第45話「笹岡チカコ-4」
「おい笹岡、お前一体どうしたんだよ!」
「平田か、なんだよ。」
一人で席に座って考え込んでいるとさっきの光景を目撃していた平田が声をかけてきた。
「お前と堅田仲良かったんじゃねえのかよ!?
俺が堅田に何かちょっかいかけたらお前は絶対に許さないって感じだったじゃん。
それなのに何で今はお前ちょっかいかける側になってるんだよ。
堅田も堅田で前と全然キャラが違うし、一体何があったんだよ!?喧嘩でもしたのか!?」
平田は小学5年生で私達と一度別のクラスになり6年生でまた同じクラスになったので、
私と堅田の変化に驚きを隠せないでいた。
「別にお前には関係無いだろ。」
「確かにそうだけどさ・・・でもあんなに仲良かったのこれっていくら何でも悲しすぎるだろ。」
「だから何だというんだよ。こうなったんだから仕方ないだろ。
堅田は私の存在を頭の中から消し去ろうとしている。もう私達の関係は2度と元に戻らないんだ。」
「いやいや、ちょっと待てよ。自分達の関係は2度と元に戻らないって・・・
そんな極端な言い方することは無いだろ。もしかすれば話し合えばまた分かり合えるかもしれないじゃねえか。」
「そんなこと出来る訳ないだろ。向こうは私を避けているんだ。
この件に関して何か出来る訳でもないお前がそんな無責任なことを言うな。」
「いや、俺に何も出来ないってことは無いぜ?」
「それはどういうことだ。」
「お前が望むなら俺が堅田との話し合いの場所をセッティングしてやるよ。
俺は堅田がよくつるんでる奴らと結構仲良いから、そいつら経由でなんとか頼んでみる。」
「なんだって・・・!?」
まさか平田が手を差し伸べてくれるとは驚いた。
私には堅田にしょーもない嫌がらせするクソガキの印象しか無かったが、思いのほか良い奴なのかもしれない。
「・・・いやいい。」
だけど私はその申し出を断ってしまった。
「正直、私達の間に事情を知らない人間がズカズカと土足で踏み込んでくるのは不愉快だ。
お前のことは嫌いだし、頼るつもりなんかない。」
私は少し強い言い方をした。
「そうか・・・出過ぎた真似をしたな。すまない。今のはありがた迷惑ってやつだったな。」
平田は怒ることなく、その場を去っていった。
好意を仇で返すような真似を申し訳ないことをしまったと思う。
ただここで平田の手を借りて堅田を話して、それでダメだったら私は本当に立ち直れなくなってしまう。
私は臆病さゆえに動き出すことが出来なかった。
◇
中学に進学した後、私はスポーツ未経験ながら運動部に入部した。
別に特別望んで入った訳ではなく、この中学では部活への入部が必須とされていたから仕方なしだ。
中学入学地点で身長170cmだったので複数の運動部の先輩達から君なら絶対にレギュラーをとれると熱心に勧誘されて大変だった。
体験入部だけでもと言うから断り切れずに顔を出してみるとこれがキツかった。
バレー部はボールが当たる度に腕が痛くてたまらなかったし、バスケ部には既に入部を決めていた堅田がいて地獄だったし。
結局最終的に私は陸上部を選んだ。
その理由としては実は私は足の速さだけには自信があったからだ。
どれくらい早いかというと小学生の頃は運動会のリレーでアンカーを任されたことがあるほどだ。
私は少しぐらいは実力を発揮出来たほうが部内での扱いが良いのかなと考えた。
そんな訳で陸上部の一員となった訳だが、そこでの日々は普通に辛かった。
私みたいな根性無しに体育会系のハードな練習はあまりに向いてなさすぎる。
そもそも私はあまり走るのが好きじゃない。よくこける人間だからな。リレーのアンカーやった時も派手に転んで無事最下位だ。
大会に出たこともあったが、その時の私は他の部員が言うには良い成績を残したらしいが、
上には上がいる訳だし私としては死ぬほどどうでも良かった。
