第29話 大切

 

 ランクによる指標。


 冒険者ランクはDからSSSランクに分かれている。

 依頼にもランクが振り分けられ、そのランクにあった冒険者がその依頼を受注出来る。


 Dランク冒険者は初心者。簡単な採取や、低級小型モンスターの駆逐依頼が主になる。


 Cランク冒険者は初心者に毛が生えた程度。低級モンスターでも、中型の討伐依頼が主だ。


 Bランク冒険者は中級者。冒険者の中で一番数が多く、中級モンスターの討伐がメインとなる。


 Aランク冒険者は上級者。ギルドマスターの資格も得られ、周りから一目おかれる存在となる。上級モンスターの討伐が許されるのはAランクから。


 Sランク冒険者は超上級者。上級大型モンスターの討伐を単独で行えるレベルの実力が求められる。


 SSランク冒険者は依頼を数多くこなし、世界レベルで有名な冒険者。実力はSランクを遥かに凌駕する。


 SSSランクは世界最強レベル。世界で10人しかいない、まさに究極の冒険者と言えよう。

 そして、その中に勇者ロイもいる。


 当然上に行くほど人数が少ない。

 以前に比べ、強い冒険者の数は減少傾向にあり、冒険者ギルドに限らず人間世界全体での危惧となっていた。


 因みに魔法のランクはロード達しか知らず、世界では魔法にランクをつけるという概念はない。

 冒険者の中には、レヴィから見て所謂いわゆる低ランクの魔法でも、上手く扱うことで高い冒険者ランクを獲得する者もいた。

 要は使い方と熟練度次第である。



 ――――――――――――――――――――



 色々な手続きを終えてギルドの外に出ると、2匹のワイバーンの死骸がなくなっていた。


「あれ?」


「いったいどこに……」


「よお、手続きは終わったみたいだな」


 声を掛けてきたのはハガーさんだった。

 隣にはイネアさんもいる。


「びっくりさせてすまないな。ワイバーンだが、みんなで売ってきた。そっち方面にはコネがあるんでね。捌いた時に出た端材もここにある。これが鑑定書で、これがその金だ。確認してくれ」


