第46話 大会

 

 2人を見送った後、俺達はニーベルグの冒険者ギルドに向けて歩き出していた。

 ヒストリアとイストのギルドに連絡することが理由の一つだが、それ以外にも理由がある。


「それにしてもレヴィ、上手くやったな」


「ええ、お荷物に100万ゴールドを忍ばせておきました。あの様子では気付かれてはいないようですね。それに私と体格が似ていたので服もお渡しできましたし、これで暫くは大丈夫でしょう」


 まともに渡したら絶対受け取らないだろうからな。

 手持ちのゴールドはほとんど無くなったが、俺達はまた稼げばいい。


「だな。イストなら安心して暮らせるだろうし、これで一安心だ」


「ええ、本当に良かったです。これも全て、ロード様がイストの皆様と分かり合えたからこそですね」


 その時はそこまで考えていなかったが、今後も2つの町には助けてもらうことになりそうだ。

 ヒストリアやイストの人達なら安心して任せられる。


「因みにロード様、今晩の宿代を稼がないと野宿になりますよ」


「え?」


 あれ? まだ数万はあった気が……。


「い、今いくらあるの?」


「1万ないです」


「……マジで?」


「マジです」


「もうちょっとなかったっけ……?」


「ロード様……馬車代と依頼料を計算にいれておりましたか?」


「……さ、ギルドに行くぞ!」


「稼ぎましょう」



 ―――――――――――――――――――



 石レンガで造られたまるで城の様なニーベルグ冒険者ギルドの中に入ると、広い受付カウンターに受付嬢が1人だけポツンと立っていた。

 まだ朝早いせいか、普段ならごった返しているであろう冒険者達の姿は一切なく、依頼に訪れる町の人達もいない。

 暇そうにしていたツインテールの受付嬢は、俺達に気付くと嬉しそうに挨拶してきた。


「おはようございます! ご用はなんでしょうか?」


「えっと、まずは通信魔石を借りたいんですけど、お金かかりましたっけ?」


「冒険者さんなら無料ですよー。こちらへどうぞ!」


 受付嬢のアムルさんに案内され通信室と書かれた看板がある部屋に通されると、その部屋の中心に俺の身体程はある大きな紫色の通信魔石があった。

 床には魔法陣が描かれており、その魔法陣から半透明の障壁の様なものが天井まで伸びている。

 その中で、通信魔石はぷかぷかと浮かんだまま上下に揺れていた。


「おーやっぱり大きいな」


「この通信魔石なら、ニーベルグの国中にある冒険者ギルドや主要機関と連絡を取ることが出来ます。どちらにお繋ぎしますか?」


 とりあえずヒストリア冒険者ギルドに繋いで欲しいと伝えると、彼女が魔力を込めてヒストリアのギルドへと繋いでくれた。


『はーい! こちらヒストリア冒険者ギルドでーす!』


 聞き覚えのある元気な声だ。

 まだ数日しか経っていないのだがなんだか懐かしく感じる。


「ランナさん、お久しぶりです。ロードです」


『ありゃロードくん!? お久しぶりー元気してる? 怪我とかしてない大丈夫? どうしたの今どこ……ってあれか! ニーベルグか!』


「はは、ランナさん落ち着いて……俺は大丈夫ですよ。すいませんけどテネ……」


『やぁロードくん!』


「ぬわぁ!? ……相変わらずですね」


 テネアさんの声の後ろでは、ランナさんも俺と同じように声を上げていた。

 まったくこの人は……。


『ふふ……で、僕になにかご用かな?』


「ええ、実は……」


 テネアさんに昨晩のことを伝え、数日後に到着するであろうティア達をイストまで護衛して欲しいとお願いすると、彼は二つ返事で了承してくれた。


『そっか……やっぱりそんな悲しいことも……この町はもう大丈夫だ。そんな人がいたらヒストリアでも受け入れる準備は出来ているからね。いつでも言ってくれ』


 どうやら約束通り、町の人達に話してくれたようだ。


「ありがとうございますテネアさん。あと、正式な依頼として出しますので、ニーベルグのギルドに依頼料を払えばいいんですよね?」


『問題ないけど……ロードくんの頼みならタダで……』


「いや、筋は通したいので」


『……まぁ君ならそう言うだろうね。分かった。必ず無事に送り届けるよ!』


「ありがとうございます。では、またいずれ」


『うん。気をつけてね。また会おうロードくん』


『ま、またねロードくん!』


「イネアさんもまた。ハガーさん達にもよろしくお伝え下さい。では」


 よし、次はイストに……。


「アムルさ……ってどうしたんですか!?」


 アムルさんは目を真っ赤に腫らして涙ぐんでいた。

 ひょっとして……。


「しゅいません……だって……この町でしょんなことが起きていたなんてしりゃなかったかりゃ……うっうっ……」


「アムル様は優しいお方なのですね……よしよし」


「レヴィしゃん……うっうっ……でもロードしゃんが救ってくれたんですね……よかった……」


「ええ、よかったですよ。アムルさんもそんな噂があったら教えて下さい。きっとみんな何か事情がある筈ですから」


「はい……ぐすっ……あ、他にもかけますか?」


「あ、はい。次はイストにお願いします」


 アムルさんが鼻をすすりながらイストに繋いでくれた。

 通信魔石から懐かしい明るい声が聞こえてくる。


『はい! イスト冒険者ギルド、エリーですっ!』


「あ、久しぶり。ロードだよ」


『あー! ロードさんっ! お久しぶりですっ! ヒストリアでは大活躍だったみたいですね! 名前が情報誌に載ってましたよっ!』


 そうなのか?

