ひとりと一匹の捜索隊

 銀ヶ岳に到着した私を待っていたのは……でっぷりと貫禄がある、一匹のネコだった。


「……あなた、ボスネコさん?」


「なぁ、ご」


 落ち着きはらった鳴き声で、返事をしてくれたみたい。


「樹ちゃん見なかったかな? この間、商店街の裏路地でお話しした男の子!」


 息も絶え絶えに話しかけると、ボスネコさんは私を肉球でたたく。


「にゃぅ、ごろっ」


「へ……?」


 ボスネコさんは登山道の入り口まで駆けて、ふりかえる。


「ついてこい、ってこと? 樹ちゃんの居場所、わかるの?」


「ん、な」


 こっくり、うなずいたように見える。……私は樹ちゃんみたいに、ボスネコさんの言葉はわからない。ただのかんちがいかもしれない。


 それでも、いまは悩んでいるヒマもない。


「つ、ついていきます!」


 ぐっとにぎり拳を作ると、ボスネコさんが牙をむき出しにする。……笑ったのかな?


 ボスネコさんはちゃかちゃかと道を登って、私はその尻尾を追いかけていく。


「はぁ、ひぃ、ふへぇ……」


 体力だって平均な私には、ちょっとしんどい。私が追いつくまで待ってくれるボスネコさんが、心なしか呆れた表情をしている……。


 ぐいっと汗をぬぐって、顔を上げる。


 樹ちゃんのところに行くまでは、止まらない! その気持ちだけで一歩ずつ、登っていく。


 休憩スポットまで来たとき、ボスネコさんがフェンスにぽっかり空いた穴をじっと見ていた。小柄な人だったら通ることのできる大きさだ。


 ボスネコさんは迷わず穴に飛びこむと、地面に落ちていたヘアゴムをくわえた。


「あ……!」


 さぁっと血の気が引く。このヘアゴムは、私が樹ちゃんの髪をまとめてあげるときに使っているものだ。


「樹ちゃんは、この先に入っていったんだ……!」


 どうしても、足がすくんでしまう。ここから先は、ピクニックで行きなれた山じゃない。危険ととなりあわせの、別世界だ。


 すぅ、はぁ……と、深呼吸をしてから、覚悟を決める。


 パチン! ほおを手で叩いて、私はフェンスをくぐった。

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