第57話 休息

 

「バ、バーンさん!?」


「ノックはしたんだぜ……?」


「す、すいません。返事がなくてつい……えへへ」


 ぜ、全然気付かなかった……。

 バーンさんもアリスさんも顔がニヤけている。

 恥ずかしい……。


「ま、元気そうで何よりだ。俺達はもう行くから、最後に挨拶しとこうと思ってな」


「え……も、もう行っちゃうんですか?」


 もっと色々話をしたかったんだが……まぁ忙しいだろうし仕方ないか……。


「ああ。面倒だけど招集がかかってんだよ。もうすぐオリンポス会談があるからな」


「あ、今年開かれるんですね。知らなかった」


 オリンポス会談は数年に一度行われるもので、世界中の王達が集まり世界の様々なことを話し合う会議のことだ。

 名前の由来はそのまんまで、5大国家の1つであるオリンポスで行われるから。

 オリンポスはヴァルハラ大陸の中央にある為、毎回そこで開催されることになっている。

 まぁ中央にあるからってのは建前で、ヴァルハラにおいて最強の国であるオリンポスにみんな気を遣っているってのが昔からの噂だけど。


「その会談にバーンさん達も参加するんですか?」


「私達は護衛の為に集まるよう言われているんですよ。私達だけじゃなく、今回は全てのSSSランク冒険者が呼ばれているんです。あとSSランク冒険者もかなり……確か、グラウディさんも呼ばれてましたね。これはかなり強制力の強い特別指令みたいなもので、簡単には拒否できないものなんです」


 SSランクがかなり……しかもSSSランクが全員?

 想像するだけで恐ろしいな……。

 しかし、いくら世界中の王達が集まるとはいえ過剰過ぎないか?

 各国の王達も護衛を引き連れてくるだろうし、そこまでしなくてもいいような気もするが……。


「まぁそういうこった。この後ニーベルグお抱えの転移魔法使いの力でオリンポスに移動した後、会談までニーベルグ王の護衛って訳だ。ニーベルグ王自身は嫌いじゃねぇが、束縛されるのが嫌いなんだよなぁ。まぁ、この間もラトビアの国王が暗殺されちまったから、念には念をってことらしい。奴らこのタイミングに動き出しやがって……ったくめんどくせぇ……」


「あ、暗殺……? 奴ら?」


「ん、知らないのか? "ティタノマキア"って名乗っている、今再び世界を騒がせてる暗殺ギルドだ。賞金首名簿ブラックリストの最上級、世界に数えるほどしかいないSSSランクに名を連ねる厄介な奴らだよ。数年前から急に姿を現した奴らは、小国から大国の貴族や王族、豪商や有名な軍人など、世界の要人を次々に暗殺している。しかしその素性も、何故そんなことを繰り返すのかも一切不明……分かっているのは奴らが少数精鋭で、それぞれがかなりの使い手ってことだけだ。この間暗殺されたラトビア王も、Sランククラスの軍人を筆頭にかなりの人数が警護に当たっていたが、そのほとんどが殺されたって話だ。何人か生き残りはいたらしいが、未だに怯えてろくに話もできないらしい。ここ数ヶ月はおとなしかったんだがな……」