 手渡された麻袋には大量のゴールドが入っていた。

 ずっしり重く、少なく見積もっても100万はある。

 鑑定書によれば、全身が揃っているので価値がかなり上がっているとのことだった。

 あのサイズが町まで運ばれることは稀らしい。


「こんなに……? それにわざわざそんなことまで……なんかすいません」


「いやいや……命を助けてもらった礼と謝罪の気持ちだ。それに、君には色々教えられた。自分がいかに驕っていたのか、それに気づかせてくれて……ありがとう」


「いえ、もう十分頂きました。こちらこそありがとうございます」


「いや俺は君を……まったく……君には色んな意味で敵わないな。ところで、いつまでこの町に?」


「そうですね……特に決めていませんが……」


 さっきランナさんにそれとなく聞いたのだが、この町には無能と呼ばれる人はいないようだったので、首都に向けていつ移動してもいいと考えていた。

 もちろんあまり長居をするつもりはない。


「なら少し時間をくれないか? 俺は革細工や鍛治が得意でね、インフェルノワイバーンの端材で鎧を作らせて欲しいんだ。どうかな?」


「そ、そこまでしてもらったら悪いですよ」


 ありがたい話だがさすがに甘え過ぎだろう。

 確かに鎧に憧れはあるし、見た目的にも鎧を着たいとは思っている。

 報酬も出たし、そろそろ買おうかと考えていたところだ。


「いや、本当に君には感謝してるし、悪いと思っているんだ。やらせてくれ。必ず良い物を作ってみせる」


「ロード様、お言葉に甘えましょう。この方ならきっと素晴らしい鎧を作って下さいますよ」


 どうやら鑑定魔法を使ったみたいだ。

 レヴィがそう言うということは、ハガーさんには生産関連のスキルがあるのだろう。

 それに、ここまで言ってもらって断るのは無粋かな……。


「レヴィがそう言うなら甘えようかな……ハガーさんよろしくお願いします」


「ああ、任せてくれ。出来たら知らせるよ。通信魔石はあるかい?」


「あ、まだ持ってないんです。丁度買いに行こうかと思ってました」


「なら同行してもいいかな? リンクさせればいつでも連絡が取れるしね」


「分かりました」


「案内するよ。それじゃ行こうか」


 魔石屋を目指して、4人で話しながら大通りを歩く。

 なんだか道行く人に見られている気がして、ちょっと気恥ずかしい。

 どうやらワイバーンの件は既に知れ渡っているようだ。


「なるほど……君は召喚魔法使いなんだな。俺は戦いを見てないが、イネアは見たんだろ?」


「うん。凄かったよ……インフェルノワイバーンをあっさり斬っちゃったもの」


「俺の召喚魔法は武器を召喚したり、人を召喚したり出来るんですよ」


 半分は嘘だ。

 ごめんなさい。


「いい魔法だな。汎用性が高い魔法は羨ましい」


「身のこなしも凄かったよ。ロードくんはきっと、いっぱい訓練したんだね」


「ええ、まぁ……」


 毎日クワ振ってるだけでした。

 ごめんなさい。


「ところでレヴィさんはなんでメイド服を?」


 レヴィはふっと笑うと、胸に手を当てて語り出した。


「これが私の戦闘服なのです。いついかなる時も、私はロード様のメイドであり続ける、という意思表示みたいなものです」


 ふふん、と鼻を鳴らすレヴィ。

 それを見たハガーさんとイネアさんがニヤニヤ笑っている。


「お熱いねぇ……」


「ほんと……羨ましいわぁ……」


「レヴィ、その辺にしときなさい……」


「む、何故ですか?」


 そんな話をしている間に魔石屋に到着した。

 中に入ると、色、形、大きさなど様々な種類の魔石が陳列してある。

 意図的に暗くしている店内で、魔石達は星のように輝いていた。



 ―――――――――――――――――――



 魔石。


 地中やダンジョン、遺跡などから発掘される、魔法を込めることが出来る宝石を総称して魔石という。

 大体は空の状態で発掘され、そこに魔法を込めることで様々な効果を発揮することが出来るという代物だ。


 中には最初から特殊な力を持つ魔石もあり、それらは通常より高値で取引されている。


 伝説の武具にも魔石が埋め込まれていることが多く、その力を極限まで高めることで様々な力を発揮している。



 ―――――――――――――――――――



「綺麗だなぁ……」


「通信魔石は……ロードくんこれだ」


 通信魔石はその名の通り、リンクさせた魔石を通じ、離れていても会話が出来る便利なものだ。

 サイズや魔石の強さにより通信距離には幅がある。

 携帯するサイズで安価なものなら、町の中が精々だが、大きいサイズで力の強い魔石ならば国同士でのやりとりも可能だ。


 高価な通信魔石は手のひらサイズで1個10万ゴールド。

