第50話 SSランク

 

「お疲れ様。やっぱりレヴィは強いな……しかも、全然本気じゃなかったろ?」


「ありがとうございますロード様。まぁ、お相手の方も本気ではありませんでしたし、かなり油断されていましたからね。隙をついただけです」


 まぁそれもあるかもしれないが、それにしたって動きに無駄がなさ過ぎる。

 数千年の間蓄積された経験値に加え、鑑定魔法で相手の能力を看破し、さらに強靭な肉体に魔術……こう考えると隙がないな。


 敗退したチームの人達はみんな引き上げてしまったようで、Aブロックの席には俺達とエアルさんのパーティしかいない。

 たまたま目が合ったのでエアルさんに軽く会釈すると、彼女は手をヒラヒラと振って返してくれた。


 3人パーティで全員女性だ。

 まだBランクらしいが、Aランク冒険者を相手取り無傷で勝ったということから実力は相当高いことが分かる。


『では続きましてBブロックの代表者の皆様! 決闘場にお上がり下さい!』


 後ろに座っていたBブロックの人達がぞろぞろと決闘場に向かって移動を始めた。

 さて、次はどんな人達が……。


「よお、探す手間が省けたぜ」


 その声に驚き振り返ると、そこによく知った顔があった。


「フウロ……」


「昨日は舐めた真似してくれたな。絶対に許さねぇ……無能のくせに冒険者の真似事なんざしやがって。てめぇの化けの皮を剥いでやるから……楽しみにしてな」


「フウロ俺は……」


「黙れ。無能のくせにAランク? 俺達より上だと……? ふざけやがって詐欺野郎が……覚悟しておけ! 見てろ……一瞬で終わらしてやる。俺が最強なんだよ!」


 そう吐き捨てると、フウロは決闘場へと向かっていった。

 そうか、フウロも参加していたのか……。


「ロード様……」


「ああ……やるしかないらしいな」



 ―――――――――――――――――――



 あの夜……あいつに邪魔をされた後、俺達はすぐその場を離れて家へと戻った。


 イライラする俺にスカイが情報誌を渡してきやがったからそれを見ると、そこにあいつの名前が載ってやがった。

 しかもAランクだぁ? ふざけんな!

 スカイが「まさかあの野郎だとは思わなかった」だのなんだの言ってやがったが、そんなことはどうでもいい。


 何がスーパールーキーだ! 何が英雄だ!

 俺だって……俺だって二つ名持ちに会ってさえいれば……!

 そもそもあいつの力じゃねぇだろ!

 きっとあの女の力を借りてるだけだ。

 あいつは無能なんだよ!


 スカしたつらして人を騙して……許さねぇ。

 決勝トーナメントでボロボロにしてやる。

 失格にならねぇように程々にいたぶって……あの頃みたいに……!


『それでは間も無く試合開始です!』


 まずはBブロックを速攻で終わらせてやる。

 一瞬だ。

 全員纏めて吹き飛ばして、誰が本物か見せつけてやるぜ!



