第25話 過去
ヒストリア冒険者ギルドの中はイストと同じような作りだったがかなり広い。
受付嬢や冒険者の数も比較にならない程多く、やはり大量の依頼が舞い込んでいるみたいだ。
「いらっしゃーい。何かご依頼かしら?」
大きく胸元の開いた服を着た受付嬢がひらひらと手を振っている。かなり美人のお姉さんだった。
どうやら依頼者だと思われているらしい。
メイド姿のレヴィを連れていてはそう思われても仕方がないだろう。
「こんにちは。ロードといいますが、ワイバーン討伐依頼を受けてきました」
「あ! ごめんなさい冒険者さんだったのね。メイドさん付きだから、てっきりどこかのボンボンかと思ったわ。私はランナ。よろしくねロードくん。それじゃ、ギルドカードと依頼書を見せてもらってもいいかしら?」
ギルドカードは
俺のギルドカードには大きく【D】と書かれており、それが俺のランクを表している。
手のひらサイズのそれは硬い材質で出来ており、かなり頑丈に作られている。
過酷な旅路や戦闘などで破損しないように、というギルド側の配慮らしい。
ギルドカードとガガンさんから貰った特別推薦依頼書をランナさんに渡す。
それを交互に見てランナさんは少し驚いているようだ。
「あら、特別推薦依頼書じゃない。優秀なのねあなた。これなかなか出ないのよー。ギルドマスターさんもよっぽど自信がないと出せないから。じゃ、手続きしちゃうから待っててねん」
やっぱりそうなのか。
ガガンさんには感謝しないとならないし、顔に泥を塗る訳にはいかないな。
「はい、これで受注完了よ。あとこれ、依頼の資料ね」
彼女から依頼受注証等を受け取る際、一つ気になっていたことを聞いてみた。
「この依頼を受けてる人ってどれくらいいます?」
「ん、そうねぇ……ちょっと待ってね。えーっと、あなたを入れて……20組くらいかしら」
20組!?
そんなにいるのか。
こりゃのんびりしてられないな。
「報酬もいいし、国が早く解決するように通達を出してるから結構増えたのよ。中には腕のいい人もいたから……急いだ方がいいかもねん」
「ありがとうございますランナさん。じゃ、行ってきます」
「気をつけてね。ルーキーさんっ!」
手を振る彼女に別れを告げて、ギルドを後にした。
昼の12時か……とりあえず目撃現場付近に行ってみるか。
「レヴィ、早速目撃現場に行こう。のんびりしてたらバルムンクに怒られそうだ」
「そうですね。歩いて行かれますか?」
「うん。彼の力を借りよう」
―――――――――――――――――――
「ロ、ロード様っ……! 重くないですかっ!?」
「軽いよレヴィは。それに、いくらレヴィでもこの速さにはついてこられないだろ?」
俺は右手にブリューナクを持ち、背中にレヴィを乗せて走っていた。
ブリューナクの力があれば、山肌すらスイスイと登ることが出来る。
山道をすっ飛ばし、目撃情報があった山小屋へと駆け上がっていった。
「レ、レヴィ……もうちょっと離れても大丈夫……」
「い、いや……身体をくっ付けていないと……」
それ目当てではもちろんないのだが、背中にさっきからアレが当たっている。
ふ、不可抗力だから仕方ないんだけど……。
「あ、ロード様あそこで……あら」
中腹にある山小屋の前に大勢の冒険者達の姿があった。
20組のうちほとんどが集まっている様で、数十人がその場にいた。
「やっぱりみんな集まるんだな」
「まぁ情報もそんなに多くないですしね。他に行きますか?」
「そうだなぁ。バルムンクを呼んで……」
「お前らこんなとこに来たら危ねぇぞー。一般人は帰んなよ」
集まっていた冒険者に声をかけられた。
やっぱり一般人に見えるらしい。
鎧でも着ようかな……。
「あ、いや、冒険者なんですよ」
「あ、そうなのか? 悪りぃ悪りぃ……見かけない顔だったからよ」
「確かにあんまり見ねー顔だな。ランクは?」
「まだ成り立てで……」
「おいおいDランクか? Bランクの依頼だぞこれ」
