夜の銀ヶ岳
発見
「……すごく、不気味」
うっそうとした木々に囲まれて、私はつぶやいた。
山奥に足を踏みいれた瞬間、右も左もわからなくなる。山の深部は危険、という七星さんの言葉が、私をぶるぶるっとふるわせる。
「ん、にゃぉ」
ボス猫さんの声はすぐとなりから聞こえる。見失うことがないよう、ゆっくり横を歩いてくれている。……ずっと、イケメンさんだ。
「樹ちゃん! 返事をしてっ!」
声を張りあげても、音が地面や木に吸いこまれて消えていく。ガァ、ガァ……と、カラスの鳴き声の方がよく聞こえる。
……日が沈みはじめている。ほおを冷たい汗が伝った。
ボスネコさんといっしょの私でも、こんなに心細いんだ。飛びだした樹ちゃんは、私よりもずっと孤独なはず。
早く、見つけなきゃ。早く、早く……!
「……つく姉ちゃん?」
聞きなれた呼び方に、ふりむく。
泥だらけの樹ちゃんが、大樹にもたれて座っていた。ヘアゴムが外れたせいで、髪の毛があちこち飛びはねている。
「樹ちゃん!」
草をかき分けて、私は樹ちゃんのもとにたどりつく。
「つく姉ちゃん、来てくれたんだ……」
安心しきって、私と目を合わせる樹ちゃんに……
パチンッ! と、平手打ちをした。
「樹ちゃんの、ばかっ! 勝手にこんなところまで来て、こんなに心配させて!」
「え……」
コマコちゃんが心配だっていう気持ちも、じっとしていられない気持ちも、わかる。樹ちゃんがいなかった私が、そうだったから。
でも……でも!
「ひとりで行かないでよ。どうして私を……家族を、頼ってくれないのっ?」
「つく姉ちゃん……」
怒りが引いて、いまになって樹ちゃんに会えた安心感に満たされる。へなへなと、力が抜けてしまう。
たおれそうな私を、樹ちゃんが支えてくれた。
「ごめんなさい。勝手なことして、つく姉ちゃんまで危ない目に合わせた」
「そうだよ。みんな心配しているんだから、学園に戻らなきゃ」
「うん。……でも、しばらく動けないんだ」
「どうして? もしかして、ケガでもしたのっ?」
樹ちゃんは人差し指とくちびるを重ねて、しずかに、とジェスチャーを送る。
樹ちゃんが横を指差す。……体を丸めて目を閉じている、ぶち模様のネコがいた。
「コマコちゃん! 見つかったんだ……!」
小声で言うと、樹ちゃんはうなずいた。
「やっぱり山の中にいたんだけど、かなり弱っている。意識がもうろうとしていて、動かすと危険なんだ。少し回復するまで、動けないんだ……」
「そっか」
音を立てないようにそろそろ歩いて、樹ちゃんのとなりにすとんと座る。
「それじゃあ、コマコちゃんが目をさますまでの間、ちょっとだけふたりきり、だね」
「……うん」
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