第8話 鑑定魔法

 

「これは……やり甲斐がありますねぇ……ククク」


「……喜んで貰えてなによりだ」


 家の中は我ながら酷い有り様だった。

 掃除をしていない、というよりする気力もなかったと言った方が正しいかな……。

 それにしても、出て行った頃とほとんど変わっていないように見える。


「なぁエクスカリバー、魔法の鞘ってのはどういった効果なんだ?」


「我が鞘には、起きた事象を巻き戻す力がある、と言えば分かるかな? 今回の場合だと、燃えた家を燃える前の状態に戻したということであるな。中も戻っているであろう?」


「ああ、俺が出て行く寸前とほとんど変わらないかな」


 つまりこの家は、俺が出て行ってからかなり早い段階で燃やされたわけだ。

 通常ならあり得ないだろう。出掛けているだけかもしれないし、何かあったかと思うのが普通だ。

 無能だからなんでもいいと、そういうことなんだろう。


 生きていたから思うことだが、多少荒らされているかもしれないとは思っていた。

 まさか家を焼かれるとは思わなかったが。

 やった奴らは大体察しがついている。

 俺の家に来る奴らなんて限られているしな。


「で、主人あるじよ、焼いた奴らは今度こそ斬ってもよいのかな?」


「すぐ斬ろうとするなエクスカリバー……それよりも髪をとくんじゃないのか?」


「お、そうであったそうであった。主人あるじよ鏡はあるかな?」


「どうぞ、エクスカリバー様」


 レヴィはスッとエクスカリバーに手鏡を渡す。

 あれだけ動いていながら、こちらの会話も聞いていたのか。

 しかも相手が欲するであろう物を事前に察知し、それを用意するとは……魔族メイド恐るべし!


「おお! 感謝するぞレヴィ。では我は髪をといておる。楽しみだ……ふふふ」


「ああ、楽しんできなよ」


 エクスカリバーは鼻歌交じりに俺が教えたリビングに向かっていった。

 彼女の様に他の武具達にも何か願いがあるのだろうか。

 もしそうなら叶えてあげたいものだ。


「さて、俺も手伝うかな」


 レヴィは満面の笑みで家中を動き回っていた。

 雑巾掛けからなにまで1人で完璧に行い、すごい速さで家が綺麗になっていく。

 長年蓄積された汚れが雑巾の一拭きで消えていた。

 まるで、これがレヴィの魔法なんじゃないかと思える程にすごい。


 これがレヴィの家事を完璧に行えるスキルの力ってことか。

 やっぱり稀にいる天才という奴はスキルを持っていて、通常ではあり得ない力を発揮しているのだろう。

 とりあえず何か手伝うことはないか聞いてみるか。


「レヴィあの……」


「お断り致します」


 まだ何も言ってないのに……。

 まぁなんとなく分かっていたけど。


「そっか……なら、リビングにいるから何かあれば聞いてくれ」


「かしこまりました。キッチンは既に片付けてありますので、何かお飲み物をお淹れいたします。何がよろしいですか?」


 は、早過ぎるだろ……そんな時間あったか?


「ん、なら……紅茶を」


「地下でもよく飲まれていましたし、ロード様はやはり紅茶がお好きなんですね。ではリビングでお待ち下さい」


「ありがとうレヴィ。任せたよ」


「はい、お任せ下さい」



 ―――――――――――――――――――――



 俺はリビングでエクスカリバーの髪をとく姿を見ていた。

 なんて顔をしているんだ。

 恍惚の表情とはまさにこれを指すんだろう。


「エクスカリバー……よだれよだれ」


「はっ!? す、すまんな主人あるじ。それにしても、髪をとくというのは気持ちがいいものだ。なまじ魂がある故に、望みを持ってしまうのも困りものであったが……主人あるじのおかげで夢が叶った。礼を言う」


「いや、こっちこそ力を貸してくれてありがとう。ところで、他の武具達にも願いってあるのかな?」


「んー……どうであろうな。我の様に女の魂を持つ武具も多い故、似たような願いを持つものもいるやもしれんな」


「え? 伝説の武具達って女の人が多いのか?」


「うむ。普段は眠った様な意識の中におり、その中で外の声が聞こえてくる感覚なのだが……あ、特に不快感や苦しいといった感覚はないから気にしないで構わん。で、たまに意識がはっきりして、他の武具達と話すこともあるのだ。姿だけでは分からなかったが、話してみると大体6割は女で4割が男かのう」


「そうなのか……勝手に全部男だというイメージを持っていたからなんか意外だなぁ」


「そうであろうな。名前からして男みたいであるし。ま、我のような伝説の武具を創る神や、いにしえの刀鍛冶といった連中は大抵男であるからのう。まるで我らを恋人か何かと思いながら愛情を込めているのやもしれん。そのせいで魂が女になるのではないかな?」


