無能と呼ばれた俺、４つの力を得る

第21話 依頼

「はい……ロードさんはまだ冒険者になったばかりなので、一番下のＤランクです。だから今回の地域依頼は受注出来ないんですよ」

「冒険者にもランクが出来たのですか。知りませんでした」

「え？　昔は無かったのか？」

「ええ、冒険者ギルドはありましたが、特にそういった規定は無かったかと」

「む、昔って……？」

「あ、いや、こっちの話だ。冒険者ランクのことをすっかり忘れてたなぁ。すまないんだが、分かりやすく冒険者ランクと依頼について教えてもらってもいいかな？　俺も曖昧だからさ」

　一応勇者を目指していたので基礎的なモンスターの知識や、冒険者ギルドについてはある程度情報はあった。

　だが少し記憶が曖昧になっていたのでこの機会に聞いておこう。

「あ、はい！　ではまず冒険者ランクから……」

　―――――――――――――――――――

　冒険者ランク。

　無謀な依頼に挑む冒険者を止める為に作られた、所謂（いわゆる）冒険者の強さを表す指標である。

　【Ｄ】から【ＳＳＳ】ランクにまで分類され、その頂点が勇者と呼ばれる。

　依頼をこなすことでランクが上がり、徐々にランクアップに必要な依頼数や難易度が上昇していく。

　稀ではあるが、低ランクの冒険者が偶然高ランクの依頼を達成した場合には、それだけで高ランクが与えられる場合もある。

　依頼。

　依頼にも様々な種類があり、支部依頼、地域依頼、国家依頼、世界依頼の４種類に分かれる。

　依頼ごとにランクが設定されており、そのランクを持った冒険者が依頼を受注出来る。

　支部依頼以外を総称して共有依頼と言う。

　支部依頼は、文字通りその支部のみで受け付けている依頼である。

　簡単な依頼が多く、その支部近辺での採取や弱い魔物の討伐依頼が大半を占め、その為大体はどんなランクの冒険者でも受けることが出来る。

　地域依頼とは、依頼を受けた支部に常駐している冒険者では達成が困難とギルドマスターが判断した場合、他支部にも依頼を出すこと指す。

　強力な魔物が現れた場合は、まず間違いなく地域依頼となる。

　依頼対象地域や討伐対象の強さにもよるが、基本的にＢランク以上の冒険者でないと受けることは出来ない。

　国家依頼は地域依頼を出して尚、依頼が達成されなかった場合に国中の支部に通達される依頼を指す。

　当然難易度が高く、これを受注出来る冒険者はＡランク以上と決められている。

　世界依頼は国の垣根を超え、全世界の支部に依頼が載る程の超高難易度の依頼を指す。

　達成出来る者が少なく、また緊急性や危険度が非常に高い場合に出されることが多い。

　一握りのＳＳランク以上の冒険者のみが依頼を受けることが出来る、まさに究極の依頼と言えるだろう。

　ただし、補助役としてならば、Ｓランク冒険者の同行が許されている。

　――――――――――――――――――

「以上です」

「なるほど。よく分かりました」

「うーん参ったな……バルムンクは待っちゃくれないぞ」

　偶然を装って黙って行っちゃおうかな。

　でも角が立っても嫌だしなぁ……。

「こればっかりは決まり事なので……」

「待て」

　受付の奥からぬっと大男が現れる。

　なんか既視感が……。

「あ、ガガン様」

「特別推薦依頼を俺が出せば問題ない。行ってこいロード」

　特別推薦依頼？

　聞いたことないが……。

「ガガン様それ……いいんですか？」

「ロードが失敗する未来が見えん。それに、仮にそうなっても俺の首が飛ぶだけよ。別に構いやしねぇさ」

「えっ？　ガガンさんそれってどういう……？」

「特別推薦依頼はギルドマスターが持つ権限だ。所属する冒険者が低ランクながら、高ランクの依頼を達成出来ると判断した場合に出せるんだ。まさに、今みたいにな。ま、しくじれば俺の責任になるって訳よ。冒険者を無闇に危険な目に遭わせたってな」

「そんな……いいんですか？」

「構わねぇ構わねぇ！　むしろそれくらいさせろや。詫びも礼も出来てねぇんだからよ。お前はこんなところにいる器じゃねぇ。必ず世界で通用する冒険者になる。今度ばかりは……節穴じゃねぇ」

「ガガンさん……」

　ガガンさんはエリーに指示し依頼書を用意させると、サラサラっと署名して判を押した。

　それを俺に渡すと、眉を下げてニッと微笑んだ。

「これくらいしか出来ねぇ俺を許してくれ。また町に戻った時、お前に貰った恩を返させてくれよな」

「いえ、十分頂きましたよ。ありがとうございますガガンさん」

　そう言うと、頭を光らせ彼はがははと笑った。

　―――――――――――――――――――

　家に戻る道すがら、旅の準備をする為に商店通りに足を運ぶ。

　もう俺を嫌な目で見る者は誰もおらず、皆一様に頭を下げたり、声をかけたりしてくれていた。

　いつも食材を買っていた店で今日の晩飯と日持ちする食料を買い込む。

　選んだ食材を運ぶと、店主のおじさんが買っていないものまで袋に詰め始めた。

「お、おじさんそれは……」

「俺にっ……俺に出来る罪滅ぼしはっ……これしかないんだ！　頼むから食ってくれっ……！　すまんっ……すまんっ……！！」

　涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で必死に食料を袋に詰め込む姿を見て、なんだか俺まで泣けてきた。