 暫く見ていなかったから知らなかった。

 レヴィも最近見れていないと言ってたし、今日見てみようかな。


「それは知らなかったよ。あ、ガガンさんいるかな?」


『あ、はい! ガガン様ー! ガーガーンーさーまー!』


『うるせぇなぁ……どうしたエリー』


『ロードさんから通信ですよ!』


『お、おいマジか! 早く言えよ!』


『いーから早く早く!』


『お、おい! ロードか!? 元気にやってるのか!?』


「はは、ガガンさんお久しぶりです。元気にやってますよ」


『この野郎……まさかインフェルノワイバーンどころか、"巨人"までやっちまいやがって!』


「そりゃ、ガガンさんの目は節穴じゃないですから」


『おま……泣かせんなよなぁ……やめろよ……』


「あはは! で、実はお願いがあって連絡したんですよ」


『……なんでも言ってくれ。必ず応えてみせる』


「ありがとうございます……実は……」


 テネアさんに話したように、ガガンさんにも昨晩のことを伝えた。

 あと、話せていなかった無能という概念についても話すと、ガガンさんは少し驚きながらもどこか納得しているようだった。


『そうか……そんなことが……やりきれねぇな』


「ええ……2人には幸せに暮らして欲しいんです。だから俺の家を貸すことにしたんで、ガガンさん面倒みてもらってもいいですか?」


『任せろ。きっとみんなも同じ気持ちになってくれるさ。心配はいらねぇし、させねぇ!』


「……ありがとうございます。じゃ、あとは頼みます」


『おう! またそんな人がいたら言ってくれ。必ず守るからよ! あと、そのうちまた帰ってこいや。みんな待ってるから』


「もちろん。必ず帰りますよ。じゃ、また!」


『おう、またな! 元気でなロード!』


『ロードさんまたー!』


 よし、これでティア達は大丈夫だ。

 まぁ、心配はしていなかったけどな。


「ありがとうございますアム……」


 アムルさんはやっぱり号泣していたのだった。


「よしよし……」



 ―――――――――――――――――――



 アムルさんに頼んで、軽食を用意してもらった。

 飲まず食わず眠らずの力か、別に辛くはないのだがそれでも腹は減る。


「もぐもぐ……ごくん。あ、ロード様。お名前が載ってますね。少し前の記事ですが……"期待の新人現る!"だそうですよ」


 記事にはその見出しと共に、俺のフルネームと職業が書かれており、その後にかなり好意的な文章が綴られていた。


「お読みしますね。"冒険者になったばかりのロード=アーヴァイン【18歳:召喚騎士】は、フレイムワイバーン、インフェルノワイバーン討伐に加え、二つ名持ちのサイクロプス"巨人"をも粉砕。それにより早くもAランク冒険者へと昇格した。実際に彼の戦いを見た女性に話を聞くことが出来た。《【ウノイさん:仮名】私がインフェルノワイバーンに食べられる寸前、彼は颯爽と現れて、あっという間にインフェルノワイバーンを討伐してしまったのです! その姿はまさに英雄でした。30人以上いた冒険者でも敵わなかったのに、彼は巨大な大剣で首を一閃。私は年下の彼を、冒険者としても、そして、人としてもとても尊敬しています》強い冒険者の減少が叫ばれる昨今、彼のような優秀な冒険者の未来は、この世界を生きる我々の未来に直結している。英雄としての道を歩き始めた、彼の今後に期待したい"……だそうです」


「……照れるな」


「これは照れますね」


「ロードさん凄い人だったんですね! 尊敬しちゃいますっ!」


 皿を下げに来てくれたアムルさんにも聞かれていたようだ。


「はは……恥ずかしいからやめて下さい……」


「敬語はやめて下さいよ英雄様ー!」


「じゃあ遠慮なく……っていうか若干馬鹿にしてない? まぁいいけどさ……というかなんで誰も来ないんだ? いつもこんなもんか?」


「いいえ? いつもはごった返してますよ。今日は年に一度の大イベントですからね。私も行きたかったんですけど、ギルドを空には出来ないですから」


「大イベント……?」


「え……ひょっとして知らないんですか? 今日は"冒険者決闘大会"がある日なんです。しかも、年数回行われる中でも年に1回しかない、ニーベルグの全冒険者参加可能な大会なんですよ!」


「あーそういやそんな看板があったな……」


「普段は新人冒険者発掘を目的とした大会なんですが、今日行われるのはニーベルグで一番を決める特別な大会なんです! ニーベルグ出身のSSS冒険者様も来るので、みんな闘技場に行くか、広場にある映像魔石で大会を見に行ってます。だからここに誰も来ないんですよ」


「なるほど……そういうことか」


「ロードさんもイスト出身なんですよね? だったら参加出来るのに……」


「あんま興味ないんだよね。まぁ名を上げるにはよさそうだけど、依頼をこなす方が気が楽だしな。あ、そうだ忘れてた。俺達今お金が全然無くてさ、今日すぐ出来る依頼ってないかな?」


「……無いです」


「え……?」


「今日の大会に向け、近場の依頼は全て片付けてしまいましたから……ここで受けられる依頼は本当に何もないんです。だから他の町に行くしかありませんが……どこも数日はかかりますよ?」


「マジ?」


「マジです」


 まいったな……。

 俺はいいが、レヴィはさすがに厳しいだろう。


「ロードさん、まだ間に合います。大会に出ましょう! 受付終了まであと30分……ギリギリ間に合います!」


「うーん……」


「ロード様、私も出た方がよいかと。お金も家も手に入りますし、その家をまた新たな拠点に出来ます。それに、このままだと町の中で野宿することに……私はいいですがロード様をそんな目に遭わせる訳には……」


「俺は別にいいけど、レヴィは女の子だからなぁ……よし、出るか」

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