 ティタノマキア……そんな奴らが……。

 それに、そんなことがあったなんて知らなかった。

 最近立て続けに色々あったからな……もう少し世間のことを知っておかないとまずいかもしれない。

 無能と呼ばれる人に関することも色々情報があるだろうし。


「そんな奴らが活動を開始しているのにオリンポス会談は行われるのですか? まぁバーン様を含め、SSSランクの方々がいらっしゃるのならば問題ないのでしょうが……」


「最善を考えるなら中止にするべきだがな。しかし、それは世界に不安を与えることになる。ティタノマキアに世界がビビってる……ってな」


 確かにここでオリンポス会談を中止にしたら、最近再び活動を始めたティタノマキアに怯えて中止したように映るだろうな。

 それは、平和な今の世界に人々の不安という大きな亀裂を入れることになる。


 そういった亀裂がいくつも出来てしまえば、やがてその平和が瓦解してしまうことにも繋がりかねない。

 ティタノマキアがいかに強大な力を持っているとはいえ、一暗殺ギルドに世界が怯える姿を見せる訳にはいかないってとこか。


「って、話が逸れたな……まぁ、とにかくそんな訳で俺らはもう行くけど、お前らはこれからどうするんだ?」


「そうですね……少し休養を取りながら、この町で他にも無能と呼ばれる人がいないか探すつもりです」


「そうか分かった。何か新しいことが分かったら連絡をくれ。さて、それじゃ……」


 その時部屋の扉がノックされ、返事をするとグラウディさんが顔を出す。

 手を上げるその仕草で、俺が怪我をさせた肩はもう治っていることが分かり安心した。


「グラウディさんまで……どうしたんですか?」


「いや、俺もう出発するから一応挨拶に来たんだよ。お前動けなさそうだったし。てか……バーンさんなんでここに?」


「ははっ……お前と同じだよ」


「ふっ、なるほど……バーンさんもでしたか。さて、じゃぁなロード。なんかあったら連絡してくれや。暫くは自由に動けねぇが、必ず力になるからよ」


「ロード、グラウディには俺から話しとくわ」


「な、なんの話ですか?」


「後でな。つーかお前はさっさと魔力を回復しやがれ!」


「んな無茶な! すぐには無理ですよ!」


「ロードくんまたねっ!」


「あははっ! みなさんまた! ありがとうございました!」



 ―――――――――――――――――――――



「レヴィ……マジか?」


「マジです」


「本当にここ?」


「ここですね。間違いなく」


 今俺の目の前には巨大な門がある。

 四方を高い塀に囲まれ中は見えないが、それだけでとんでもない家を貰ったのだと理解出来た。

 そして、それが大会優勝の副賞だという。

 優勝賞金の何倍あるんだこれは……。


「なんか悪いな……そのうち出て行くのに……」


 契約書を確認したが絶対住まなければいけないという規約はなく、誰かに貸しても構わないとのことだった。

 ただし貸す場合は無償で、さらに売却は禁止されている。

 つまりこの建物を使い利益を上げることが駄目だという訳だ。


「まぁせっかく頂いたものですし、活用させてもらいましょう。ただ、1つ残念なことが……」


「どうしたレヴィ?」


「この家……新築っ……!」


「……残念だったね。とりあえず入ろう」


「ロード様……ちょっと冷たくありません?」


 馬鹿でかい門を通り中に入ると、芝生が綺麗に整えられた庭が広がり、レンガで作られた道の先に白を基調とした2階建ての家が建っていた。


「おおー! なんかもっと大きいのを想像してたけど……」


「建物は丁度いいサイズですね。お庭を広くしている訳ですか」


 家の中に入り、2人で次々に部屋を見て回る。

 当然どの部屋にも既に家具が置かれており、そのどれもが高そうだ。

 その後、とりあえずリビングに座り、レヴィの淹れてくれた紅茶を飲みながら一息ついた。


「レヴィの紅茶を飲むとやっぱり落ち着くな」


「ふふ、よかったです。ニーベルグに着いてからは、息つく暇もありませんでしたからね」


 確かにこの2日間は色々あり過ぎた。

 終わってみればあっという間だったが……。


「ま、少し休もう。寝れば魔力も回復するしな」


「はい。体調を崩しては元も子もありませんから」


「明日は武具達の為に使おうかな。町を歩いて情報収集も兼ねてさ」


「いいですね。この町は広いですし、きっと皆様が望むものがある筈です」


「デュランダルとグングニルにお礼も言いたいし……あ、ソロモンとの約束もあったな……」


「ふふっ、結局明日も忙しくなりそうですね」


 こうしてニーベルグに着いてから、ようやく俺達はゆっくりと眠りについたのだった。

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