「おじさん……」

「金はいらねぇっ……頼むっ……クズみてぇな俺を許してくれっ……！」

「もう……十分です。それに、なんだかんだいって俺に買い物させてくれたじゃないですか」

　その言葉でおじさんは地面に崩れ落ちる。

　肩を震わせ、ひたすら子供のように泣きじゃくるおじさんは、ずっと謝罪と感謝を口にしていた。

　その後も、旅に必要なテントやランタン、その他雑貨を買う為に店を回る。

　その行く先々で、町の人々は謝罪と感謝を俺に繰り返した。

　そして、誰１人俺からお代を受け取ろうとはせず、俺もその気持ちに甘えることにした。

　―――――――――――――――――――

　買い物を終えて家に着くと、玄関の前に多くの人が立っていた。

　親方を始め、一緒に働いていた同僚達だ。

　既に傷は良くなっているようで安心したが、なんでみんなここに……？

「親方……みんなもどうし……」

　みんなの前に立ちそう言い掛けると、彼らは俺の声を合図にしたかのように一斉に膝を突き頭を下げた。

「ちょっ……！」

「俺達は君を苦しめた。いや……苦しめたなんて生ぬるい言葉じゃ表現出来ない程の地獄だ……！　無能だから何してもいいなんて……そんな考えがおかしかったんだ。俺達はやっちゃいけないことを君にした。なのに……君はっ……お、俺達をっ！　ゆ、許すと言ってくれたっ……！　そ、それだけじゃない……命までっ……！　こんな俺達の命まで助けてっ……もうどうやって恩を返したらいいのかっ！　どう償いをしていいか……分からねぇ……！」

「親方……」

　親方は声を震わす。

　共に頭を下げる彼らも肩を震わせていた。

　今日１日で何度謝られただろう。

　今日１日で何度感謝されただろう。

　その全てが俺の３年間を消していった。

「ロードぐんごべんっ！　ありがどゔっ……！」

「ロードくんのおかげでまた……娘に会えだっ……ああっ……俺はっ！　ロードくんに酷いことしたのにっ！！　ロードくんごめんっ……！！」

「ロードくんはこんなにいい人なのにっ……俺は……申し訳ないっ……！」

　みんなが心から謝り、後悔し、感謝をしてくれているように感じた。

　俺はその度に、込み上げる感情を抑えられなかった。

「親方、みなさん……ありがとう……ございます。もう、いいんです。だって、分かり合えたじゃ……ないですかっ……！」

「ロードくんっ……！」

　もう十分、俺は幸せだ。

　ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ロード様、今日も……いい１日でしたね」

「……ああ。本当にいい１日だった」

　旅の支度をしながら、俺達は２人で笑い合う。

　この町でやることは終わった。

　クラウンさんとの約束は、意味が一つ加わったが必ず成し遂げる。

「ふぅ、終わりましたね。ロード様、紅茶をお淹れしましょうか？」

「ああ、頼むよレヴィ。一緒に飲もう」

「はい……では、お待ち下さい」

　旅の支度を終え、俺は椅子に座る。

　俺はレヴィを待つ間、黒い手帳を眺めていた。

　輝くページは１０枚に増え、新たな仲間を俺に示してくれている。

　次はどんな人だろう。

　今から会うのが楽しみだ。

「あ、バルムンクに報告しておかないとな」

　俺はバルムンクを呼び出し、彼女に生命を与えた。

　黒い光の中から彼女が姿を現す。

「ワイバーンだっけ？　歯応えがあるといいなぁ」

「全部聞いてたか。まぁ明日から旅立つよ。１週間くらいかかっちゃうけどね」

「戦えればそれでいいわよ。それにしてもさ……あんたって本当にお人好しね」

　口には出さないが、そう言う彼女の目は赤い。

　バルムンクは素直じゃないんだな。

「まぁ……そうかもな」

「ま、いいけどさ別に。あんたの人生だしね。私はあんたに身体を貰ったし、あんたの為に戦ってあげるわ。よろしくね、ロード」

「こっちこそよろしくなバルムンク。頼りにさせてもらうよ」

「ドラゴンなら任せなさい。一瞬で真っ二つにしてやるわ。ふふふ……」

　綺麗な顔でまぁ……なんて邪悪な笑顔をするのだろうか。

　バルムンクが楽しそうだからまぁいいか。

「あら？　いらしてたのですねバルムンク様」

「やっほー。ん、それが紅茶ね？　あたしも貰おうかしら」

「はい、かしこまりました」

「ありがとうレヴィ。で、ロードあんたさぁ……」

「な、なんだよ……」

　俺達は紅茶を飲みながら夜の会話を楽しんだ。

　明日は旅立ちの日。

　いったいどんな旅になるのだろう。

　色々大変なことも多いかもしれない。

　でもきっと、それと同じくらい楽しいこともある筈だ。

「あんた聞いてるの！？」

「聞いてるよ！」

「ふふ……なんだか楽しいですね」

　ほら、きっと大丈夫だ。