬に平手を食らわせた。一瞬、時が止まったのを感じた。
「な、なんだよ・・・お前手を出しやがったなあああああああああああ!!!」
俺の目から滝のように涙が溢れ出る。
「うわあああああああああああああ!!!ふざけるなああああああああああああああ!!!
そうやって人を痛みで支配出来ると思ってるのかよ!!!!ああ、その通りだよ!!!
俺は幼い頃父親に怒られる時怒鳴られながらげんこつ食らっててさあ!!!!
それは幼い頃だけだったんだけど、それによって俺は絶対服従を植え付けられてしまったんだ!!!
だから俺はそんな人間が大っ嫌いなんだよおおおおおおおおお!!!
お前なんて嫌いだああああああああああああああああ!!!
クッソオオオオオオオオ!!!大体なんなんだよ!!!!オネエに乗っ取られたので私は殺してませんって!!!
この状況でなんでそんな特殊な人間を配置してくるんだ!!!!そもそも今日は嫌がらせ多すぎるんだよ!!!!
なんでいきなりこんなにやってくるんだよ!!!もう俺は滅茶苦茶だああああああああああああああ!!!
ぎゅああああああああああああああああ!!!ぐぎーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
俺は泣き叫びながら、地面でのたうち回る。
「ギャハハハハハハハハハハハハ!!!筆木マジかよwww。女にビンタされて大泣きとかwww
マジでネタすぎるわwww、筆木って逸材だったんだなwww知らなかったわwwww」
「アハハw私は前から知ってたけどね~、筆木君が滅茶苦茶面白いってことはw
やっと在原君もその魅力に気づいてくれたねw私の中では並里君とトップを争ってるよw」
在原と明智がゲラゲラと俺を笑っているらしい声が聞こえてくるが、それを感情を向ける余裕なんぞ無かった。
「ハァ・・・ハァ・・・グズッ・・・」
暴れ疲れた俺は寝転がったまますすり泣く。
「ふ、筆木・・・そのー・・・、一旦落ち着こう、な?
とりあえず、そんなところで寝てるのもアレだし一旦座ろうじゃないか?」
鈴木ヒトナリがそんな俺を優しく宥めに来た。俺は鈴木ヒトナリの言われるがままにする。
「俺が堅田さんに責められてるのを見て間に入ってくれたのは嬉しいが、
俺達が悪くないというのは言い過ぎだったんじゃないか?
確かに俺だって好きでこんなことをやった訳じゃない。
俺は死ぬのが怖かった、二度と親父やお袋や妹に会えなくなるのが嫌だった。だからこそあの影に従ってしまったんだ。
でも殺されてしまった罪の無い人達やその遺族からすれば俺達の事情なんて知ったっちゃ無いわけで、
俺達は他人の権利を踏みにじってしまったという事実に向き合う責任はあると思う。
全てが終わって俺達が無事に解放されたら、俺達は法の裁きに身を委ねるべきだ。」
俺は何も出来ず、鈴木ヒトナリの話を聞きながら泣くことしか出来なかった。
『家族と会えなくなるのが嫌だった』なんて俺が嘘でも言えねえようなことを平気で口に出来るなんて、
やはり鈴木ヒトナリは光の住民だ。
鈴木ヒトナリが送っているであろう日常と自分のものを比較すると余計に泣けてした。
クッソー俺は家族なんて大嫌いだ!!!
出来ることなら縁を切りたい!!!これを良ししてくれない世界が大嫌いだ!!!
家族の絆を大切にだなんて巷じゃ言われているが、『絆』という言葉の本当の意味をお前らは知ってるのかよ。
家畜をつなぎ留めておく綱のことだぞ!!!
こんなたまたま血が繋がってるだけの他人に束縛される呪いをありがたがっているなんてどうかしてるわ。
テレビをつけると過去の対立で親と疎遠になっていた子を主人公が余計な世話を焼いて
本当は親は子のことを愛していたんだと訴えかけて、それを拒絶したら子が悪役みたいな空気を作ってよりを戻させるとかいう
クソしょーもないテンプレ展開ばっかだ、特に2時間ドラマにはこんな展開が多い。
そういう訳で俺は特撮以外のドラマを見なくなったんだよ!!!
心にのしかかる負担から解放されて自由に生きることを許してくれないなんて、やはりテレビ業界の人間はクズばっかだ!!!
「堅田さん、俺は罪を犯し、これからも罪を重ねる許されざる存在だ。それは自覚しているよ。
全てが終わり次第、俺は罪を償うつもりだ。到底償いきれるような代物ではないけれど、それでもだ。
そして全てを終わらすには1人だけの力では出来ない。
だから堅田さん、俺のことはいくらでも嫌ってくれてもいいけど、今だけは力を合わせてくれないか?
俺はこのゲームを終わらせるために全力を捧げると誓うよ。」
「・・・その言葉に偽りはないのね?」
「ああ、もちろんだ。」
「分かったわ。正直私はこの中で圧倒的マイノリティ、この状況で個人でいることは危険だもの。
貴方を信じるしかないわね。とんでもなく恥ずかしいものを見せられて貴方達に関する怒りの感情も冷めちゃったわ。
ひとまずジンセー君とは協力関係になってあげる。」
堅田は右手を差し出した。
「ありがとう、堅田。」
鈴木ヒトナリはそれに応じる。
「堅田の奴、この状況で孤立することが危ないと分かっていたのなら、あんなに周囲に牙を向けて暴れるなって話だよな。」
笹岡さんが俺にボソッとつぶやいた。
「何か言った笹岡?堅田の文字が聞こえたのだけれど。」
「自意識過剰だな。お前のことなんて一言も言ってない。
筆木の『肩』にホコリがついてるのが見えたから、多分さっきのアレで背中はゴミだらけだろうと思って、
掃ってやろうかと言っただけだ。ほら筆木、私の方へ背中を向けてくれ。」
「あ、ああ・・・悪いな・・・結構ひどいことになってると思うぞ・・・」
「別に気にしなくていい。さっき私のことを三方から庇ってくれただろう。その礼はしないとダメだろ。」
俺が笹岡さんに背中を掃ってもらっていると、花畑さんも近づいてきた。
「ふ、ふ、筆木君。」
花畑さんは俺にハンカチを突き出した。花の刺繡が施されていて、綺麗に折りたたまれている。
「俺に貸してくれるのか?」
花畑さんはコクリと頷いた。
「ありがとう・・・」
笹岡さんと花畑さんの優しさに触れて、また目が熱くなってきた。俺はハンカチで顔を覆う。
自分の観測していない事象を自分にとって不都合な事実に書き換えられてしまうという嫌がらせ @bookofo
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