休みの日にわざわざ遠方の会場まで出向かないといけないというのが嫌だったまである。
あと顧問の教師も私にだけ当たりが強かったし最悪だ。
先輩曰く期待されていることの裏返しとのことだけど私としては本当に勘弁してほしかった・・・
◇
この頃は同時進行で学校の男子達にも悩まされていた。
「Hello、Ms Sasaoka。ワタシは1年2組のTim Hayden Swainだ。
急にこんな所に呼び出して申し訳ない。
手紙を正しい意味で書けているか不安だったが、来てくれたことに安心した。ありがとう。
本題に入るが、この前の運動会の部対抗リレーでアナタが走った姿、ワタシは感動した。
この国の言葉で言うところの一目ぼれというものをアナタにしてしまった。
結論を言うとワタシのgirlfriendになってほしい。後悔はさせない。」
私の見た目に釣られてしまった男子達が告白してくるのだ。
正直私は男性が苦手だ。家で絶賛オス二匹にあの手この手でいじめられてる訳だし。
小学生の頃こそ男子としょっちゅう喧嘩をしていた訳だが、学年が上がるにつれ強くなっていく男子の力に内心怯えていた。
今となっては私は女子の中でもかなり非力な部類に入るし、出来るだけ男性とは関わらずにトラブルを避けたいと考えている。
ということで男子と話すのも嫌なので、お付き合いなんて断固お断りだが、
だからといって雑に振ってしまうと恨まれるかもしれないので、
言葉を選んで相手の顔色を伺いながら慎重に進めるのが大変ストレスになる。
「すみません・・・部活や勉強が忙しいので今はそういうことは考えられません。」
「ワタシは別にアナタの邪魔をする気は無い。むしろ協力したいとも考えている。
ワタシは成績でこの学校の3本の指に入るから、勉強で苦戦しているアナタを教えることが出来る。
是非ともワタシを利用してほしい。」
「いや・・・、それは悪いです。貴方も忙しいでしょうし。」
「ワタシの心配は不要だ。暇を持て余している。
だけどワタシのような怪しい人間に教わりたくないと思うのは当然か、ハハハ!この事は忘れてくれ。」
「別に貴方を怪しいだなんてそんなことは思っていません。
ただ私は自分の事で色々と考えることがあって精一杯なので他人と接する余裕がないんです。
本当に申し訳ありませんが貴方とは関われません。」
「Oh・・・脈ナシ・・・これは手厳しい・・・OK、今日は諦めよう。
ワタシのことをアナタに覚えてもらえただけ収穫だ。」
このティム・ヘイデン・スウェインとは後に付き合うことになるのだが、当時は一番の悩みの種だった。
ティムは外国人で目立つから、私の心の中で私に告白してくる厄介な男子の象徴になってた。
アプローチもティムが一番積極的だったし、その度にそれを躱すのが面倒だった。
◇
「Good moning Ms Sasaoka!今日の気分はどうだ?ワタシは天気が悪くて憂鬱だ。雨が苦手なんだ。」
「そんなに馴れ馴れしくされるのは困ります。やめてください。」
「馴れ馴れしい?ワタシは挨拶をしただけだと思うが。
ワタシ達は同じ学び舎の仲間だというのに、それすら許されないとアナタは言いたいのか?」
「すみません、言いすぎました。
私は人と話すのがヘタクソで避けたいと思っているのでつい強い言い方をしてしまいました・・・」
「アナタが落ち込んだ顔をする必要はない。ワタシは責めたつもりではなかった。
ただ少し言葉選びを間違えてしまったようだ。やはり日本語は難しい。
それにしても、アナタは話すのがヘタクソなのか?ワタシにはそうは思えない。ちゃんと言葉の返事を返してくれる。」
「ヘタクソなんです!私と関わると貴方もいつかは怒り狂うことになりますよ!私には近づかないのが一番です!」
私はそう言うと逃げるようにその場を去った。
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