 ―――――――――――――――――――



『こ、これは驚きだァッ! あっという間に終わってしまったぞォッー! な、何が起こったんだァ!?』


『ほー……やるねぇ……』


『か、勝ち上がったのは唯一攻撃を耐えた初出場のレバノン選手と、一瞬で全ての冒険者を吹き飛ばした……グラウディ選手だァッー!』


『まぁしゃーないな。グラウディは今大会唯一のSSランク冒険者……さすがに格が違う。むしろレバノンはよく耐えたよ』


「レヴィ……」


「ええ、とんでもない使い手ですね。まさかあれ程とは思いませんでした」


 一瞬だった。

 グラウディさんはSSランク、その為ほとんど全員に目を付けられていた。

 しかし、彼はわざわざ決闘場の中央に立った。まるで全員まとめてかかって来いとでも言わんばかりに。

 そして試合が始まった瞬間、レバノンさん以外は全員決闘場から吹き飛んでいたという訳だ。


「彼の魔法は重力魔法……レベルは100です。自分以外の重力の向きを変え、それにより全員を弾き飛ばしてしまいました。場外なら負けというこのルールでは……」


「どうするかな……あ、っていうかフウロ……」


「壁に激突して気絶しているようですね。頭から出血も見られますし……大丈夫ですかね?」


 死屍累々となった場外には、倒れた選手達のパーティがそれぞれ仲間の下に集まっている。

 キャシーやダン達が倒れているフウロに呼び掛けるが、結局目を覚ますことはなく、担架に乗せられてそのまま通路に消えていった。


 そんな中、悠然とBブロックの席に帰ってくるグラウディさんと目が合った。

 その鋭い眼光はまるで獣のようで、そのせいか無造作に伸びた黒い髪が獅子のたてがみのように見える。

 また、黒い口当てで鼻から下が覆われていることによりその眼光がより強調されていた。

 黒い包帯を幾重にも巻いたような服を纏い、腰巻には2本の直剣がぶら下がっている。


「よぉ、お友達を吹っ飛ばしちまって悪かったな。まぁ仲良くはなさそうだったが」


「あ、いえ……試合ですから……」


「ああいった奴は嫌いでね。身の程を知らねぇのは罪だ。じゃ、決勝で」


「は、はい」


 まさか話し掛けられるとは思っておらず、少し驚いたが……悪い人ではなさそうだ。

 それにしてもあの魔法は強過ぎるだろ。

 Bランクのレバノンさんは棘魔法の使い手で、身体から生やした棘を使い、決闘場に自分を固定して難を逃れていた。

 もしかするとレバノンさんは最初からグラウディさんの魔法を知っていたのかもしれないな。

 グラウディさんの行動から何が起こるかを察して対応した可能性はある。

 まぁ、これはあくまで俺の推察だが。

 

 とにかく、反撃するにはあの魔法を攻略しないとならない。

 まぁグラウディさんと当たるかは分からないが、勝ち進んでいけばその可能性は高いだろう。


「レヴィ、重力魔法は制限とかあるのか?」


「ええ、特徴を書き出しますのでお待ちを……」


 先に能力が分かれば対処法もあるだろう。

 かなり強力な相手だが、必ず突破口はある筈だ。


「あー死ぬかと思った……」


「レバノン大丈夫!?」


「なんとかな……けど、決勝進出だぞ!」


「さすがリーダー!」


「はっはっは! まぁ、ラッキーというかなんというか……でも、やっぱり祭りは楽しんだもん勝ちさ!」


 楽しんだもん勝ちか……。

 確かにそうだよな。


『それでは続きましてCブロックの代表者の方、どうぞ決闘場へお上がり下さい!』


「レヴィ、ここからもよく見といてくれ」


「ええ、お任せ下さい」


「ただ、楽しもう。これは祭りなんだからさ」


「ふふ、そうですね」



 ―――――――――――――――――――



「うぐっ……な、なんだ……頭が痛ぇ……」


「あ、フウロ! 大丈夫……?」


「キャシー……? ここは……いったい何が……」


「あのね……フウロは……その……」


「負けたんだよお前」


 は?

 俺が……負けた?


「ダン!」


「なんだよ……だって本当じゃねぇか。あっさり負けたんだよフウロは。まぁ相手はSSランク冒険者だし仕方ねぇよ。さぁ、さっさと帰ろうぜ。俺たち以外の負けた奴らはもうみんな帰っちまったしな」


「そうそうー負けちゃったものは仕方ないよー。相手は強いし、運が悪かったねー。次がんばろー」


「プルルも……!」


 おいおいおいおいおいおいおい……。

 あの無能が決勝トーナメント進出で、俺が予選敗退……?

 ははっ……なんだよそれ……。


「ふざけんな……俺は帰らねぇぞ」


「フウロ……」


「じゃあどうすんだよ? ロードの応援でもすんのかぁ?」


「ダンてめぇ……殺されてぇか……!」


「やめなよ2人とも! フウロ、もう帰ろ? ね?」


「駄目だ! ダン……てめぇだってあの野郎にやられたままでいいのかよ!? このまま帰ったら……あの無能に俺達は負けたことになるんだぞ!? いいのかよお前らそれで!」


「っていうか……あいつって本当に無能なのか?」


 は?

 な、何言ってんだこいつ……。

 無能は一生無能に決まってんだろ……そうに決まってる!


「当たり前だろ! 何言ってんだ今更! どうせあの女の力かなんかを使って冒険者ごっこをしてやがるんだ! そんなことよりいいのかよ!? あんなインチキ野郎に負けたままで!」


「そりゃやり返してーけど……どうすんだよ? この大会には敗者復活戦なんてねーぞ?」


「俺に考えがある……スカイ、お前の魔法の出番だ」


「俺の? あーなるほどね。でもそれバレたら……」


「クハハ……手段は選ばねぇ……あの無能を潰す。分かったなお前ら! まさか嫌だとか言わねぇよなぁ?」


 俺の言葉に全員が無言で頷く。

 それでいいんだよ……!

 お前らは俺の付属品なんだからな。

 黙って俺に従ってりゃいいんだ。


「見てろよ……あいつは無能なんだ。みんな騙されてんだよ……化けの皮を剝がしてやる!」

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