 銀で出来たペン状の筒の中心に、紫色の魔石が光っている。この銀の中にも魔石がぎっしりと詰まっており、周りを銀でコーティングしてある訳だ。

 もちろん高いのだが、依頼報酬と合わせて150万ほどある今ならば気にせず買える。

 それに、今後の旅にもきっと役立つだろう。


 俺とレヴィの2つを購入し店を後にする。

 早速ハガーさんの通信魔石とリンクさせ、これでいつでも連絡が取れるようになった。


「よし、じゃあ俺は早速鎧を作らせてもらうよ。出来たら連絡するぜ。あっと、忘れるとこだった……その剣裸だよな?」


「あ、はい。これは知り合いの鉄作成魔法の剣なんですよ」


「なるほどな。じゃあそれも預けてくれないか? 綺麗にして返すぜ」


「えっ? いいんですか? 本当になにからなにまで……」


「いいからいいから。じゃ、またなロードくん! 今日はすまなかった。そして、ありがとな!」



 ―――――――――――――――――――



 宿で部屋を借り、久し振りに椅子に座った。

 安い宿だったがそこそこ広く、綺麗な部屋だった。

 だが、はっきり言って部屋の内装など正直どうでもいい。


 問題は……レヴィと同じ部屋で寝なければならないということだ。

 俺の家では両親がいた部屋でレヴィに寝てもらっていたし、野営の時はあんまり深く考えていなかった。


 しかしここは密室……つまり、2人だけの空間。

 やはり意識せずにはいられない。

 そんなドキドキしている俺とは対照的に、レヴィは何も気にする様子がなく、淡々と荷物の整理を始めていた。

 心を落ち着かせる為、俺も荷物の整理に取り掛かる。


「ロード様」


「ひゃいっ!?」


 不意に名を呼ばれ、変な声が出てしまった……。


「どうされました?」


「い、いや何でもない」


「お風呂が沸きましたので、お先にどうぞお入り下さい」


 いやだからいつの間に?

 まぁ、気持ちを落ち着かせるにはいいかもしれない。


「あ、ああ。分かった」


 やっぱりいつものレヴィだ。

 変に緊張したら逆におかしいし、少し冷静になろう。



 ―――――――――――――――――――



 身体を洗いながら今日あったことを思い出す。

 今日も色々あった。

 初めてのドラゴンとの戦闘や、ソロモン、トライデントなど、相変わらず盛り沢山だ。

 ハガーさんとも仲良くなれたし、ガガンさんの顔に泥を塗ることにならなくてよかった。

 しかもいきなりBランクに上がるなんて……。

 

「ひゃあっ!?」


 俺の背中にいきなり何かが触れた。


「ロード様、落ち着いて下さい」


「なっ、ちょっ、なにしてっ!?」


 驚いて振り返った俺の目に、布1枚で身体を隠すレヴィが立っていた。

 いや、全然隠れてない。

 というか隠す気がない。


「もちろんお背中をお流しに」


 しまった。

 心を落ち着かせようと必死で、全く気がつかなかった……。


「い、いやっ! 自分でっ!」


「いえ、今度は逃がしません」


 いきなり背後からレヴィにぎゅっと抱きしめられ、あまりの驚きに俺は身動きが取れなくなった。

 心臓が痛い。でも、嫌な痛みじゃない。

 肌と肌が触れ合い、一切の雑音が彼方に消えた空間で、レヴィの鼓動だけが俺の耳に届いていた。

 それは、鏡越しに見える冷静な表情とは裏腹に、激しく高鳴る鼓動の音。

 俺と同じ……。


「因みに申し上げておきますが、こんなことをしたのは初めてですから」


「レヴィ……」


 先程までの冷静な表情は崩さずに、しかしながらレヴィの褐色の頬は赤く染まっていた。


「正直に申し上げると、自分でもよく分かりません。ですが……ロード様にこうしたいのです。嫌でしたら……おっしゃって下さい」


 俺は……必要以上に距離を感じさせてしまっていたのだろうか。

 大切にしなければという思いが強すぎたのかもしれない。

 レヴィはそれを知らないし、もしかすると拒まれていると思ったのかも……。

 ごめんな……レヴィ。


「嫌じゃない」


 だからはっきり言った。

 これ以上不安にさせたら駄目だと思ったから。


「そう……ですか。なら、お許し下さい」


「許すもなにも……嬉しいよ」


 ぎゅっ、とレヴィの腕に力が入った。

 やはり不安にさせていたのだろう。

 今思えば、レヴィの行動の端々にそんな雰囲気があった。

 だから……ちゃんと伝えないと。


「俺はレヴィが大切だ。それは任されたからじゃない……俺自身が強くそう思ってる。だから、ゆっくりにしよう。急がなくても……俺はもう逃げないから」


 首に巻かれたレヴィの手を握る。

 レヴィはそれを、大事そうに両手で掴んだ。


「はい……ロード様」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る