 なるほど。なんだか妙に納得した。

 作り手にとっては恋人の様なもの、か。

 なんだか素敵な表現だな。


 その時リビングの扉が開き、プレートに3つのカップを乗せたレヴィが現れた。

 レヴィが持参したと思われるカップからは湯気が上がっている。


「お待たせ致しました。エクスカリバー様はお飲みになったことがないでしょうから、とりあえずロード様と同じ紅茶をお持ち致しました」


「というか……口に入れて大丈夫なのかな。錆びない?」


「分からぬが……飲んでみたいのう」


「どうぞ、エクスカリバー様。ダメならやめればいいのです。とりあえず飲んでみては?」


 そう言われ、エクスカリバーはカップを唇に当てると、多少躊躇した後にスッと傾ける。

 最初は驚いていたものの、少し口に含んでカップから唇を離した。

 それをこくんと飲み込むと、感嘆の声を上げる。


「おお……これが飲むということ! 味! 匂い! そしてこれが紅茶! これが……美味いというやつか!」


「お気に召した様でよかったです」


「大丈夫そうだな。じゃ、俺もいただくよ」


 レヴィの淹れてくれた紅茶はとても美味しかった。

 美味しい紅茶を飲みながら、レヴィの掃除の進捗やエクスカリバーの武勇伝を聞いた後、気になっていたことをレヴィに聞いてみた。


「なぁレヴィ。鑑定魔法を使うとどんな風に見えるんだ?」


「そうですね……少々お待ちを」


 そう言って紙と年季の入った羽根ペンを取り出し、俺を見ながら何か書き始めた。

 それが終わると、今度はエクスカリバーを見ながら同じ様に書いている。

 そうして書き終えた紙を俺に見せた。


「私にはこの様に見えるのです。あ、一応私のも書いておきましょう」


 スラスラともう1枚書くと、それも渡された。

 なるほど。こんな風に見えているのか。



 ―――――――――――――――――――――



 ロード=アーヴァイン


 18歳 人族 178センチ 70キロ


 保有魔法:生命魔法【SSS:レベル2】

 保有スキル:武芸百般【SS】

 特技:飲まず食わず眠らず【B】



 ――――――――――――――――――――――



「省略していますが、大体その様な感じです。魔法やスキルを注視すれば、その情報を詳しく知ることができます。また、体調なども見れますね」


「ん、特技? 飲まず食わず眠らずって……なんだこれ」


「特技は得意なことが能力と呼べるレベルである時に限り、鑑定魔法に名前と効果が載ります。ですが、これは所持していない場合の方が多いです。なかなか能力とまで呼べるものはありませんから。後天的に目覚めるスキル、とも言えますね。ロード様の特技は、飲まず食わず眠らずに長い間行動出来るということです」


 あー……だから3日もぶっ通しで働けるわけか。

 というかこの3年で得た特技なのかもしれない。

 嫌な記憶が蘇るな……。


「稀に特技がスキルを上回る効果を持つこともありますが、かなりの鍛錬が必要ですね。私の場合は少し違いますが」


「ふむ? で、本来は魔法やスキルの説明が更に記載されるわけか。この魔法やスキルについてる【SSS】とか【B】ってのは?」


「魔法やスキルにもランクがあるのです。【SSS】が最高評価で【D】が最低ですね。S評価は割と見かけますが、それを超えるものは本当に少ないです。生命魔法は文句無しの最高評価ですね。もはや神の力と言っても過言ではないですから」


「やっぱり凄いんだな生命魔法って。魔法のレベルは2か……これはどうやったら上がるんだ?」


「とにかく使用するしかないですね。最初はレベル10ごとに新たな力が使える様になります。ちなみに最高レベルは100です。もちろん鑑定魔法がなければレベルという概念は認識できませんが」


「……かなり頑張らないといけないな。じゃあ次、エクスカリバーは……」



 ―――――――――――――――――――――



 エクスカリバー 聖剣 


 神が創った奇跡の聖剣。

 大英雄アーサーが使用した伝説のつるぎである。

 持ち主に栄光をもたらす力を持つ。

 光を纏い、剣身を伸ばしたり、斬撃を飛ばすことが出来る。

 また、その鞘には"事象の巻き戻し"という能力があり、起きたことを起きなかった場面にまで巻き戻してしまう。


 武器ランク:【SSS】

 能力ランク:【SSS】



 ―――――――――――――――――――――



「ほう、我はこの様に表示されるのか。なかなかいいことが書いてあるのう。はっはっは!」


「武器ランクは希少性や強度、斬れ味など、能力ランクはその効果の有用性などが加味されて算出されます。スキルと同じく【SSS】が最高評価で最低は【D】です」


 さすがは伝説の聖剣だな……。

 両方とも【SSS】じゃないか。


「ふむふむ、んじゃレヴィは……」

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