第34話 新調
『待たせたな! 完成したぜ!』
というハガーさんからの連絡をもらい、俺達はヒストリアの工房街に来ていた。
さすがはニーベルグに
イストにあった、ただの家みたいな鍛冶屋などではなく、町の中に一つの区間として工房が存在していた。
朝日に照らされたレンガ造りの街並みは、
まるで迷路のような街並の空には、どこから上がっているか分からない白い煙がいくつも立ち上っていた。
街のいたる所から鋼を叩く音や、何かを削る音など、様々な生産過程の音色が鳴り響いている。
工房兼住居となっている建物同士の間隔も狭く、とてもじゃないが綺麗とは言い難いのだが、どこか重厚な、それでいて趣きのある雰囲気を漂わせていた。
「革細工や木工、魔石細工と彫金に……あっちはモンスターの加工場かな。あ、ここは鍛冶屋だな」
試しに工房の中を覗いて見ると、丸太のような腕で鋼を叩くドワーフの鍛冶屋の姿があった。
大汗をかきながら赤熱に光る鋼を手に持ったハンマーで加工している。
さっきからすれ違う住民の中にもドワーフの姿がよく見られ、「よう英雄!」などと気さくに声を掛けてくれていた。
「やはりドワーフが多いですね。彼らの生産技術は超一流です。持っているスキルや魔法は様々ですが、特技は皆生産関連ですね。まさに職人と言えるでしょう」
この大陸に於ける人間とは、人、ドワーフ、エルフを指し、当然ドワーフも15歳の誕生日に魔法を神から授かる。
最初からあるスキルや、自分で決められない魔法は別として、鍛え上げられた職人技が特技となっている訳だ。
ドワーフは背が低いものの屈強な肉体を誇り、戦闘面でも優秀な戦士として有名だ。
また、みんな立派な髭を蓄えているので、若いのか年寄りなのか一見しただけでは分からないのも特徴。
手先が非常に器用であり、この世界をその技術で日々支えている。
「見た目もかっこいいよな。こう……職人! って感じがたまらないよ」
「ふふ……なんとなく分かります。あ、ロード様あそこですね。ハガー様の工房は」
そんなドワーフ達に混じり、ハガーさんは工房街に自分の鍛冶屋を営むことが出来る程の腕前らしい。
彼の仲間達も生産技術に長け、冒険者の傍ら、こうして工房で腕を振るっているとのことだった。
やはりレンガで造られているハガーさんの工房は、他の建物と比べてもかなり大きい。
ハガーさんって実はすごい鍛冶屋なのだろうか?
そんな工房の中を覗くと、10人程が
なんだかずっと見ていられる様な……すごくいい光景だった。
「おはようございまーす!」
とはいえハガーさんをいつまでも待たす訳にはいかないので、そんないい光景に応えられるように俺は出来るだけ元気に挨拶した。
「よぉー! 救世主じゃねぇか! おいハガーどこ行った!?」
「いらっしゃいロードくん。この間はうちの鋼馬鹿が世話になったね。騒がしい所だが、ゆっくりしてってくれ」
「ありがとうございます。すいません仕事中に……」
「救世主が何言ってやがんでぃ! にしてもイネアもいねーな」
奥からも次々人が出てきて、みんな俺に挨拶してくれた。
いい人ばっかりだなぁ。
「あ、ロードさんおはようございます! 例のやつですよね。イネアさーん? イーネーアーさーん!!」
少年の呼び掛けに、「はーい!」と返事をしたイネアさんが階段を駆け下りてきた。
「ロードくんごめんね来てもらっちゃって……ハガーは2階にいるから案内するね。出来たって言ったくせに、微調整がどうとか言って動かないのよ」
「いえいえ、作ってもらえるだけでありがたいので」
「いやいや、こっちは命を助けられてるから! さぁどうぞ。足元に気をつけてね」
みんなに挨拶しながら階段を登り、2階にあるハガーさんの作業部屋に案内される。
中に入ると、白い服に青いズボンを履いたハガーさんが、顎に手を当てて鎧を眺めていた。
「ハガー! ロードくん来たよ!」
「んおっ!? あ、ロードくん! 来てもらって悪いね。一度君に着てもらってから最終調整をしたくて……」
「おはようございますハガーさん。こちらこそ……ここまでしてもらって悪いですよ」
「いやだから……はぁ、まったく……君と話すと自分が恥ずかしくなるよ」
ハガーさんはそう言って苦笑いしている。
なんかまずいこと言ったかな……?
「ま、とりあえず完成だ。どうだい?」
「ええ、かっこいいです……たまりませんね……」
正直俺は鎧を着ることにかなり憧れていた。
防御力がどうとかではなく、かっこいい鎧はそれだけで価値があると俺は思う。
ハガーさんが作ってくれた鎧は、
赤黒い竜の鱗はピカピカに磨かれ、竜の爪や牙の装飾が所々にあしらわれている。
とにかくかっこいい……。
「君が今着ている服に合わせて作ってみたんだ。インフェルノワイバーンの赤黒い色合いにも合うしね。さ、着てみてくれ」
早速装備してみると、重厚な雰囲気とは裏腹に意外と軽い。
服の上から着ても全く問題無く、すごく動きやすかった。
胴装備は肩まで保護され、腹部は鋼、それ以外は赤黒い竜鱗で埋められている。
肘から先を防御する籠手は、指先だけ出るようになっており、細かな作業も出来るように配慮されていた。
腰周りは、膝にかからない程度に鋼と竜鱗で出来た前掛けがあり、後ろは竜の革を柔らかくなめしたという丈夫なマントが腰から踵にまで長く伸びている。
「ロード様……素敵です……」
「ふっふっふ……ロードくんは召喚騎士だから、騎士と魔導師の融合をコンセプトにしてみたんだ。で、俺は腰周りこそ全てを支える
「ハガー! ストーップ!」
「な、なんだよイネア……今いいところ……」
「ロードくんが引いてるから! それくらいにしなよ……」
「あ、いや別に……」
というかハガーさんてこんなに喋る人だったんだな。
どうやら熱くなると周りが見えなくなるらしい。
「す、すまんつい……まぁとにかく自信作だ! 使ってやってくれ。後はこいつもな」
そう言ってハガーさんが取り出したのは、鉄がむき出しだったあの鉄の剣だった。
「あ、すごい! ちゃんとした剣になってる!」
銀一色だったあの剣は、最早別の剣に生まれ変わっていた。
鞘は赤黒い竜鱗で作られ、持ち手も綺麗に整えられている。
そして
裸だった鉄の剣くんは、武器屋なら高値で売っていそうな立派な剣となっていた。
鞘から剣を抜く。
スラリと現れた直剣は、以前とは様子が違っていた。
なんだか前より刃が肉厚になっている。
幅も広くなっているし、中心と両刃の色も微妙に違っていた。
「ハガーさんこれ……」
「お、気付いたかい? 俺の鋼魔法を重ね掛けしたんだ。以前より頑丈で斬れ味も上がってるし、色もグラデーションになる様にしたんだ。かっこいいだろー!?」
「もう……全部最高ですよぉこれぇ!」
「はっはっは! よかったよかった!」
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