第52話 レーヴァテイン

 

 予定が全部狂ったな……。

 バトルロイヤルになるとは思ってなかったし、レヴィがいなくなるなんて予想外過ぎる。

 レバノンさんのパーティメンバーの魔法は、まだレヴィが見ていなかったから分からない。

 なんにせよ、こうなった以上やるしかないか。


 始まると同時にレバノンさんのパーティが俺を包囲するように動き出した。

 とにかく全員の目が血走っており、かなり強い敵意を感じる。

 俺が1人でも勝てると思っているように勘違いされたのかもしれない。


『さぁ、ロード選手! 圧倒的不利なこの状態で一体どの様に立ち回るのかァッ!?』


 俺から見てレバノンさんが中央、その横に寄り添うように女性のヤマハさんがいて、右手側には男性のホンさんが、左手の方角からはもう1人の女性であるサキさんが俺に迫っていた。


『囲まれちまったらきついな。各個撃破しかねぇが……さてどうするかね』


「ブリューナク!」


『おおッとォッ!? ロード選手の手に槍が現れたァッ! ロード選手は召喚騎士! どうやら槍を召喚したようだァッ! 武器召喚とは珍しいですねバーン様!』


『ああ。それにしても……やっぱりあの槍はヤバイな』


 レバノンさんには悪いけど速攻でいかせてもらう。

 まずは左のサキさんから……ん?


「あれっ……!?」


 駆け出そうとしたのだが、足が何かに捕らわれて決闘場から離れない。

 必死に地面から足を剥がそうとするが、足首から下がビクともしなかった。

 い、いったい何が……!?


 その時、不意に俺の背後から風が吹く。

 その風の流れのままに目をやると、右手側にいたホンさんが魔法を放たんと魔力を練り上げていた。

 この人風魔法使いか……!?


『さぁ試合が動きそうだぞッ! ホン選手が魔法を放とうとしているゥッ!』


『ん……?』


 さらにその時、左側にいたサキさんが何かを投げるような動作を見せた。

 投げた物は見えなかったが、俺はブリューナクを戻して咄嗟に手帳を開く。

 とにかく攻撃を防ぐ為にアイギスを呼ぼうとしたのだが、開いたページには黒いロングソードの姿が描かれていた。


「ちがっ……!?」


 気付いた時には既に遅く、いきなり目の前に巨大な岩が現れていた。


『おォッとォ!? いきなり岩がァ!?』


『……おかしいな』


 岩石魔法か!? もうアイギスを探している暇はない!

 それでもこの人だったら……!


「くっ……! デュランダル!」


 手帳から飛び出た黒いロングソードを掴み、迫る巨岩に向けて下から振り抜いた。


「えっ?」


 なんの手応えもなかったので一瞬空振りしたかと思ったのだが、どうやら切れ味が凄過ぎて何も感じなかっただけらしい。

 真っ二つに切り裂かれた巨岩は、俺の身体を避けるように背後へと消えていき、巨岩が地面に落ちる音とともに客席からは大歓声が沸き上がった。


『きょ、巨大な岩が真っ二つゥゥゥゥゥッ!? なんて切れ味だァァァァァ!』


『あ、ちょっと係員さん……』


 あ、危なかった……。

 さすがは神剣デュランダル……硬いもの程よく斬れるというのは本当らしい。



 ―――――――――――――――――――



 デュランダル 神剣


 神が創り出した伝説の黒き神剣。

 そのあまりの斬れ味に、この剣と打ち合うことが出来るのは伝説と呼ばれる武器だけだったという。


 英雄ローランがかつてこの剣を振るい、魔物の硬い皮膚のみを斬り裂き、裸同然になった魔物を仲間達が倒すことで勝利を掴んだという。


 それは、硬ければ硬いもの程簡単に斬ることが出来るが、逆に柔らかいものは切ることが出来ない為であった。

 故にこのつるぎは、不殺のつるぎと呼ばれることもある。


 武器ランク:【SSS】

 能力ランク:【SS】



 ―――――――――――――――――――



 サキさんは岩を切り裂かれたことにかなり驚いていたが、不思議と声を上げなかった。

 他の人達も一切声を上げずに俺を睨みつけている。

 何故だろう……いや、冷静なだけかもしれないが……。

 何か違和感を覚える。


「あ、やばっ!」


 その違和感に気を取られていた俺にホンさんの風魔法が飛んでくる。

 デュランダルでは魔法を斬ることは出来ない。

 今度こそアイギスを呼び出し、俺は風の砲弾を受け止めた。


「えっ……?」


 この感触……あの時と同じ……。

 それにこの足……今気が付いたがなんかブヨブヨしている。

 全員声を出さないし、レバノンさんは攻撃すらしてこない……まさか……。


女神の絶対防御アイギス!」


『こ、これは!? サキ選手とホン選手の攻撃が一切通っていないぞォッ!』


 アイギスの障壁により2人の攻撃を防ぐ。

 それでも必死に攻撃を繰り返す2人に対し、真ん中の2人は一切動かずただ俺を睨みつけている。


 いや、1人は既に動いていた訳だ。見えないのは恐らく成長したってことだろう。

 だがここまで……いや、やりかねない。

 やっと違和感の正体が解けた。


 デュランダルを戻し、俺はあるページを開く。

 開かれたページに描かれているそのつるぎは、斬るもの全てを燃やし尽くし、数多のモンスターを灰塵かいじんに変えたという。

 恐らく俺の足を捕らえているであろう魔法は、斬撃や打撃には強いが火にめっぽう弱い。

 だからこの人の力を借りよう。


「頼む、レーヴァテイン!」


 手帳から、紅蓮の炎に彩られた紅きつるぎが現れる。

 刃は深紅、つばつかは金色で、つばの中央には橙色の宝玉が輝きを放つ。

 その金色のつかを握り、俺はそのまま生命を与えた。

 命を吹き込まれた紅きつるぎは宙に浮かび、まるで太陽のように輝きを放ち出す。

 その光を見ても彼ら4人は声を出さず……いや、声を出せぬままに驚愕の表情を見せていた。


『な、なんだこの光はァッ!? ロード選手は何をッ!?』


『おお……!』


 やがてつるぎは人の形となり、その身が決闘場に降り立った。


『ロ、ロード選手! 今度は女性を召喚したァァァッ!?』


『すげぇな……こんなことも出来るのか』


 燃え盛る炎のような長い髪をなびかせ、身に着けたその鎧もまた業火のように強い煌めきを放っている。

 その背中にはマントのように炎がなびいていた。

 そうして現れた綺麗な女性が目を開くと、力強い深紅の瞳で俺を見る。


「ほぉ……これがあたいの肉体かい。堪らないねぇ……ありがとよロード。で、どいつを燃やせばいいんだい?」


 な、なんかかっこいい……。

 つい"姉御"と呼びたくなる様な感じだ。


「よろしくレーヴァテイン。まずは俺の足を捕らえている、この魔法を焼いてくれるかな?」


「ああ、これかい? あたいの足にも纏わり付いてるねぇ。なら、斬るまでもないよ」


 そう言うとレーヴァテインの身体から炎が上がり、それが決闘場の床へと伝わっていく。

 俺の身体を中心にして地面を這うように炎が広がると、見えないそれを燃やし尽くしていった。


「さ、さすが神の炎剣……!」



 ―――――――――――――――――――



 レーヴァテイン 神の炎剣


 神が創り上げた、伝説の炎のつるぎ


 この剣を扱った英雄スルトは、敵陣の中央に1人切り込んだ後、その身ごと全てを焼き尽くしたという。


 このつるぎを持つ者は、ほむらの加護によりその身が焼かれることはない。

 また、触れたものを燃やすことはもちろん、炎を自在に操ることが出来る。


 ただし、水が死ぬほど嫌い。


 武器ランク:【SSS】

 能力ランク:【SS】



 ―――――――――――――――――――



「我が名はレーヴァテイン。我が身に触れしものを灰塵にし、我が主人あるじにはそのほむらの加護が与えられる……堪らないだろう?」


「あっつ……くない?」


「身につけている物も燃えないから安心しなよ……ウフフ」


 決闘場はほとんどが炎に包まれ、それだけ広範囲に渡りゼリー魔法が広がっていたことを示していた。

 向こうの4人は迫る炎を避けるように離れていく。

 かなり熱い筈だがやはり一切声を上げない。

 まぁ、あいつの魔法にそういう制限があることはあれを使ってよくからかわれたから知っている。


「お、足が動く。レーヴァテインもう大丈夫だ」


「あいよ」


 彼女が手を払うと、一瞬で決闘場を覆っていた炎が消えた。

 凄いな……本当に自由自在って訳だ。


『い、今の炎はいったい!? あっという間に現れ、あっという間に消え……』


『あの召喚された奴には炎を操る力があるらしいな。大したもんだ』


 彼ら4人は相変わらず俺を睨み続けているが、いったい何故そこまで……。

 今自分達が何をしているのか分かっていないのだろうか?

 こんなことをして……バレない訳がないのに……。


「どうしたんだいロード……やらないのかい?」


「なんでもない……俺は風魔法使いをやる。レーヴァティンは他の3人を頼む」


「いいよ。さぁて、優しく焼いてやろうかねぇ……ウフフ……」


 こいつらがここにいるってことは、本物のレバノンさん達は今頃……。

 もう、手加減はなしだ。

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