「一応、特別推薦依頼を受けて来たんです」
「マジかよ? どこのだ?」
大勢に詰め寄られ矢継ぎ早に質問されてしまった。
参ったな……黙っていた方がよかったかもしれない。
「えーっと、イストの……」
「あーガガンか。あいつも落ちたもんだよな。あんな端っこの町に追いやられてよ」
「え?」
どうやらガガンさんは有名らしい。
しかし、落ちたとはどういう……。
「なんだ知らねーのか? あいつは優秀な冒険者でよ、二つ名が確か……"粉砕のガガン"だったかな? 結構でかい町のギルドマスターだったんだよ。でも、あるミスをしてからはあっという間に落ちてな。それで地方に飛ばされちまった訳だ」
そんなことがあったのは知らなかった。
ガガンさんも大変だったんだな……。
「しっかしいくら評価が欲しいからってDランクを送り込むとは……自分で来る勇気はないのかね」
「確かにね。情けない男になっちゃったわねぇ」
「まぁ元々そういう奴だったって訳だ」
次々にガガンさんの悪口が飛び交う。
ガガンさんはそんな人じゃない。
「それは違います……ガガンさんは情けなくなんかない」
町を守る為に大汗をかいて一生懸命頑張っていた。
そんな人を馬鹿にするのは許せない。
「はは……Dランクが一丁前にキレてんじゃねーよ。つか、お前に何が出来んだよ? 悪いことは言わねーから帰んなよ」
「あのガガンの推薦だろ? あいつの目、節穴だからなぁ」
「ガガンさんは節穴なんかじゃ……!」
「あいつのミスを教えてやろうか? 大怪我させたんだよ冒険者を。お前みたいに特別推薦依頼でな」
「え……?」
「だから言ったろ? 帰れってさ」
「よくまた特別推薦を出せたよな。しっかもこんなDランクのガキによ」
「最初からそのつもりだったりして〜。よかったねボク? 死ぬ前に気づいてさ」
集まった冒険者達が一斉に笑い始めた。
俺のことはいい。
だが、俺を信じてくれたガガンさんを侮辱することは許せない。
「ガガンさんは……そんな人じゃない」
「へぇ……ならどっちが先に依頼を達成するか勝負しようぜ。負けた方が勝った方の言うことを一つなんでも聞く。どうだやるか?」
勝負なんかしたくないが、ここで逃げれば俺だけじゃなくまたガガンさんが馬鹿にされてしまう。
受けるしかない。
「分かりました」
「ふはっ! 本気かよ? 俺ら全員対お前らだぞ?」
「構いません」
ガガンさんを馬鹿にされたまま引き下がれない。
きっと特別推薦依頼にはトラウマがあった筈なのに、それでも俺達の為に出してくれた。
こんなことを言われるのは分かっていただろう。
だから、絶対に応えないと。
「勇ましいこったなぁ。じゃ、今から開始だ。よーいスタート!」
冒険者達は、山小屋に数人を残し一斉に散らばった。
人海戦術で先に見つけるつもりだろう。
まぁ、当然そうだろうな。
「ロード様、急ぎましょう」
「ごめんなレヴィ……俺は……」
冷静じゃなかった。
冷静になれなかった。
でも……。
「私でもきっと同じことを言いました。彼はヴァンデミオンの名付け親ですからね。私だって頭にきてますよ?」
ニコッと笑うレヴィ。
その笑顔のおかげでちょっと落ち着いた。
「ありがとなレヴィ……よし、バルムンク!」
彼女を呼び出し生命魔法をかける。
三度現れた彼女は、出てくるなりクンクンと匂いを嗅いでいる。
「バルムンク実は……」
「話は聞いてる。ちょっと集中するから黙って」
そう言うと彼女は再び匂いを嗅ぎ始める。
するとある一定の方向で彼女の動きが止まった。
「こっち……ドラゴンの匂いがする」
「分かるのか?」
「ふふふ……あたしが何匹ドラゴンを倒したか教えてあげましょうか?」
「いや、いい……信じる」
「よろしい。黙ってついて来なさい」
俺達は彼女に続いて山道を走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます